第125話 舞台が始まる【side香椎玲奈】

教室は展示で使用、控え室は時間まで開かない。

私たち3−1は美術室が空いているのを良いことにそこを本拠地としている。

文化祭を見て回るものが多く、部屋に居るクラスメイトは私以外はまったりしてる。


美術室なんだから柳先生の絵とか展示すれば良いのに?

特別教室棟は部外者立ち入り禁止なんだよね?もったいないなあ?

生徒の道具や諸々が各特殊教室に置かれてる。多分3−3は理科室にいるだろう。


パーテーションで区切られた1畳のスペースが私の世界。

静かにconcentration集中する。テニスで全国大会出た時と同じ位の深さ。

自分のコンディションを念入りに念入りに確かめる。

体調はやや寝不足だけど大丈夫。メンタルが高揚して体調を補って余りある感じ。でもちょっと熱くなり過ぎてるなぁ。

セリフは入っている、動作も異常は無い。鏡で表情をチェックする、問題ない。でも少し緊張してる?


ふふ、たわいも無いことを考えてこの焦燥や入れ込みを飼い慣らす。

美術室ここでたわいもない事って言ったら結局承くんのことばかり考えてしまう。

ロミジュリに集中すべき時間だけど承くんのことを思い浮かべちゃう。

でも、それでいい。

ポケットに入れた、承くんからもらった栞をいじりながら思いを巡らす。



お姉ちゃんが言った、


『私は玲奈の芝居を見てすっごい精巧な細工を施して、苦労して小さいパーツや歪んだ部品を集めて作った『芸術作品のようなニセモノの恋』って印象だった。

でもそれが無くなったならもう代用出来るのは『玲奈の想い』しかない。

玲奈の『本物の恋』を削り出して無理やり当てはめるしかないでしょ?』


本物の恋を削り出すってどんな表現?我が姉ながらクレイジーだよね。劇って機械の心臓のパーツを思い浮かべているらしい。





そろそろ、承くんが来るかな?

来た!こっそり自分のパーテーションに入れる。

何個も区切ってあるからぱっと見わからないし、みんなには集中してるから離れてって言ってある。


だから会話は小さく、ね?



承『調子どう?』



玲奈『それがね?昨日まで育ててたジュリエットがどっか行っちゃった?』



承『えええ?大変じゃない!どうするの?!』



承くんは私の癖を理解してくれてる。




言える?私がんばれ!




玲奈『だからね、私、

ロミオを承くんだと思って、ジュリエットを演じる。』


一回息を吸う、


『ジュリエットはロミオに出会い、恋に落ちた。

そしてふたりは愛し合い、秘密の結婚をするの…。


…そしてジュリエットはロミオを失っては生きていけない。』



多分私は真っ赤になっているだろう。

承くんは慌てて言った、


承『え?え?

それで大丈夫なの?』


玲奈『やるしかないの。

だからね…承くん、承くんはロミオのつもりで今日の劇を見て欲しい。

私の気持ち、想いを見ていて欲しい。』



承くんは真っ赤になって頷く、



『私ね、承くんに謝りたいこと、感謝の言葉、他にも色々伝えたいことがあるんだ。』



続ける



『だからね、もし今日の劇で勝てたら私は承くんにそれを伝えたい。

約束どおり勝って、最優秀クラス獲れたらなんだけど、

明日、後夜祭で聞いてくれないかな?』



承くんは真っ赤になったまま頷いた。

2人で数秒見つめ合うと同時に吹き出した!



ふふ!!はは!

私は伝える、


『ありがとう、勇気をもらったよ。

後は…見ててね?

1秒だって目を離せない舞台にしてみせるよ!』



私たちは時間が来て控室へ移動する。




こんな地方都市のさらに地方の公立中学校の文化祭。

さらにそれの一部門、たかだか数十分の出し物にこの時点の全てを注ぎ込む中学生たち。

後から思い出すと、笑うかな?呆れるかな?大人になってそんなこと本気になってって鼻で笑うかな?

物事に本気になるのに事の大小、深刻さなんて関係ないでしょ?

私は好きになった子からそれを学んだ。

私は自分の為、好きな男の子の為、ライバルの為、他人が見たら笑っちゃう位真剣だよ。




時が来た。

さあ、行こう!

皆に声をかけステージへ向かう。



ステージ横に入る通路に2人立ってる?


小幡ちゃんと青井くんだ。

2人とももう臨戦体制。

ばっちり衣装を着付け、メイクを施し、ビリビリ雰囲気を出してる。



もう話すことはないし、目線だけ合わせて横を過ぎる。


!?


小幡ちゃんを2度見する!


思わず立ち止まる!


玲奈『小幡ちゃん!その髪?』


小幡『勝つ為よ!』



2人の髪はキラッキラの金髪になっている!

ミュージカルで動き激しくってカツラが動くなんて言うけどこの舞台の為にそこまでするんだ?!午前に会った時は普段通りだったよ?

青井くんも話さないけど外町くんと視線を合わせてる。


ああ、2人の本気にたまらなくなる。


玲奈『よく、許可下りたね?』


小幡『終わったら話聞いてよ?』



こうして思ってたよりリラックスして本番に臨んだ。

急いでセットや道具を展開!外町くんが指揮しながら確認、報告を処理する。

私は見て回って、皆に声かけ!


準備完了!演者と各スタッフで円陣を組む。

控室で昨日リハの分析と小さい修正点を伝達してある。

に寄せること、外町くんはそのままで良いこと。ジュリエットの想いをで表現したいことを伝えてある。過去の実績から反論は無くそれで行こう!ってことになった。

心の中で承くんに語りかけるけどロミオを通して語りかけるから…そうだなあ、君って呼ぼうかな?






時間いっぱい!

3−1ロミオとジュリエット!始まり!始まりー!!


□ □ □ □

香椎玲奈は承の学ランをくんくんした。

私は学ランに顔を埋め、一心不乱に貪るよ!

(承くんの匂いがするよ!幸せー!)


1行目が劇の進行。

2行目が香椎玲奈の所見

3行目の()の中が香椎玲奈の心の中の語りになります。

しばしお付き合いください。


□ □ □ □ □

ナレーションの二村さんが声を張り、軽く説明するところから始まる。


『舞台は14世紀のイタリアの都市ヴェローナ。

そこでは貴族の2家、モンタギュー家とキャピュレット家が、血で血を洗う抗争を繰り返している。

ある時、モンタギュー家のロミオは友人に誘われ、キャピュレット家の仮面舞踏会に忍び込んだ。』



ロミオ(外町くん)が取り巻き(陽キャ二人)連れて会場を歩く、取り巻きがチャラい!



そこでキャピュレットの一人娘ジュリエットに出会い、たちまち二人は恋におちる。

ぶつかって、少し見つめ合い、軽く話す。 誰?この人→いい人かな?→いい人!って態度を変えていくよ!

(承くん、覚えているかな?私たちは小5で初めて同じクラスになって、2学期初めて席が隣になって。でも君は全然話してくれなくって。

私の方から『武将好きなの?』って話かけたらすっごい勢いで話し始めて!)




仮面舞踏会の最中、ふたりで話をして急速に惹かれ合うふたり。

真面目に話→打ち解ける→この人格好いいなあって態度を変えていく、急に好きになるのも変だよね?少しずつ少しずつ。

(その話の後で君は私の話を一生懸命聞いてくれて、すごく感心してくれて、褒めてくれて、私嬉しかったんだ。それからは時間を見つけてはお話ししたよね?色々なこと友達のありようから物の考え方まで。)




ロミオとジュリエットはふたりで踊る、それは楽しく、胸躍る素敵な時間だった。

舞台を大きく使う!ダンスも最初は戸惑いながら!後へ向けて段々楽しく!嬉しく!

(友達の為のクリスマスパーティーを企画した。君が隣に座って、私が初めて作ったビーフシチューを美味しい!って感動して食べてくれて、私すっごく嬉しくて思わず3杯もすすめちゃって…でも君は美味しいって言いながらペロって食べきった!私の作ったケーキも美味しい美味しいって…。

知らないでしょ?私すっごい嬉しかったんだよ?)




ふたりは見つめ合う、お互いに惹かれ合っていく。

お互いに目が離せないって切ない気持ちを仕草、視線で表現するよ!

(嬉しくって隣の席から一歩も動かず、いっぱい話したよね?

その後プレゼント交換があったんだっけ?

ごめんね、あのくじは不正なの。君は手袋を、私はピンクのボールペンが当たったね?あのボールペン今も使ってる。可愛くて私を思い浮かべながら選んでくれたんだよね?後でこの色しか無かったって聞いた時は台無し!って怒ったよ!)




観客席を見渡し、承くんを見つけた!

ここからは、そっちにも視線を向ける!



立ち去りがたい思いのロミオは、仮面舞踏会の後、キャピュレット家の果樹園に忍び込み、偶然ジュリエットの部屋のバルコニー下に辿り着き、ひとり語りする彼女の愛の告白を耳にする。


ジュリエット『ああロミオ、ロミオ!

どうしてあなたはロミオなの?!』

見せ場だよ!大きく、綺麗に腕を振り、表情も恋焦がれる女の子!初めての恋!…最後の恋でもあるよ。

(なのに!信じられなかったよ!

席変えしたら君は私のところへ来なくなった!耐えられなくって、私は抗議したよ!

…もうこの頃には私は君を好きだったのかもね?

そうしてるうちに私たちは中学生になった。

そして君はクラス委員長にさせられた、それを見て私もクラス委員長になった!そこから本当色々あったよね?

良いことばかりじゃないけどいろんな事が起こったよね?)





続く!

明日は9、20時の2回更新ですよろしければお付き合いください。

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