第132話 互いに自分を許せない
後夜祭inグラウンドのすみ。
ベンチに座る俺と玲奈さん。周囲に人が居ないことは入念に確認した。
捕まえる時は必死だったがいざ捕まえるとなんと話し始めたものか?
『『あの!』』
二人のタイミングが重なる。これ多いよね。
『『先に…』』
ふふ!!はは!!おかしくって笑っちゃう。
いつものふたり。
『じゃあさ、今日は捕まえたから俺からで良い?』
『…うん、承くんからどうぞ?』
『玲奈さん、ごめん。
俺、3組を甘く見て勝って最優秀クラス獲ってって気軽に言った。
そんなプレッシャーかけることを、演者に無駄な圧をかけてしまった。
あと、俺、不器用で…小道具もリテイクくらったけど…3組の小道具に負けていた…あんなに玲奈さん頑張ったのに…謝ってすまないけどごめん。
何より、伊勢さんに説教されたんだ。クラスまとめる為とは言え、立花が傷付けば周りや香椎さんも傷付くって…俺そこまで考えて無くって…。
本当にごめんなさい。』
玲奈さんは途中からボロ泣き。
しばらく、泣き止むのを待つ。
『そんな、そんなことないよ!
私が、私が、私のせいで…
3組が、小幡ちゃんが強いのはわかってて、でも勝てるって思ってて…。
小道具だって…小幡ちゃんは絵がすごい上手い。時間にアドバンテージあるならそこもケアすべきだった。
3組の見て…ギリギリ勝った?って思ってて…
でも負けちゃった。
みんなに、承くんに申し訳なくって…ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…。』
泣きながらごめんなさいを連呼する憧れの娘が痛々しくて俺は慌ててフォローする。
『そんなことないよ、玲奈さんは頑張った!みんな知ってるし、誰も責めなかっただろ?先生も言ってた、必ず勝てるなんてことないんだよ!』
(まあ俺は外町に危うく戦犯にされるとこだったけど…)
『ううぅえ…ええぇん…ふえぇ…負けた私には…話しを、する、資格が、無いよぅ…。それでも厚かましいけど、聞いて…?』
泣きやまないなあ。責任感じてるんだなあ。
少し落ち着いて玲奈さんは続ける。
『みんなの敵意を煽るって策は本当に嫌!嫌だけど私がわがまま言って承くんがそれを叶えるために無理して…みんなに嫌われて…私のせいで!ごめんなさい!ごめんなさい!
でもね?そうゆう策はもうしないで?お願い!私もうわがまま言わないから!
ごめんね、これもわがままだよ。もう何を謝ればいいのか…。』
そんな謝らなくてもいいんだけどね?
俺が好きでやってることだから。
『それでね、今度は私の話を聞いてほしいの。』
佇まいを正すと、玲奈さんはもう一度目を見ながら俺に詫びた。
その上で話し始めた。ジュリエットな頃の話かな?
怖い、聞きたくないなあ。
『私ね、言い訳にもならないけど必死だった。
承くんに約束、みんなの期待、ライバルたちとの対決。絶対に絶対勝たなくちゃって。
私はジュリエットを取り込もうとして、ジュリエットに取り込まれてしまった。だから芝居しか考えなくって小道具にもリテイクを容赦なく出したし、稽古も厳しくしたよ。』
俺はうなずく、玲奈さんの女優癖知ってるしね。
『それでね…
外町くんにロミオを重ねて、ジュリエットが求めてるって、どんどん親密になっていったの。
二人で毎日一緒に帰って、なんかあればロインして、なんでも相談して。
ジュリエットがロミオに惹かれるように私はジュリエットに引っ張られてどんどんロミオ役の外町くんに惹かれていったの。』
玲奈さんの申し訳無いって口調がより効く。
知ってたけど、玲奈さんの口から聞かされるとすっごいショック…。
嫌だ、もう聞きたくないよ!でもそんなこと言えない。
最後まで漢らしく聞かなきゃ。
『帰り道、一緒にお茶して、たわいも無い話して。
噂になっても否定しないどころかロミオとジュリエットなんだから!とか言っちゃって…
それでね…。』
ここで切るの?
え?何?キス?それともその先…?
玲奈さんの罪悪感MAXな表情に俺はもうKOされそう…。
いや、俺は香椎玲奈の幸せを一番に考えられる男。
顔で笑って背中で泣いて!漢らしく好きな娘を祝福しよう。
いや、無理だ。しんどい!
