第134話 僕の欲しいもの【side外町和也】

僕は子供の頃親父の転勤で引っ越してきたこの町が嫌い。

田舎で、ダサくて、人の距離が近くって、発売日に売ってないもの多いし、不便だし、そこに慣れた自分に嫌悪感がある。


そんな僕が唯一この街で欲しいのは香椎玲奈。

完璧女子の異名を持つ、間違いなく学校一の美人、清楚で可憐。文武両道、気配り、品、多才に加えてかなりのプロポーション。お父さんは会社経営してて実家も太い。



ただ意味わからないのは玲奈さんはいつもクラスメイトに注力して意味の無い陰キャに気を遣ったり、不登校のやつのケアをしたり、みんな仲良く!とか本気で思ってたり世間しらずのお嬢様だなって感じる。

クラスメイトなんて一時のことだし、そもそも他人のことでクラス委員長だからってそこまでクラスの運営に心を砕くのが優秀だけどバカなところがあって可愛いと思ってしまう。

もし付き合うようになったら絶対そんなことはやめさせるけど。



さて、子供の頃から好きでなんとか向こうから告らせたいのだがなかなかうまくいかない。

中学生になり、中学の間学級委員長を一緒にやって距離を縮め、ライバルになりそうな奴は叩き、香椎さんの彼氏候補は実質僕位と思っていた。

しかし、どうも立花を気に入っているらしい?中1で一回しっかり叩いたんだがまた玲奈さんと一緒にいるところをたまに見かける。


今年に入り、玲奈さんが立花を修学旅行の班に指名したり、マラソン大会で優勝したり、玲奈さんと立花の距離が近くてイラついていた。

2学期思い切って発想を変えて玲奈さんにダメージを与えてそれを救うという逆転の発想と工夫を凝らしたアイディアを思いつき実行した。

思ったより上手く行って玲奈さんがハブられ、俺が助けて好感度を稼ぐという流れがまさかの立花が玲奈さんを救い、体育祭も勝つというわけわからん展開になり立花の一人勝ちという結果に僕は憎しみが隠せない。

僕が苦労して陥れたのに何もしてないお前がヒーローみたいに活躍してヒロインを救う?本当に卑怯でずる賢い自分本位な奴だと思った。

どれだけ俺が愛してる玲奈さんを苦労して陥れて、周りに干渉してハブらせて、あの泣き顔を作り出したと!それを…

玲奈さんの泣き顔も笑顔も僕に向けられるべきものでお前の為なんかじゃ決して無い…。



しかしやっと流れが来た。

文化祭は立花の手には余り、僕に協力を持ちかけてきた!

僕はしぶり、条件を出しながら立花が不利になる条件を飲ませていった。

最終的には土下座させて、妹の嫌がらせやここまで俺の邪魔した事を詫びさせたり、一年立花から玲奈さんに告白して付きわないって誓わせた!

超気持ちよくて土下座は動画を撮った!今もたまに見てる。



事前の約束で立花はクラスメイトを散々にディスって皆から敵意を買う、玲奈さんにも噛み付かせてさらに敵を増やす予定が玲奈さんが泣き出した為に決定的に立花はクラスで立場を失い、主導権は俺に回った。



出し物は去年の眠れる森の美女で結構距離が近づいたこともあり劇を選ぶ。

今年はもっと主人公とヒロインの距離が近いロミオとジュリエットを企画して仲間に提案させてクラス出し物をそっちへ誘導した。


効果はテキメン!あんなに塩対応だった玲奈さんが一緒に下校するようになり、あんなに断られたお茶も付き合ってくれた!


セリフをきちんと覚えたり、体調に対する気配りや地味だが褒めるといった丁寧なアプローチが実った!


もう一歩進めたくて、


『香椎さん、ロミオとジュリエットはお互いに名前で呼び合っているよ?

俺たちも名前で呼び合って関係や呼び方に違和感出ない様に名前呼びしない?』



『うーん、それもそっか?良いよ。』



『玲奈さん!』


『和也くん。』



(やった!これはいける!)


僕はそっと手を握ると玲奈さんは恥ずかしそうに下を向く、僕たちは教室まで手を繋いだ!


玲奈さんは役に取り憑かれるところがあり、今回は怖いほど気合が入っている!この期間に好感度を稼ぎ、既成事実を積み上げる!

でも思っていなかったことが起きた…。

僕が玲奈さんをもっと好きになってしまった…。


好きにならせてうまくコントロールするのができる男の恋愛だと僕は思う。

なのにもう玲奈さんが好きで好きでたまらない。

僕もまだ中学生で感情の制御が甘い…。



※ここから性描写があります、ご注意ください!



そうゆう日はあの女を呼ぶ。

俺に気がある素振りがあるからこっそり口説いた。

皆には交際は秘密にしてる。

…といったていで実際はセフレ。

同級生の男子はみんな自分で慰めてるところ僕は毎日のようにこの女を好きにしていることに優越感を覚える。





『あ、あ、…ん!』


女は声を漏らす。


目を瞑って、玲奈さんを抱いてる気分で抱く。

優しく、愛情を持って、きっと経験は無いだろう。

ひょっとしたら自慰だって…。いつか僕色に染めるつもり。

※香椎さん承くんの匂いで毎回…ゲフンゲフン。


その予行練習と思って丁寧に愛を持って抱く。

一通り欲望を発散する。



『和也くん…目を瞑ってする時はすごく優しいね?』



『終わったから、帰れよ。』


『ひどい…でも照れ屋さんだもんね?

会える時はいつでも呼んでね?』


バカじゃないか?僕が女性といたす練習としてセフレとして付き合ってるのにみんなには秘密にしてる彼女って面しやがる。


(卒業式か高校に入って付き合う頃に精算しなきゃだな…。)



なんにせよもうじき憧れの香椎玲奈が手に入る!

今の好感触で文化祭の出し物で優勝できれば卒業まで待たなくて良いかも?

僕はほくそ笑む。



玲奈さんは僕と付き合ってるって噂(僕が流させた)も否定はしない。 

僕を見る目が情熱的になってきた。

僕も悔しいけど玲奈さんに夢中。

こんな文化祭の出し物なんてって思ってたけど気づけばこの1月夢中になってロミジュリの練習に明け暮れた。

僕の芝居が良いと玲奈さんが喜び、好意が強くなるのを感じる。

練習初期と今は全然違う。

これなら良い芝居ができる!玲奈さんの勝ちたいって希望を俺が叶えて、一応立花との約束も果たし?みんなにもさすが外町!って認めさせられる。


そしてリハーサル!

僕らしくも無いが興奮するほど完璧に演じることが出来た!

そして!玲奈さんの本番仕上がりは完璧!ドレス玲奈さんが美しくて、美しくて心が奪われる。

僕が熱っぽい瞳で見つめると、玲奈さんは情熱的に見つめ返す。

(この瞬間がいつまでも続けばいい…。)


リハは完璧と言って良い仕上がり!

一応玲奈さんは録画を分析して最終調整があれば本番の朝に少し訂正するかも?って言ってた。




昂ってる僕はまたあの女を呼ぶ。


『…うん…ぃいん…あ…!』


今日も目を瞑って抱く。

でも今日はちょっと荒々しいか?

あんな玲奈さんの表情を間近で見続けているとたまらなくなる時がしょっちゅうだ。



女の状態には気にもかけず俺は全て吐き出すと、すぐに女を退かす。




『…目を瞑ってすると…なんか…私を見てない気がする…

私やだな。

私を見て?私の名前呼びながらして欲しいです…』



僕はイラついた。

胸を力いっぱい掴んで乱暴に引っ張る。



『痛い!痛いよ!和也くん!

ごめんなさい!ごめんんなさいい!!』



『嫌なら別れよう。

今までありがとう、じゃあね?』



女は慌てて半泣きになりながら僕に詫びる。

こうゆうやりとり僕は結構好きなんだよね。




『ごめんなさい!ごめんなさい!

もう言いません!ごめんなさい!』



ぺこぺこ頭を下げる女の頭を撫でながら、



『ごめん、かっとなっちゃった。

僕も言いすぎたよ?

…愛してる…。』



『…和也きゅん…

しゅき。』



ちょろいな、口が固くて、見た目と体は結構レベル高いけど頭はお粗末。

でもこれくらいが一番扱いやすい。


明日の本番…玲奈さんは最高潮に仕上げてくるだろう。

玲奈さんは舞台上で煌々と輝き、そんな彼女と愛を情熱的に語り合う時間は何物にも変えられない。



明日はいよいよ本番!俺は出すもの出したので気持ちよく眠りについた。



翌日。

本番前

演者と各スタッフで円陣を組む。

控室で玲奈さんは昨日リハの分析と小さい修正点を伝達してきてる。

玲奈さんは、私はもう少し客席を意識した芝居に寄せること、僕はそのままで良いこと。ジュリエットの想いを年相応の女の子の想いで表現したいと。

きっと良い舞台になる!確信があった。




舞台が始まった。

(玲奈さん?!なんだ?!)


玲奈さんの芝居が昨日と全然違う!動きは一緒だが、今までの重厚で精密な精錬されたガラス細工のような芝居から言う通り年相応のキラキラ輝くような瑞々しい感情の迸りが奔流のように僕に向いている。

昨日までの玲奈さんは綺麗!の一言。

今日は綺麗だけでなくて可愛い!圧倒的な可愛さ!好き!大好き!ってメッセージを至近距離から全力投球!



(玲奈さん!なんて綺麗なんだ…目が離せない…可愛い、愛しい、惹かれる、言葉が尽きない…)



この視線を独り占めできることがこんなに嬉しい!

僕らしくない、でもはっきりわかる!こんなに興奮してしまう!






しかし、すぐに気づく…


(僕じゃない?僕を通して誰かを見てる?僕の後ろを見てる…?)



それでも、僕は玲奈さんから視線を外せない。

顔を背けたくても力ずくで引き寄せられる。

それだけの魅力があった。



舞台はつつがなく進行していく。


ラストシーンは怜奈さん解釈のセリフをジュリエットが呟く、



ジュリエット『ロミオ、幸せだったよ。』



ジュリエットはロミオの短剣を胸に突き立てる。

こうして舞台は幕を閉じる。



僕は信じられなくて舞台後玲奈さんに声をかける。

まさかな?僕を、僕のこと好きなはずだよな?!



できるだけ爽やかに声をかける、

『玲奈さん、お疲れ!』



『おつかれさま、、ロミジュリは終わったよ。

だからね、もう名前呼びは止めて?』


信じられない、


外町『え?』


玲奈さんは気もそぞろに、


玲奈『楽しかったね?じゃ!』


すぐに控室から出て行った!



はあああああ?!

あのくそ女!いつもこうだ!!

僕がこれだけ!こんなに愛してるのに!

それでも俺は玲奈さんを嫌いになれなかった。

なんで、なんで、なんでだ?










『痛い!痛いよ!あん!和也くん!痛い!!』



俺は乱暴にあの女を抱く。女のことなんて考慮しない。

乱暴に掴み、打ち付け、先端を捻りあげる。

その度に俺の下で女は喘ぎ、泣き、悲鳴をあげた。



一通り済むと全く目の前の女に関心がなくなる。


『ひどいよ!和也くん!』


じろりと睨むと女は黙る。


少しするとまた口を開く、


『でもロミオ役、王子様みたいですっごく格好良かったよ!

香椎さんが羨ましい…私も…。』



『お前が玲奈さんの代わりになる訳ないだろ!』



玲奈さんをバカにしやがって!

腹が立ったが今日はひどいことをした自覚があるからこれ以上は自重する。

でもなんとなく今回のことで自分が少しわかった。

僕は玲奈さんをめっちゃくちゃに傷つけて、汚して、それを癒して、綺麗にしてやりたい。

いつか結婚したらぐっちゃぐちゃにハラスメントして追い込んで、ドロドロに甘やかして僕に依存させたい。世界に僕しか居ないように仕向けたい!

これも愛なんだろう。





芝居自体は上出来で舞台は大成功。

それでも僕は不安だった。

まさかこの1ヶ月が消えないよな?ゲームみたいにリセットされないよな?

ロミオ外町和也ジュリエット香椎玲奈と過ごした日々は嘘じゃないって断言できる。

それでも胸には不安が沈澱している、表彰式は明日。

みんな僕を見ている、不安は見せられない、でも間違いなく胸の中には不安が沈澱していた。

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