第126話 君を思って【side香椎玲奈】
例
香椎玲奈は承の学ランをくんくんする。
私は学ランに顔を埋め、一心不乱に貪る。
(承くんの匂いがするよ!幸せー!)
1行目が劇の進行。
2行目が香椎玲奈の所見
3行目の()の中が香椎玲奈の心の中の語りになります。
しばし、お付き合いください。
□ □ □ □ □
舞台は序盤の山場を超えたよ!
私たちは必死に!でも楽しみながら演じる!
外町くんも必死!小道具、大道具もぐるぐる動き回る!
劇は進行する。
恋した相手が敵の人間であることを嘆き、たまらずにロミオは彼女の前に姿を現し、思いの丈を打ち明け、二人は愛を誓い合う…
ロミオの外町くんも演技がキレてる。少しオーバーにお互いに演技する!
ロミオも稽古が進むにつれジュリエットを見る目に熱い情熱が宿るようになったよね?外町くんもロミオに引っ張られてる?
(承くんは私のために体を張っていじめを無くしてくれた、河川敷で喧嘩までして!あの頃も毎日ハラハラして、準備したり、
保健室で二人きりになったり思い出すと素敵な時間だったな。
この時にははっきり君が好きだって自覚ができてたんだ。)
ここでナレーションを入れ、説明しながら舞台チェンジ。
教会のシーンへ!
ロミオから相談を受けたロレンス司祭は、二人の恋に、両家の争いに終止符を打つ希望の光を感じ、手助けをする。そして、二人はロレンスの元で秘かに結婚式を挙げた。ふたりは愛を誓い合う。
完くん体また一回り大きくなってない?衣装がパツパツだよ!
原作だとここはさらって流されてるけど、私たちはここをピークに設定した!
だからちょっと恥ずかしくなるような愛の言葉を情熱的に!ロマンティックに!
繰り返し、繰り返し確かめ合う。
(一緒の時間が欲しくて委員長補佐を頼んだり、どうしても班が一緒にならないから無理して一緒の班に指名したり!ドタバタな日々!
一緒に修学旅行へ行けた!そこで初めて私を名前で呼んでくれたね?ちょっとだけ手も繋いだ。
人がいない所限定だけど私は承くんって呼ぶのに、言い出しっぺの君はいつも私を香椎さんて呼ぶ。私はそこだけは少し不満だな。
ふたりきりでハグしそうになった夜はドキドキして眠れなかったよ?
マラソン大会ではキスがかかってるって思って死にそうなほど激走してくれたよね!
私が励ましてくれたおかげとか言っちゃって。格好良かったよ!)
ここでナレーションで説明しながら大道具をチェンジして、舞台上の小道具を交換する!
ナレ『しかしその帰り道、争いに巻き込まれ、キャピュレット夫人の甥ティボルトがロミオの親友であるマーキューシオを殺してしまった。親友を失ったロミオは、逆上し、マーキューシオの仇を打つ。
そして、殺人を犯したロミオはヴェローナから永久追放される事となってしまう。』
悲しみに暮れるジュリエットに父・キャピュレットは大公の親戚であるパリスと結婚する事を命じる。彼女は何とかしてこの話から逃れようとロレンスに助けを求め、ロレンスはジュリエットに仮死状態になる薬を飲み死者として霊廟に埋葬され、目覚めたところに、知らせを受けて迎えに来たロミオと駆け落ちするという命がけの策を持ちかけた。
(人を好きになるって楽しいことばかりじゃない。
君がいじめられて何もできなかった時、
いじめ解決の時、距離を置いて欲しいって言われた時。
私はとっても悲しかった。無力感も感じた。
今もそう、私のわがままで承くんがピンチになって、皆に冷たく当たられて。)
パリスとの結婚式の前夜、死の危険をも覚悟し、ジュリエットは薬を飲み干す。
翌日、キャピレット家では悲しみの葬儀が行われた。
変わり果てた姿のジュリエットと再会したロミオは、彼女の後を追って毒を飲み、息絶えた。
外町くんの芝居いいね!慟哭が迫力ある!元々多才で去年も一緒に劇をしたけど今年はさらに良い!人間性は別にしてすごいね!
※さらっとひどい事言いました。
ジュリエットに対する執着が見えるようだよ!
(棺桶の中で思う。
私は、ジュリエットに成り切ろうとして承くんがまとめてくれた日からジュリエットを取り込もうとして逆に取り込まれた。
承くんに無関心になり、最後の方なんて意識しなくなってた。
承くんにしかさせなかった名前呼びを
しかも承くんは知らないけど…手を繋いで歩いてしまった…手を握られた時に振り払うことも出来たのに…ロミオだから…ロミオのモチベーションが…とか…
ジュリエットのせいだよ!なんて、そんなこと承くんに言えないよ…私は汚れた女だ。承くんにふさわしくない。)
※承くんは手を繋いだ所を目撃しています。
その直後、ジュリエットが目を覚ますと息のないロミオを見て、事の成り行きを悟ったジュリエットは、ロミオの短剣で自害し、彼の後を追った。
ジュリエットは目を覚まし状況を把握するのに時間がかかるよ!受け入れられないの。
すぐにあとを追わずに嘘だ、夢だって現実逃避をしたり、突然キレたり、尼になろうって独白したり、辛さを受け入れられない現実の年相応の女の子を意識して足掻く。そして、ある瞬間受け入れる。
受け入れたらもう、迷いは無い、でも私はこう解釈した。
ロミオが居ない世界に未練は無い!悲しいし苦しいし辛い!でもね幸せでもあったんだよ?
だから私は台本に無い一言を加えた。
ジュリエット『ロミオ、幸せだったよ。』
私は躊躇わず薄く微笑み、胸に短剣を突き立てる。
だってこの人が居ないと生きる意味がないほどの恋をしたんだよ?それは幸せなことじゃない?
(ハブられた時にクラス中を敵に回して私を守ってくれたこと、
その『熱』でクラスをまとめ体育祭を勝利へ導いてくれたこと、
2人でダンスして、勢いでハグしちゃってキスしちゃうってとこで先生に踏み込まれた事、
文化祭でまとまらないクラスの為、自分を顧みず悪役になったこと、
その策を嫌がる私に初めて『好き』って言ってくれたこと。
まだ15年しか生きてない小娘だけど私の思い出は君でいっぱい!
ドタバタな日々も、放課後、美術室でクッキー食べながらたわいも無い話をするまったりした日々も全てが愛おしい。
ありがとう!大好きだよ!
私は君に出会えてから幸せ。それだけは伝えたいな。
もし、勝てたら私の話聞いて欲しいな。)
ジュリエットの短剣が刺さる瞬間暗転し、幕を落とし、ナレーションで締める。
両家の争いが彼らを死に追いやったことを悔やみ、和解を誓い合った。
ナレーション二村さんで正解、声きれいだなあ。
(承くん、小幡ちゃんどうかな?私達の精一杯だよ。)
ナレーションが終わり、ライトが付き、劇が終わった事に気づくと観客から万雷のような拍手が鳴り響く。立ち上がる者も多い。
うっとりするもの、涙が止まらないもの、興奮冷めやらないもの、香椎玲奈の可憐さを語り合うもの、間違いなく今日一番の観客の反応だった。
私はというと、控室で腰が抜けたように座り込んでいた。
もう後二組しかないから控室撤収は少し遅くても良い。
外町『玲奈さん、お疲れ!』
玲奈『おつかれさま、外町くん、ロミジュリは終わったよ。
だからね、もう名前呼びは止めて?』
外町『え?』
玲奈『楽しかったね?じゃ!』
外町くんは信じられないものを見るような顔で私を見ていた。
私は着替えて3組の舞台を見る準備をしなきゃ!
小幡ちゃんはどう仕上げたかな?
優勝できるかな?承くんになんて伝えよう?
それは明日の夕方までわからない。
今はライバルの晴れ舞台を見守るだけ!
控室から出ると、クラスメイトにもみくちゃにされた。
みんな興奮して泣いたり、笑ったり、感激してたり!
伊勢『香椎怜奈、ロミジュリすっごい良かった!
私ちょっと泣いちゃったし!』
ってボロボロ泣きながら言われた。
この娘は可愛いなあ。
さて、いい場所を確保!
演目は美女と野獣って聞いた。さてさてどうかな?
なんのかんの言いながら私には自信があった。
あれほどの仕上がり、あれほどの想い、あれで勝てなきゃどうしようもないよ!
…そこで見たのは、私が思い描いてた想像を1歩も2歩も上回る完成度の高い精錬された舞台だった…!
□ □ □ □
3−1出し物やり切りました!
夜に承くん視点です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます