第178話 微かな共通点
そんなわけで紅緒永遠と時間を作って話をするっていうクラス委員長業務の一環というか延長というか?そんな仕事が増えた。
紅緒さんは昼はなんか用事があるとかで教室には居ない。
だから俺は仙道(くん付けは互いにやめた)かそれに青井、伊勢さんを加えた4人でお弁当を食べてる。
青井は柔道部に決めたって。先輩めっちゃ強い!って喜んでいた。良いね!
伊勢さんはショッピングモールの隅っこに自分のセンスにどストライクな服を扱う店を見つけたらしく今日も行くって言ってた。
今日も紅緒さんと、放課後に話をする。
紅緒さんにせがまれるまま、この日は子供の頃の話。
気弱だった自分の話、あっちゃんに出会って変わった話、宏介の話。…2人に誘われて行ったクリスマスパーティーの話。…5年生の頃出会った…ある完璧女子の話をした。
紅緒さんは、小学生の頃から綺麗で男の子に人気で女の子には避けられていたって話。両親に溺愛されてて紅緒さんも両親が大好きな話。
パパが会社経営してて従業員の人たちにも可愛がってもらってるって話。
こいつもお嬢様か…。
俺の友達の話を受けて…今は疎遠になってしまったが…親友が居た話…。
小5の冬に倒れる前までの話を聞いたんだ。
紅緒『もう少ししたら倒れた小5の頃の話…聞いて貰ってもいいかしら?』
『うん、聞くよ。
…でも、辛いようなら無理しなくていいよ?』
紅緒『ありがと。
…しかし、立花くんの小学生の頃の話を聞いてていかに人間の集団が政治的というか…パワーゲーム?結構人の思惑で動いているのか…勉強になるわ…。』
そんな事言ってたら中学生編なんて…。
まあそう思うけどそれはまた別話だよね。
紅緒『私、最近まで1人で過ごすか家族とだけ過ごしてたから集団生活って概念を忘れちゃってたみたい。気付かされたわ。
それがわかっただけでも収穫よね?』
(話聞く限り小学生で学校に通ってる頃からあまりその概念無かったんじゃ?)
って思ったけどそれは言わない。
…俺がぼっち気味でかなり観察してたから気付けた部分が多いよね。
思いの外楽しかったのか、紅緒さんは上機嫌。
…この娘ニコニコしてると本当に花が咲いたような周りを華やかな雰囲気にする。
…黙ってれば香椎さん位美人なのに…惜しいよね。
今日俺が感じたことは、
紅緒さんは人との会話に飢えていること。
自身の病気?臓器?の不安を聞いて欲しいような?聞いて欲しく無いような?
そんな感じ。
俺が違和感を感じたのは、
話す時間が長くなりすぎちゃってクラス委員長業務の一環である提出物の役割分担と俺との話の小学校最後のあっちゃんの転校後の話は明日にしよっか?って話した時。
紅緒『!
ううん、今日最後まで決めてしまおう?
話も最後まで聞かないと気持ち悪いわ。』
別に期限の無い決め事だし、キリがいいからって無理して話をしなきゃならない程の話じゃ…?
紅緒『私は大丈夫!ね?今日出来る事は今日しなきゃでしょ?』
紅緒さんに押し切られて、決め事と話を最後までした。
この娘はせっかちだなぁ。
帰り道そう思った。
紅緒さんは家すぐそこだけど俺は結構かかるんだよ?
高飛車で世間知らずでせっかちで隙の多い…
でも一生懸命で勉強家で美人な事を自覚してるけど美人な事をそんなに誇りに思って無い所は少し香椎さんに似てるかも。
変な子だよなあ。そうひとりで呟いて帰った。
数日たった。
毎日を過ごす。
高校生活も少し慣れてきた。
すっかり、毎日の習慣になった朝は青井、伊勢さんと登校、昼は仙道と隔日で青井、伊勢さんと。
放課後は青井は部活。伊勢さんは友達と遊んで帰るから仙道と遊ぶか…。
迷うと紅緒さんが、やってきて…みたいな感じで話す事が増えた。
俺の話をせがまれるまま、中学生編の序盤まで語らせられる。
香椎さんの話しは少しぼかしながら話す。
いちいち紅緒さんは、
『えー?ピンチじゃない!』
『…その状況…こないだの私?』
『…だから助けてくれたの?』
『…!なんで!そんな一方的にくびなんて!』
『立花くん!そんな危ないわよ!』
リアクションしながら聞いてくれる。
自分が過ごせなかった代償行為なのかな?
