第130話 言ってはいけない事
表彰式が始まり緊張感の中、結果を見守り続けた。
結果は合唱コンクールを獲ったが目標である最優秀出し物を僅差で逃し、最優秀クラスは3組が獲得した。
出し物の差は2票差。全体投票数からしたら100対99ほどの差もない本当に僅差だった。
1組の劇と3組の劇と歌(ミュージカル)だと教師票が難易度高い方へ行くって噂があったけどその差なのか?って疑うほどの僅差。
決してクオリティでは負けてない、むしろ僅差で勝っていると思っていた。
はしゃぎ喜ぶ3組と比べて、クラスの表情は暗く、固い。
終わってしまえばなんとでも言える。
1組は勝ちすぎたんだ。戦国時代の兵も負けすぎれば弱兵になるが、勝ちすぎても兵は逆境や劣勢に弱くなる。まして驕ってまとまらないんだから。
他人事ではない。俺も勝てると思ってしまってたんだから見通しの甘さ、過信、油断、ダメな要素満載だ。
香椎さんに『絶対に出し物勝って、最優秀クラス獲ってね。』って比喩じゃなく本当に絶対勝ってくれって言ってしまった。
その言葉が今、どれだけあの責任感の強い娘を責め立てているんだろう?
心が痛い。
1組の教室へ戻る。
クラスの雰囲気はお葬式。
負け慣れていないんだ。
本来こうゆうイベントは勝ったり負けたりしていろんなことを学んでいく。
でもなまじ勝ちすぎたからこの場に充満するのは怒り、悲しみ、失望、無関心などマイナスな感情だけ。
それこそ3組は体育祭で負けたこんな状況から速攻で文化祭でリベンジするって満場一致で決定して今回見事に中学校最後のイベントでリベンジに成功した。ライバルながら素晴らしいメンタル。
もうリベンジの機会は無い。
負けは悔しいけど、それより気になるのが香椎さんのメンタル。
自分のせいだとか思い詰めてなきゃ良いけど?
横顔は顔色良くなくて固い。
いつもなら、香椎さんか外町が仕切ってHRで文化祭の総評や掃除の分担して掃除タイムからの後夜祭になるのだが…。
見かねて珍しく柳先生が仕切る。
(いつも居るけどあえて生徒にやらせてる、珍しい。)
柳『文化祭おつかれ!合唱コンクール最優秀おめでとう!いい合唱だったぞ?
最優秀は逃したけど、合唱は取ってるんだから上等、上等!』
しょんぼりしてる生徒を励ます担任。
でもみんな明らかに負けたことにショックを受けている。
悲しいよりは苛立ち、リベンジできない怒りをじわじわ感じる。
そこに、
『学年最高!3年3組!!!』
わああああ!!!!!
3組の勝鬨が静まり返る教室に響く。
3組ぃ!!!調子のりやがって!!!
煽るなあ!失礼だよね!!
(いや、俺たちも散々煽ったでしょ?煽り返されただけでしょ?)
そう思うけど1組は沸騰しそう。
本当うちって煽り耐性無いよね?
もうリベンジの機会の無いことが尚更苛立たせるのかな?
みんなイライラしてる。
そんなタイミングで、
外町『僕は敗因を追求する!!』
なんて言い出した?
(やべえ気がする…?)
外町『文化祭前にクラスを煽って!みんなに悪口を言って!
クラスに不和の種を蒔いた奴が居る!!
そいつが不穏分子になって!』
みんなが俺を見てる…?
これはやばい!これはさすがに約束外だろ!外町!!
お前なんで俺がみんなディスったか知ってるだろ?!
外町『そいつは3組にばっかり友達が居て、このクラスではボッチで!』
喉がヒュッて鳴る。
これまで感じた事ない悪意が刺すように俺を包囲する!
外町『香椎さんに何度も告って断られて、逆恨みしていちゃもんつけて泣かして!!
小道具だって差し戻しするようなクオリティでしか作らなくって!!』
(本当まずい、絶妙に事実で言い返せないとこ突いてくる!どうする?)
今、このクラスは怒ってる。
この怒りの持って行き場が無い所にクラスのボスがこいつが戦犯って宣言しようとしている。
文化祭のやる気の為に敵意を集めたのとは意味が違う!
外町は俺に責任をなすりつける気だ!?
外町『そうだよな?立花?』
これは毅然と戦わなければならない!
決して情報は漏らしてないし、準備だって手を抜いたことは無い!
皆に責められても、信じてもらえなくても、それだけは主張しなければならない!でもこれはまずい!
外町の言ってること自体は事実を羅列しているにすぎない。
俺は息を吸って声を出そうと、
その瞬間、
香椎『立花くんは!文化祭でも!体育祭でも!全力で戦ってくれたよ!!!
体育祭で一番近くに居た私が一番知ってる!
そんなこと絶対に言わないで!!
文化祭だって毎日休まず頑張ってくれたよ!』
伊勢『そうだよ!立花ずっと造花と小道具最後まで残って作ってたじゃん!みんな見てたでしょ?!みんなが押し付けた仕事だってやってたじゃん?!』
ほぼ同時に2人とも立ち上がって叫ぶように声をあげる。
クラスがどよめき、ガヤガヤ雑音だらけ。
外町『いや、絶対に戦犯は立b…』
柳『外町!!
それは違う!それだけは絶対に言ってはいけない。』
柳先生が珍しく声を大きく割り込む!
外町が声を上げようとするのを手で制して、先生は続ける。
柳『前回は立花がみんなをディスって、その報復で罵られていたから黙っていたが、今回は意味が違う。
みんなで頑張った結果だろ?それを一人のせいにするなんて絶対にあってはいけない。
ましてクラス委員長のお前が言うことか?』
香椎『もし負けた責任取らなきゃいけないなら、私がとるよ!
道具係なんて責任無いでしょ?
私の主演で負けた!私が小幡ちゃんに負けたの!
みんなごめんなさい!本当にごめんなさい…。』
香椎さんが泣きながら深々と頭を下げる。
バツが悪そうに何人かは目線を下げた。
柳先生は言う、
柳『香椎のせいでもない。
頑張ったって負けることなんていくらでもある。社会出れば尚更なあ。
でも、もし敗因があるとするなら、誰かのせいで負けたって言う者とそれに便乗してその誰かを叩こうとする者が居るってことだと先生は思う。
だから外町、それ以上は言うな?』
負けた時ほど真価が問われる。
先生は掃除場所を指示して飄々と出ていった。
(今回はマジで危なかったー!)
本当にひやっとした。
先生の言葉に救われる。
本当香椎さん、伊勢さんに感謝。
しかし、俺は悪寒が止まらない、俺は外町を甘く見てるんじゃないか?
あいつは息を吸うように自然に人を陥れる。
利用しようなんて考えちゃいけないヤバい奴なんじゃないか?
俺は外町の怖さに今更ながら震える。
あいつをなんとかするなんて…香椎さんでも無理なのに俺には手に負えない。
そんな外町に基本敵対していて恨みも買ってる。
小4から一緒にサッカーやっててわかった気でいたけど俺は外町を過小評価してるんじゃないか?
俺の外町に対する評価は学校1のイケメンで頭も良くてスポーツ万能、統率力、実行力、判断力に優れたリーダータイプのカーストトップって評価。
でもそうゆう事じゃない。
俺、外町の怖さを分かってなかったかも…。
そんなことを考えながら、掃除を終わらせ、みんな体育館へ移動。
後夜祭が始まる。
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