第131話 彼女を捕まえろ
男でさ、好きな女の子を追いかけるシーンってどんなシチュエーションだろう?
キャッキャウフフな浜辺で捕まえて?みたいな?
なんか修羅場で待って!誤解なんだ!って場面?
そうだよね?基本すぐ捕まえられると思うよね?相手によるんだろうけど…。
さて時刻は16:45。19:00まで後夜祭。
体育館とグラウンドが解放されてグラウンドではキャンプファイヤーを囲み自由な時間を体育館では希望者がステージで催し物をする。
体育館で宏介が立花vs青井上映したいって言ってたけど絶対ダメ!って却下した。
まあ内容バイオレンスだし、尺長いし元々無理だよね?
ここからは自由行動で飽きたり、用事無ければ校舎戻って荷物持って下校OK。
毎年11月1週だけど、校舎改装のお披露目でもあったので今年は11月4週。
日程が後ろにずれた分だけ日も短く、気温もやや低い。
もう秋も終わりだもんね?
3個のキャンプファイヤーが三角になるよう並んでいて陽キャやなんか催し物やるときはその真ん中で何かやってる。
音楽がかかるとみんなでダンスとか。
なんか昔テレビでやってた〇〇の主張!みたいな企画とか、火を囲んで語りあったりそんな時間。
多少寒いから例年より体育館の人の数が多いけどやはり火のあるグラウンドが人気。
これも例年通りなんだけど今年が最後の3年は名残惜しくて残ってる人が多い。
俺ぼっちだから毎年少し居て、しばらくすると宏介の家でまったりしてたんだけど今年が最後だと思うと離れ難い。
あと、やっぱり香椎さんが気になる。
きっと凹んでるんじゃないかな?
美術室には居なかったから今日はここだと思うんだけど?
キャンプファイヤーの一角は3組が占めていて金髪小幡さんや金髪青井たちが楽しそうに盛り上がっている。田中くんも超嬉しそう。
何気に宏介と伊勢さん、望が一緒。昔から望は俺の友達にすぐに懐く。
でも、今はあそこに行きたくない。
(香椎さん、どこ行ったんだろう?)
いくら傷付いてもみんな思いで付き合いの良い娘だからきっと後夜祭のどこかに居るはず。
ジュリエットで注目浴びてるから人に囲まれているかも?
まあそれならそれで良い。
でもね、俺はどこかでひっそり小さくなってる気がするんだ。
ハブられた日に美術室で一人で泣いてたように。
俺は香椎さんを探し回った。
体育館、体育館の周辺、一回教室、もう1回美術室。
カバンあるからまだ校内には居るみたいだけど…。
(やっぱりグラウンドかな?)
さっきと違う校舎裏からグラウンドに行くと…誰か居る?
外町が下級生に告白されてた!
はいはい!イケメン!イケメン!
気を取り直し、グラウンドへ行く。
日も落ちて、キャンプファイヤー周り以外は真っ暗。
3組は盛り上がり、他2つの火の周りだけ煌々と明るい。
しかし香椎さんは見当たらない。
おかしいな?校舎かな?
いやいや、靴が無いのにカバンあるんだからグラウンドしかない!
…ショックでカバン置いて帰ってないよね?
火の周りに居れば一目瞭然なんだから火の外?
でもね?薄暗い火から離れたところには少しだけどカップルっぽい二人が何組か居て行きずらい。
そんなこと言ってられない!
俺はグラウンドを大回りしてフェンスやネット沿いに歩いて回る。
…
…
…
あ!グラウンドの片隅のベンチで膝を抱えて座り込む女子が居た。
すぐにわかった。
暗くて、輪郭しかわからないけどすぐにわかった。
遠目でもわかる、彼女の表情が固く、痛々しい。
そんな状態でもなお香椎玲奈は俺には眩しい。
びっくりさせちゃうかな?
ちょっと遠めだけど。
『香椎さん。』
『…立花くん?』
『どこにも居なかったから探したよ?』
『…。』
『香椎さん?』
『…私…合わせる顔ないよっ!』
香椎さんは立ち上がると身を翻して走り出す!
?!
一瞬呆気に取られて見送ってしまった。
すぐに我に帰り、走って追いかける!
香椎さんはグラウンドの外周を走って逃げる!
俺はその後を追いかける!
…
…
(縮まらない?)
グラウンド半周(トラックでなくグラウンドの敷地全体)もう走ってる。
グラウンド中央でキャンプファイヤーをしているのでグラウンド外周を走り回ってる俺と香椎さんは誰の迷惑にもならないのだが…。
テニス部のコート、サッカー部の部室裏、野球部のバックネット裏と色々部活部品が足場を悪くさせる!俺も全力だけど香椎さんの足色は衰えない!
トラックが1週200m、グラウンド外周は多分5、600m位?の障害物走!
そろそろ外周を1周して元の場所に戻ってきた!さすがリレー走者だな!
しかし、マラソン大会1位(今年だけ)の俺だから長距離なら俺有利!
…そうでもないか?香椎さんはマラソン大会3連覇だったっけ?
(実績的にも完くん!女の完くんと思って追え!)
女の完くんを想像してしまい、オエってなってしまった。
まあ男子と女子の差があるから!
でも早く捕まえないと!
1周した辺りから徐々に追いつき始めてきた!
だいぶ、近い!
『香椎、さん!!待って!』
『ごめん、私、話す、資格、ない、よ!』
二人とも息切れてきて単語がぶつ切り!
追い詰めた!
香椎さんのフェイントに引っ掛かり、横からすりぬける!
そこから校舎の方へ、香椎さんが逸れて、やっと校舎裏で、香椎さんの手を、捕まえた…。
『…。』
薄暗いから分かりにくいけど、校舎裏には告白中のカップルがいて香椎さんの手を引いてとりあえずその場を離れる。
(小さな手。可愛いなあ、外町も手を繋いで嬉しそうだったな。)
まだ逃げようとするから手を繋いだままで。
火の周り以外は暗くて人の見分けつかないからそのまま手は繋いだまま行く。
さっきのグラウンドの外周のキャンプファイヤーから遠いベンチへ誘う。
ベンチでもう一度逃げようとしてとっさにキュって手を握って引っ張ってしまう。
そのまま、自分の方へ引き寄せる。
俺は香椎さんを抱きしめてしまった。
抱きしめないで手で押さえることも出来たんだけど、抱きしめた。
俺のドキドキがうるさい。
もう外町と付き合ってるのかもしれない。それならこんな事しちゃいけない!
でも、俺をロミオのつもりで演じるってそうゆう意味なんじゃないの?
いや、俺と香椎さんじゃ釣り合わないよ。
俺は玲奈さんが好き!
そして俺は外町をすっごい意識してることを自覚した。
色々ぐるぐる回っていたけど、思えば思うほど強く抱きしめちゃった。
ここで離したらもう二度と戻って来ないような気がして、俺は怜奈さんを抱きしめ続ける。
暗くて、端っこで、気温は寒くて、身体は熱くて、もう何が何やら。
胸の鼓動がずんずん響く。
俺の身体は玲奈さんを欲してる。
でも心はもっと玲奈さんを欲していた。
香椎さんは控えめにきゅっと俺にしがみつく。
幸い拒否はされていない。
俺の胸に顔をしばらく埋めるとヘナヘナってベンチに座り込んだ。
やばい、俺汗臭くない?
しっかり走ったし、走る前も校舎を歩き回って玲奈さんを探し回ってたし。
『ふーふーふーっ…!』
走った直後だからか玲奈さんの息も荒い。さっき歩いてた時には息整えていたけどまだ息上がってたのかな?
よく見たら玲奈さんの靴ローファーじゃない?
え?これでこんなに粘ったの?
俺は通学に使用してる走りやすいスニーカーだよ?
(この娘もフィジカルモンスターだったなあ。)
とにもかくにも、久しぶりにゆっくり話せる。
なんかすっごい久しぶり。
誤解?間違い?謝罪?感謝?なんでもまた話し合おうよ。
こうして俺と玲奈さんは久しぶりにふたりきりで話をする。
宏介が言ってた。
男女は違うからよく話し合わないと理解し合えないって。
本当だよね。
どんな話が出てくる?本当に怖い!それでも俺は聞かなきゃいけない。。
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