第140話 寝耳に水

玲奈さんと下校して楽しい気分で家に帰る。


光『にーちゃあ!おかえりー!』


承『ただいま、ひーちゃん!』


抱きつきひーちゃんに頬擦りして家に入り、荷物を下ろし、ジャージに着替える。

あれ?望帰ってるのに居なかったな?



ひーちゃんが託児所での出来事を話してくれるので居間でニコニコ聞いてると、




望『ただいま。』


承『おかえりー!どうしたん?!』


玄関に迎えに出ると望の後ろに宏介と伊勢さんが居る?どうした?



承『なんか珍しい組み合わせ!上がって!』


すると、望が言いにくそうに、


望『えーと、兄ちゃん怒らないで聞いて?』


これ絶対怒らなきゃいけないパターンのやつ!


承『内容次第だけど、人を傷つけたり、汚いことをしたり、犯罪じゃなきゃ怒らないよ?』


後ろで宏介と伊勢さんがあちゃー!って顔してる?


今は18:30夕飯の時間だし、明日じゃダメ?


すると宏介が躊躇いがちに説明を始めた。


うんうん、望が変装して?外町をあの河川敷公園へ呼び出して?落とし穴に落として?色々心をへし折って?土下座させて謝罪させた?

何それ?



???


え?もう一回良い?



うん、ちょっと何言ってるかわからない?



宏介『…で、どうしても聞かないから俺見張り半分、何かあれば俺が防ぐつもりで立ち会った…。』


俺は腹が立った、


承『そうゆう事しちゃいけないって教えるのが兄の仕事なんじゃないの?

宏介なんで俺に言ってくれてくれなかったの?』


宏介『…すまない。』 


一瞬腹を立てたがきっと望が無理を言って宏介を巻き込んだんだろう。

外町とトラブルが多い俺を心配して半分、望が心配で半分じゃないかな。


承『宏介はまた後日話すよ。望がごめん。でも宏介甘やかさないでな?』


宏介は申し訳なさそうに頷く。



承『で、伊勢さんは何で?』


伊勢『屁理屈だけどさ?立花が他人に言っちゃダメって言ったけどあーしも辛くてポロっと妹だからって望ちゃんにあの立花と外町の動画見せちゃったんだ。

で、この動画で外町をギャフンって言わせる予定だったんだけど…。』



ギャフンって…。


承『伊勢さんまで巻き込んで!外町に怪我させたんじゃ無いだろうな?、!

もしそうゆうトラブルになって1番辛いのは俺たちより父さんと母さんだぞ!望!わかってるの!』



望は小さくなって項垂れる。


伊勢『外町が落とし穴に落ちるとき歯をぶつけて、3本折れた。

でも歯はくっつくかも?

後は望ちゃんが木刀で威嚇して鼻を掠めた位?

…フライパンで8発位殴ったかなあ?』



承『望!お前そんなことを!!』


伊勢『望ちゃんじゃないの!フライパンはあたしがやったの…。』


かばってるのか?と思ったがそうではないみたい?


一応流れをもう一度聞きながらずっと望を見つめるが一向に目が合わない。



伊勢『望ちゃんもお兄ちゃんに怒られると小さくなってるんだね?』


宏介『違うよ、承はね、怒るとすごく怖いんだ。』


伊勢『えー?そうなの?』


宏介『望が言ってた、昔承を本当に怒らせて4時間説教されたらしいよ?』


聞こえてるけど、今はそれどころでは無い。


ふたりはくれぐれも望だけの責任じゃ無いから怒らないで(怒りすぎないで)って言い残して帰っていった。






さて。



承『…望?わかってるよな?』


望は頷く。


じゃ、夕飯食べてからな。



きっと、俺が外町に酷いことされた!って義憤に駆られて暴発したんだろう。

それでもやって良いことと悪いことがあるよ。

罠に嵌めて、プライバシーを抜き取って、外町のプライドを傷付けて、怪我させて。もし訴えられたらこっちはどうしようもない。

父さんと母さんに迷惑がかかる。


夕飯をじいちゃんばあちゃんと3兄弟で食べてから、望を自室(共有)へ連れて行く。




もう一度望の口から流れを聞く。

もう終わったこととはいえ酷い、酷すぎる。

もう一度宏介と伊勢さんから事情を詳しく聞く必要がある。

それでもまずは主犯の望だ。


当たり前のこと、人を傷つけちゃいけない、卑怯な事をしちゃいけない、危険な事をしちゃいけない、人に迷惑をかけるな、犯罪ダメ絶対。そんな話を1時間ほどする。望は項垂れて相槌をうつだけ。



父さん、母さんが順番に帰ってくる。

おかえりって出迎えて、不審がられないよう話して続き。

望は自室へ戻りたがらない。

無言で引っ張っていく。




続ける。

今回の事のリスクの話、

外町が訴え出て大事になるかもしれない事、最悪だけど傷害で逮捕(補導)の可能性、学校で問題になり停学の可能性、その余波で将来の進学などで不利になる可能性の話。

もちろん襲撃時だって、返り討ちにあって大怪我や、それこそ女の子なんだから性被害だって、そのまま監禁されて…とか想像しただけで身震いしちゃう様な怖い事を淡々と挙げていく。この辺でも1時間使った。


話に笑いは無い、淡々と事務的に。

それでも根本にあるのは望が大事で心配だよってこと。

望がみんなを愛してる様にみんなも望を愛していてこんな犯罪的な事、リスクのある事をして欲しく無いって事を話す。



もうそろそろ3時間になるか、


承『結局、兄ちゃんは望が大事だから、

望が人を傷付けるのも傷付けられるのも見たくないよ。』


あれこれ誰に言われたんだっけ?香椎さんだ。

青井との対決前に言われたっけなあ。まさか同じばしょで妹が不倶戴天の外町とバトルするとはなあ。


そう言いながら、キュッと望を抱き締めて頭を撫でる。

なんのかんの甘えん坊な妹はこの3時間突き離されてた時間はこたえたはず。

俺の為にこんなことをさせたんだと思うと俺が謝りたい位。

でもこんな事を2度もされては困る、鬼になって叱らなきゃ。

これだけ話せばわかってくれるだろう?

あとはどんな代償を払っても大事にしない。それだけ。

俺に出来ることはなんでもする。


後は、望が思ってることを聞いてあげないと。



承『じゃあ、兄ちゃんの説教はおしまい。望も何か考えや許せない事があってやったんだろ?

言ってみな。もしくは何か兄ちゃんに言いたいんだろ?』



望『いいの?言っても?


あたしね、兄ちゃんの良さがわかるけど、世間一般の格好良いとは違うと思うの。』


お、おう…。

いきなりの妹による世間一般では兄ちゃんは格好良く無いってダメ出しにちょっと傷付く。


望『読む漫画もやるゲームも漢くさいの三昧だし?あたしは慣れてるけど女の子ウケしないよ。

でも香椎先輩はそんな兄ちゃんの良さをわかってくれてた。

あたし嬉しかったんだ。』



承『…。』


望『だから、釣り合わないって思いつつ兄ちゃんとうまく行くといいなあって思ってて。

でもね、香椎先輩はあたしにもすっごく優しくって、年下だからって軽く見ないで話聞いてくれたり、アイス奢ってくれたり、お下がりくれたり、テニス教えてくれたり、気づいたらすっごい大好きになっていたの。』



承『香椎さんらしいね。』



望『あたしもあんな風になりたいなって尊敬してて。

でも、あの外町があたしが前に悪口を広めたって兄ちゃんに難癖つけて、土下座させて、香椎先輩に告白して付き合うなって誓わせて…。


あたしのせいで兄ちゃんと香椎先輩が結ばれないって思ったらもうどうしていいかわからなくって…。』


そう言うと、望は泣き出した。

声を殺してすすり泣く。そんな妹の頭を撫でてやるしか出来なくて。


2分くらい泣いていたのかな?

続けた、



望『あたしは香椎先輩だったらあたしのお姉ちゃんになっても良い。

いや、なって欲しかった。

だから、土下座動画見た直後から香椎先輩が兄ちゃんに告白してくれたら良いって思って動いたの。』



それは知らなかった!

文化祭前頃か?それだと…。


望『そしたらね、全然兄ちゃんの話に反応しないどころか迷惑そうでね、ロミオを愛するとかわけわからんこと言って!

あのロミジュリ見ればもう外町の女だってわかった!』


望がキレ始めた。


望『リハ見た後、やっぱそんなリアクションだから罵って走って逃げたけども。

でも、これも外町のせいだって思ったらもう待った無し!だったんだ。

兄ちゃんに迷惑かけたりみんなを危険に晒す事少し頭をよぎった。

でもやってしまった。

兄ちゃん、本当にごめんなさい…。』



もう一度泣き出す望、今度は声を出してえんえん泣いてた。

そっかあ、兄ちゃんだけじゃなく、香椎さんもとられたって思って暴走しちゃったんだな。


やったことは認められないけど望なりの動機あって暴発したのだな。

妙に納得してしまう。

明日を思うと気が重い、それでどうなるかもわからないけど明日学校へ行かなきゃわからない。



望『…兄ちゃん、あんまり聞きたく無いかもだけどさ…。


いや、やめとく。』


いや、それはダメでしょ?

そこまで話したなら言わなきゃ!



望『…外町落とし穴に落として脅してた時に言ってたんだけど…


香椎先輩…外町と付き合って…やったって…。』



ふぁでぃでぃす?

(これは何ですか?)



望『外町は嘘つきだけど女性経験豊富そうでロミジュリのあの感じだと納得だよ。

だからさ、兄ちゃん?聞いてる?』



なんか頭真っ白。

そんなわけないでしょ?外町がそう言ったの?

まあ客観的に見て香椎さんの証言の方が信用性高いでしょ?



望『伊勢先輩良いんじゃない?

だってかなり美人で兄ちゃん信頼してるし、おっぱいすごいよ!

知ってる?おっぱい揉むとすっごいエッロい声出すんだよ!

聞いてる?』




いやいや、香椎さんに限って…。

俺は望に説明する。

香椎さんの女優癖、小幡さんとの勝負で俺が全力でやってって指示したこと、もう話し合って元通りの関係性だって。だからジュリエットだった頃と違うって!



望『まあ、外町は嘘つきだけれども。


だからリハの日邪険だったのに文化祭二日目は話しかけてきたのか。

…でもさ、また起こるかもじゃん?同じ事。

それにさ、仮にだよ


あたしの彼氏が居たとして、俳優癖がある。芝居バカ。

で、その芝居の時期邪険に扱われて、他の女の子と手を繋いで名前呼びしてるの密かに見ちゃって、劇が終わって元通り!

あの女の子?芝居のヒロインだからだよ!今は関係無いよ!って言われて。


あたしが彼氏俳優癖あるから!彼女とは何も無いんだって!って元鞘に戻るって言ったら兄ちゃん止めない?』



承『…止める。』



望『ほら!

ね?成実ちゃんにしたら?

女の子は取り繕う為なら何とでも男を言いくるめられるよ!

香椎先輩ほどの才女なら純朴な兄ちゃんなんて三国志5の軍師に隣接した張飛みたいなもんで混乱、伏兵、同士討ちで何もさせてもらえずに全滅だよ?』


張飛強いんだけどね…シリーズによっては不遇なの。


おっぱい先輩→成実先輩→成実ちゃん。短期間でずいぶん近くなったんだなあ。

思っても居ない方向に話は流れる。

そして望の香椎さんに対する思いが裏返ってとんでもなく拒否反応示してる…。


俺は香椎さんを信じてる。だからドキッとして心臓がイキかけたけどもう大丈夫。一度信じるって言ったからには信じる!


明日の登校気が重い。

外町にどうゆう態度で接したら良いのだろうか?

それと、朝4時起きで妹と公園の落とし穴埋めに行かなきゃ。




⬜︎ ⬜︎ ⬜︎

承くんが落とし穴事件の事を知りました。

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