第144話 初めてのけんか【side香椎玲奈】

テストも返却が終わり、今日で2学期は終了。冬休みを経て、いよいよ受験シーズンが近づく。

今日は12月23日。明日はクリスマスイブ!クラスのみんなもバタバタ気忙しい。

期末テストで今更変わることはないけど今の調子、状態が出る。余裕ある者、焦る者、それは人それぞれ。


冬休みは短い割にクリスマスやお正月とイベントも多く本来楽しいシーズンだが悲しいかな受験生。

皆いつもより勉強多めで過ごすことだろうなあ。


私も、もちろんそうだ。県内最難関の天月と県高を受けるからには油断は出来ない!

でもね?少し位楽しみがあったって良いよね?



私はお料理が趣味なんだよ。

前に承くんに振る舞ったことあるけど美味しい美味しいって食べてくれて私はすっごく嬉しくてきゅーんってしたことがある。

私は費用や手間の見返りなんて全然要らない!

…でも…もし?もし美味しかったらね?

美味しいよ!って喜んでくれたらすっごい嬉しい!

それだけで私の方がお礼を言いたくなるほど嬉しくなっちゃう!


それでね?

前に承くんが言ってた。

クリスマスは承くんのおかあさんが仕事休んでケーキと唐揚げをいっぱい作ってお祝いして家族でパーティなんだって!

うちもクリスマスケーキと唐揚げだよ!って話したなあ。

第111話 発覚 参照



それでね?私考えたんだ!

私が唐揚げとクリスマスケーキを作ったらどうかな?!

うちも唐揚げとケーキ作るから一緒に作るだけ!って言えば抵抗感も少ないはず!


そうしたら承くんママは久しぶりの休みにひーちゃんや望ちゃんとの時間が取れるし、メインが出来てれば、お料理もちょっとで済むだろうし休めるかも。

もし美味しかったら承くんが褒めてくれたら私は何も要らないし!

どうかな?悪くないと思うんだ!

日頃のお礼、特に2学期は本当に承くんに救われた。ささやかなお返しがしたいよ!



そう思って、2日前からプロトタイプのケーキと唐揚げをママのアドバイス貰いながら作ったよ!

結構美味しく出来てね?ママやお姉ちゃんも美味しい!って言ってくれた!

あとは本番用を見た目追求して仕上げるよ!


試作品は昨日、今日のおかずとパパのお弁当になったんだけど、



『娘の手作りお弁当!』


って喜んでた。

ごめんねパパ、その唐揚げは承くんの為の試作品なんだ。

パパはママラブ!娘ラブ!な人だから私が好きな男の子に手料理を気合い入れて作ってるって知ったらショック受けちゃいそう!言わないけどね?




本当はクリスマスプレゼント交換とか出来たら良いんだけど美術室に入れなくなってから承くんとは話せて無いし、承くんはスマホ無いから連絡しようも無い。

急に家に訪ねていくのもなんか変だし…。

私は終業式の放課後様子を見てから先回りして承くんの家の入り口が見える十字路で待つことにしたよ。



流石に12月は寒い。寒いこと想定して暖かい格好だけど屋外に居続けるのは辛い。

(承くん、喜んでくれるかな?ビックリしちゃうかな?

…家族に言うのが恥ずかしいから…とか断られたらどうしよー!)



1人で寒々しい所に居ると気が滅入るのか思考もマイナスになっちゃう…。


妄想しよう…。


⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

もうちょっと未来、ひとり暮らしを始めて…お互いの家を行き来しちゃって…ふふー!


クリスマス豪華なディナーも良いけど怜奈の作るご飯が1番うまい!とか?言われちゃってー?




怜奈『承くん?唐揚げ美味しい?』


4.5年後位の私は胸とかバインバインになって、くびれも出来てすごいはず…

承くんも逞しいイケメンになってて…


『美味しいよ!ご飯おかわり!』


『この後ケーキもあるんだよ?

これ位にしておいたら?』


そう言いながら、ニッコニコでご飯をよそう私。

ガッツいて食べる承くんを見てると嬉しくてたまらない…!


『ご飯3杯位ならケーキ余裕!』


『もー!お腹痛くなっても知らないよー?』


ケーキも2切れペロリと平らげて私も承くんもニコニコ♪


『はらぺこさんはおなかいっぱいになったかな?』


『美味しかった!怜奈のご飯が1番うまい!


…でもまだメインディッシュが残っているよ?』


洗い物をする私に承くんは後ろから抱きしめて私のバインバインをもて遊ぶよ…


『承くん!片付けが…


あ…ダメ…あ…あぁん…ダメだよぅ…

もう、しょうがないなぁ…ぁ!』



カメラが引いてキャンドルを写す…

⭐︎ ⭐︎ ⭐︎

三回戦まで進んだところ(攻守逆転)で承くんが帰って来た!すごかったよ!


12:30くらいかな?待ったのは30分も無かったね。


承くんが私に気づく、駆け寄ってきてくれたよ!



『香椎さん!こんな寒いのに、どうしたの?!

俺を待ってたの?なんで?

身体冷えちゃうよ!家に寄る?』


(承くんのおうち!良い!でも今日は帰って明日の準備したいし!)



ううん、ここで良いよ!

あのね?前に承くんの家は唐揚げとクリスマスケーキでクリスマスを祝うって聞いたけど、私の家もそうなんだ!

…だからね?良かったら私が承くんの家の分も作ろうか?どうかな?って提案したんだよ。





…あれ?

ノーリアクション?


私は慌てて補足する、最初に考えてた、

うちも唐揚げとケーキ作るから一緒に作るだけ!

そうしたら承くんママは久しぶりの休みにひーちゃんや望ちゃんとの時間が取れるし、メインが出来てれば、お料理もちょっとで済むだろうし休めるかも。

もし美味しかったら承くんが褒めてくれたら私は何も要らないし!

どうかな?悪くないと思うんだ!



私はこの提案のメリットを承くんに説明する。

承くんに美味しいって言わせたい私の下心は透けて見えるかもだけど…。

でもみんなにメリットのある提案だよ!



⬜︎ ⬜︎ ⬜︎ ⬜︎

初めてのけんか 


『…いや、いいよ。』


香椎さんのクリスマスに唐揚げとケーキを作ってくれるって提案は嬉しいよ?

でもさ、母さんだってもう色々用意してるし、望もひーちゃんも母さんのご馳走でクリスマスを本当に楽しみにしてるし。


香椎さんは伺うように聞いてくる、


『作ってもいい?…のかな?』


言い方悪かったかな?でも言いにくいなあ。


『作らなくてもいい。って言ったの。』


なんで苛立つのだろう?

好きな娘がご馳走作ってくれるのに?



え?なんで?って顔をしながら、


『別に制作費とかいらないし?

一緒に作るだけだから!

…それとも食べたくない?私の作った唐揚げやケーキ嫌だったかな?

ごめんね、迷惑だった?』


香椎さんはしょんぼりしながら謝る、


『そんなこと無い、食べたいけど…』


俺は自分のモヤモヤが言語化できなくてイライラする。



『なんで?じゃあ良いでしょ?別にお金要らないよ?』


香椎さんは見返りなんか求めないよ!

私の作る唐揚げとケーキ絶対美味しいから!って自信が透けて見える。急に来てなんなの?

あとなんか同情されてるのかな?ひーちゃんの医療費でうちにお金が無いって知ってるから?

自分の中のコンプレックスみたいなものが急に刺激された。

自分の中の暗いもの、あまり人に見せたく無い嫌な部分。

口にしちゃいけない。わかってる、



『…迷惑って言うか…俺になにか同情してるから唐揚げやケーキ作ってくれるの?』


『そんなこと無いよ!』


香椎さんは頭が回るから即答するけど、それすら本当はそう思ってるから即答したんじゃ無い?って自分の中の嫌な部分が囁く。


『急に人の家来てさ、明日のクリスマスイブのご馳走うちの分も作るよ!って何?

バカにしてんの?


うちは香椎さんちみたいにお金無いよ。だから香椎さんちみたいにきっと高い食材も、高いプレゼントも無い。

でも母さんが一生懸命作るご馳走を俺も望もひーちゃんも楽しみにしてる!

家族でささやかだけどクリスマスプレゼント用意しあってうちにはうちのクリスマスがあるんだよ!』



うちと香椎さんちは違うって言うつもりが口から出た言葉は思いのほか強かった、思ってるより暗い気持ちが強いみたい、



『べ、別にバカにしたつもりは…』


もごもご歯切れが悪い、


『とにかく、うちのご馳走だって俺も望もひーちゃんも大好きなんだよ、なんか否定されたみたいで嫌だな…。』



『そんなつもりじゃ…ただ喜んで欲しくて…。』


『クリスマスなんて皆んな幸せな嬉しいイベントでしょ?余計なことだよ。』



『確かに急な提案だったかもだけど…そこまで言わなくて良いでしょ?』


『なんて言えば良かったの?』


『もう!いいよ!』


『なんだよ!バカにして!』


『承くんがそんなこと言うなんて思わなかった!』


『俺だって香椎さんがそんな無神経だなんて知らなかった!』


『…。』


数秒見つめあうとふたり同時に顔を背けた。

香椎さんはちょっと泣いていた。

しまった!と思うが遅かった。

香椎さんはすごい勢いで走って帰っていった。



家に帰ると祖父祖母しか居ない、せっかく早く帰って来たから昼を食べたらひーちゃんを託児所に迎えに行こう。

明日はクリスマス。ひーちゃんも望も楽しみにしてる。


でも俺は気が重かった。。香椎さんに嫌なこと言ってしまった。

クリスマスなのに香椎さん…いや玲奈さんに悲しい気持ちにさせちゃったな…。

そんな苦い気持ちで昼を済ませてひーちゃんを迎えに行った。

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