紅緒さんは中学校生活のこと、特に最初の望んで無いのにクラス委員長にさせられた話からいじめられて、その後gw前に首になったくだりが気になる模様。同じようなシチュエーションだもんね。
それから香椎さんのことを根掘り葉掘り。
…香椎さんどうしてるかなぁ。
『違うの!クラス委員長として!クラス委員長として参考になるからよ!』
『その娘…すごい娘なのね…』
『…解決してくれたんだもん…絶対気になっちゃうんじゃない?…私だったら…うん。』
『…良いなあ…。』
赤くなったり青くなったり紅緒さんの表情はクルクル回る。
笑って、怒って、悲しんで。少し慣れてきたのかころころよく笑い、緊張の取れた優しい表情をしている事が増えた。
そうゆう表情してればもっと自然な人気が得られるのに惜しい子だよ。
そう思うけど、他人には身構えちゃうんだよ。
人のこと言えないけどね。
でも、紅緒さんは倒れたって小5以降の話をする事は無かった。
その日、俺が違和感を感じたのは最近毎日話をするようになって、互いのことが理解し始めたからだと思う。
担任の先生が社会科の先生の為、社会科準備室に居る事が多い。その日の放課後は2人で社会科準備室へ向かったんだ。
社会科準備室は社会科教室の隣で、
(社会科教室って一体何をする場所?)
って思ってた。理科室や美術室と違って特別に何かをする為でないスペース。大型ビジョンと長机と椅子が1クラス分置いてあって、後方に書籍が少ししか無い。教室で足りるような?序盤の見学時そう思った覚えがある。
場所も
特別教室棟の4階の真ん中。用事が無ければまず来ない場所。
俺たちの1-4は仮設校舎1階の為割と距離は近いけど4階上がるのは地味に大変。
急いで上がると軽く息が切れそう。
担任に用事があるから紅緒さんと一緒に行く。
紅緒さんが束ねた提出書類を2つ持って4階へ上がる。
紅緒『…4階もあるならエレベーターつければ良いのに…。』
紅緒さんは文句を言う。
ふふ。俺は笑いながら書類をふた束取り上げる。
たかが四階じゃない。ゆっくり行こう。
3階までくると、紅緒さんは立ち止まる。
紅緒『ふー。私体力無いのよ…。』
そう言えば女子が言ってた、
紅緒さんは基本体育休んでるんだって。
体力が無い。病弱。小5で倒れて高1まで不登校。
考えてみればかなり特殊な経歴だよね…。
紅緒『…急激に血圧の上がる運動は医師から止められてるのよね…。』
深呼吸しながら、苦笑いする紅緒さん。
!!!
俺にとっては聞き覚えのあるワード!
体力?入院?血圧?
色んな事がパチリとハマる。
俺は動揺を隠して聞いてみる。
違ってたら良い…違ってる方が良い。
『…じゃあ、もしかして?
30分以上の有酸素運動も先生に止められてたり…?』
紅緒さんはビックリしながら聞き返す、
紅緒『え?!
なんで知ってるの?私話したっけ…?』
『はは、なんとなく?
ほらあっちに綺麗な鳥居るよ。』
紅緒『景色とか見るなら4階の方が見晴らし良いでしょ。
行こうよ。』
『まあまあ、息入れて!
おばあちゃん無理しないで?』
紅緒『おばあちゃんじゃねえよ!』
ふたりで笑って社会科準備室の担任の所へ向かう。
笑いながら俺の胸は早鐘の様に忙しく動悸が収まらない。
倒れて何年も入退院、中学校生活を丸々棒に振る。
初めて見るほどの色白、驚くほどの世間知らず。
そこまでさせる程の病気?臓器の機能不全?
自分の仮説に息を呑む。
俺の予測が当たってたら、この子は多分ひーちゃんと同じか似たなにか。
ひーちゃんと同じ心臓の疾患?不全?ほぼ似た症状、気配。
もちろん素人の推理だから外れてるかも。
この娘の姿は…俺の弟の…ひーちゃんの未来の姿なんじゃ無いか?!
もし、もしひーちゃんの心臓の爆弾が…
紅緒『どうしたの?そんな真剣に見つめて?
…やっと私の魅力に気づいた?』
俺はまじまじ見てたのか、はにかみながら微笑むこの娘の苦労を、経験を、俺は聞きたいし教えて欲しい。
注意点を、工夫を、予防策を…。
『…うん、紅緒さんの事をもっと知りたいって思う。
知ればもっと出来ること、フォロー出来る事柄が増えるだろうし…。』
俺はぼんやり思考しながら適当に相槌をいれる。
紅緒『え?!
…私のこと知りたいって?!…どうしたの?急に。
…立花くんは、そうゆうのじゃ…ないって…。』
真っ赤になりながら、あたふたしてる。
担任の用事を済ませて4階の景色を2人で見ながら話す。
眼下に広がる田園風景、線路、まっすぐ田んぼを貫く道路の線を見ながら考える。
紅緒さんがもじもじしてるのを視野の隅に入れながら、病気の事ってどう尋ねたら良いんだろう?傷つけ無い様に聞けばそんな事を思いながら一緒に教室へ帰ったんだ。
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