『こないだね…稽古終わりに…外町くんに手を握られちゃってね、
私手を振り払うこともできたんだ。
でもね?その時はジュリエットに引っ張られて…言い訳だね、ロミオのモチベーションがとか言い訳して手を握られて受け入れた。
それでそのまま手を繋いで教室まで歩いたの…。
ううえぇ…えええぇん…ごめん、ごめんね…わたし…汚れちゃった…
わたし…本当は…承くんに…顔向け…うえぇぇぇえん…。』
玲奈さんは泣き出した。
俺もダメージでかい。
でもここで泣く?この先がある?
汚れちゃった?何があった?
頭はぐるぐる。
俺も泣きそう。
俺は動揺しながら
『11月3週の稽古終わりでしょ?
俺トイレから出たところでそれ見てた…。』
思い出して鬱な表情で玲奈さんに把握してることを伝える。
『えええ?!見てたの?!
…もう!お嫁に行けない!!』
玲奈さんはまた脱兎の如く走り出す!
10分後捕まえて戻ってきた。
もう逃げるのマジやめて欲しい…。
はあ、もう辛い。
止め刺して欲しい…。
『それで…手を繋いで…どうしたの?
クラスでは付き合い始めたって噂だけど…。』
『…手を繋いだんだよ…これは浮気だよ…。
もう私汚れちゃった…。
ごめんなさい、本当にごめんなさい。
あと!付き合って無いよ!ジュリエットの頃否定しなかったのが悪いんだけどね。
否定して回るんだけど外町くんは濁すの!やめてほしい!』
??
好きな娘が違う男と手を繋ぐ。まあもちろん不愉快だし、嫌だけども俺が彼氏じゃないんだから咎める筋でも無いし。
その頃外町が好きになりかけてたって自白も上と同じく不愉快だけども俺彼氏じゃないし。言う筋合いじゃない。
でも大体見てたけど全部隠さず自分で申告してくれて、俺すごく嬉しい。
俺知ってるのにそのこと無かった顔して普通に戻られるより断然信じられる。誠実な良い娘だなあって感心する。
玲奈さんはジュリエットの頃の行動(外町>立花)をすごく恥じてて、何度も詫びるけど…俺は彼氏じゃないし何も口出しできない。
玲奈さんの心情を思って、もうそんな自責しなくって良いよ?って意味で言った、
『そんなに気にしないで?だって俺は彼氏じゃないし、付き合ってたら浮気かもだけど、玲奈さんはフリーだから誰とでも付き合ったり、スキンシップとったって問題ないんだよ?』
ぞくっ!
殺気を感じる。
『…こんな仕打ちをした私が言うのはおかしいって頭ではわかってるよ?でもね?
承くんは私が誰と名前呼びをしても良いの?
誰と手を繋いでも気にしないの?
…それとも私はそうゆう女の子だって思ってたの?』
涙目に怒りを滲ませた瞳で強く俺を睨んだ。
フッと視線が弱まり、
『…ごめんなさい。
誰とでも手を繋ぐ軽い、貞操観念の無い女の子だって思われても仕方ないよね?
本当にごめんなさい…ごめんなさい…。』
男と手を繋ぐって確かに不愉快だけどそこまで?貞操観念?
そこまで気に病んでるの?ジュリエットになりすぎた副作用でしょ?
それ以上は無かったなら俺は全然…?
話が堂々めぐりになってきたので上を説明する。
『じゃあ、承くんは気にしないの?他の男の子と手を繋いだ女の子でも?!』
『だってこれから先、彼氏が居た女の子と付き合うこともあるだろうし、離婚してバツ1の人と再婚とか長い人生あるかもよ?』
『!!』
ショックを受けている玲奈さん。
『なんで?なんで彼氏が居た女の子と付き合うの?なんでー?!
離婚?離婚してバツ1の女と再婚するの?
え?私捨てられちゃうの?ひどい!そんなのないよー!!』
両肩を掴まれて前後に振られる、酔いそう…やめて…。
『ちょっと何言ってるかわからない?』
今日は情緒不安定だなあ、無理ないか。
優しくしよう。
でもこのままじゃ埒が明かない。
多少強引だけど、これで手打ちにしよう?
『俺も怜奈さんも反省してるじゃない?俺は玲奈さんを許すも何も気にしてないし、玲奈さんは俺が謝った事は許してるんだよね?
じゃあ、もうおしまい!この一件はこれでおしまい!』
『良いの?承くんはそれで?』
『そうだなぁ…また美術室で怜奈さんのクッキー食べながら勉強教えてよ?』
『うん!作るし、教えるよ!
…良かったよぅ…ふえぇ、えぇ。』
また泣いちゃったよ…。
でも、また話せるようになるのかな?
多分俺も玲奈さんも自分の方が悪い!って思いを抱えながらも離れ難く、相手の事を一番に考えた結果、俺たちはお互いに許し合った。
後夜祭はもう少しだけ続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます