第123話 仮面【side香椎玲奈】
あれ?あれ?ジュリエット?
私の中のジュリエットが居なくなったよ?
そう理解するのに時間はかからなかった。
今まで蓄積してきたジュリエットならこうするとか、こんな女の子だっていうディティールみたいな細部の設定を私はちゃんと記憶している。
別に私が乗っ取られていたわけでなし、記憶も記録もあるよ!
でも言うなれば『魂』が無い?
『ジュリエット?』
声に出して自分に問いかける。
『ジュリエットー?』
思い出せ?どこにいる?
『ジュリエッツ?』
複数形にしてもダメだよね?
『玲奈がジュエットでしょ?ロミオ役までやるつもりなの?』
お姉ちゃんが呆れた顔して部屋に入ってきた。
(やばかった、承くんセット片付けて良かった!)
私はお姉ちゃんに相談してみることにした。
もう、夜だけど、包み隠さず2学期開始のハブられたことから、承くんがクラスを敵に回して1人で守ってくれたこと、体育祭で勝利後クラスが分解して勝負にならなくなったこと、文化祭の為に承くんが悪役に徹してクラスをまとめ、何としても出し物勝たなければならないこと。
…そして私の罪。私は役に没頭しすぎて承くんを忘れかけていたこと、劇に夢中でぞんざいに扱ってしまったこと。望ちゃんと喧嘩別れしたこと。ジュリエットに引っ張られて外町くんと名前呼びしたり、手を繋いだこと。
私は泣きながらお姉ちゃんに語った。
お姉ちゃんは黙って聞いてくれて、うーとかあーとか唸りながら一部始終聞いて言った。
『それが承くんとの『誓い』なら玲奈は守らなくちゃいけない。
そうしないと隣に立つ資格が無いよね?』
『…。うん、でもジュリエットが…。』
ちょっとやってみ?って言われああロミオ、ロミオ!のくだりを演じてみる。
『あーほんとだ!動画と同じ動き、語りなのに印象が全然違う!『魂』みたいなものが?無いよね。』
『私の中にさっきまであった『何か』が無くなった気がするの。』
『あー。
ゲーム?
その名を冠した日本の超人気RPGがある。
心で戦う的な?
お姉ちゃんは続ける、
『人は誰しも演じてる。
『仮面』をかぶって。
自分を守るため、こうゆうキャラだから!とか立場、希望、本性、理想など色々な自分が居る。』
『ふんふん。』
『例えるなら私たちだって、
私は家では『責任感の強い規律正しい長女』
玲奈は『自由奔放でわがまま次女』って自分の家族内の役割を演じてる。』
『…。』
(…納得いかない。)
『でも学校では私は『品行方正な大人しい女子』って役割を、
玲奈は『暴れん坊クラス委員長』って役割を果たしてる。』
『…。』
(中学校入学した時先輩からお姉ちゃんのあだ名『破天荒』って聞いたけど?)
『話を聞いて立花くんもそれだよね?ってお姉ちゃん思ってたんだ。』
『え?承くんが?』
『そう、立花くんは理想の形、自分がこうあるべき!っていう形。
俺が考えた最強の武将!みたいな魂の形がある。
それに則った行動をするし、その『ペルソナ』に反する行動は絶対に取らない。』
『なんかわかる気はするかも。
でもそれじゃあ、本当の承くんがすごくないみたいじゃない!』
私はお姉ちゃんに反論した。
『そんなことないでしょ?
自分の『理想』を体現して、それを曲げずに通すのは大変なこと。
常に自分の理想と同じ考え、同じ行動しているならそれはもう『仮面』じゃなくって本性。後天的に自分で努力して得た自分の完成形なんじゃない?』
納得してしまった。
私はすぐにお姉ちゃんに騙されるけど、この話は納得してしまった。
『で、話は戻るけど、
普通はそんな感じで色んなチャンネルを人は持ってて、使い分けるけど玲奈はなんでも出来て、人当たりが良くて割と『素』で生きてると思うのね?
玲奈の偉い所は素の状態でみんなの為にとか、私が頑張れば!とか人を思いやれること。普通は人からよく見られたいとか、建前とかそうゆうものなの。』
私が凹んでるからかお姉ちゃんが優しい。
『普通ならさっき話したような『演じる自分』を演じるんだけど、
さっきまでの玲奈はまるで悪い霊でも取り憑いてるん?って雰囲気でちょっと引いた。』
そんなに?
『なんていうか…名前をつけて保存しないで全部上書き保存してるみたいな?』
あー、なるほど?
『ジュリエット演じてた記憶はあるんでしょ?』
もちろん!別に記憶喪失や記憶障害じゃあないよ!
『でも、不思議!
1ヶ月前くらいから妹が日に日に別人格に乗っ取られていくようで気持ち悪かったから、私は今の方が良い!』
そうかな?
『あんなに強固にジュリエット病みたいな玲奈だったのに、
何をしたらそんなに綺麗に戻ったの?』
『…何をしたらっていうか
…ナニをしたっていうか…。』
私は歯切れ悪く濁した。
(言えないよ!
『でね、でね!
ゲームだったら自分の中にまだジュリエットが居て、
それに目を背けず、それもまた自分って認めることで、
『我は汝、汝は我』みたいな形でプレイヤーの『ペルソナ』になって力を貸してくれるの!』
お姉ちゃんは目をキラキラさせながら説明する。
ふーん。私はRPGが苦手。ついついレベル上げしちゃうタイプだから
まあ、ゲームの話だしね?
『ゲームだと、
『ペルソナ!』とか『ジュリエット!』
って顔の前で手をかざしてポーズ取って超格好良くカットイン演出入ってペルソナ切り替わるの!!
戦いのシーンでペルソナを切り替えるのね。』
きゃー!!!って言いながらお姉ちゃんは嬉しそう。
『ジュリエットまだ玲奈の中に居るんじゃない?
ちょっとやってみ?』
え?嫌だよ?
明日の文化祭どうしようって時に。
お姉ちゃんはダメ元、ダメ元って言いながら私を促す。
(でもここまで精密に細部にこだわったから『あのジュリエット』じゃなきゃ!出るかなあ?)
お姉ちゃんはゲームのポーズを何パターンか私に指導した。
文化祭前日23:00。私は何をしてるのかな?
『じゃあ、玲奈!真面目にキリッと可愛く決めてね!』
やる時はやるよ!
ビシッと弛緩から緊張!動きにメリハリ!
表情は逆でキリッからニコッとカッコ可愛く!!
その一連の動きで掌を顔の前でスライドしてお姉ちゃんの指示通りポーズを決めるよ!
『ジュリエット!!』
『はい!良い動画撮れました〜!!』
『??
ぎゃあああああ!!』
お姉ちゃんが、お姉ちゃんがニタニタ笑いながら撮影していた!!
私の渾身のキメ顔で掌を顔の前に持ってきてポーズを決めながらジュリエットの名を呼ぶ私の動画を撮影していた!!!
しかもよく見ると室内のタブレットも全部私にカメラが向いてる!
やばい!止めて消さなきゃ!
しかしお姉ちゃんはタブ2個を回収してすぐ何かを打ち込む!
『はい!!スマホ、タブ2個、計三種バックアップ、クラウドと同期、パスワード設定完了!!
玲奈の決め顔ポーズはもう私のものー!!
私、嫁に行く時この動画持って行くー!!』
『ぎゃああああ!!』
そしてお姉ちゃんは言った。
『玲奈はもう中3で今年受験でしょ?
ゲームと現実をごっちゃにしちゃダメだよ?
そんなんだと悪い男とかに騙されるんじゃないかってお姉ちゃん心配だぞ?』
悪魔が、私の家には悪魔が居る…。
冷静に努めてお姉ちゃんに言ってやる。
『私が嫁に行くから!お姉ちゃん長女なんだからお姉ちゃんがずっと家に居てよね!!』
『…じゃあお姉ちゃん、承くん誘惑して婿に貰う!』
『…ママにお姉ちゃんのスマホゲームの課金額の話する。』
『…香椎承くんでも良くない?私玲奈よりバインバインだしー?
毎日会えるよ?義兄さんって呼ばせてあげるよ?』
私はイラついた。お姉ちゃんにそんな資格ある?
…それじゃあ私にはその資格あるのかな?不安で仕方ない。
『…先月使いすぎてパパに泣きついたことママに言う。
理由はVチューバーへの投げ銭だって。』
この町で有名な美人姉妹は深夜までぎゃあぎゃあケンカした。
ママに怒られるまで。
こうして夜はふけていく。
まずい。
文化祭はもう今日になってしまった…。
『もうダメかも…。』
私は泣きそう。今までの努力が、承くんの献身が、外町くんを始めクラスメイトの熱演が、道具係や衣装係、課題発表組らクラスメイトの顔が思い浮かぶ。
どうしよう、頭丸めて土下座しようかな?
そんな暗いことを考えていると、
『あー笑った笑った!
表情もいつも通りになったね?
大丈夫、大丈夫!玲奈は練習したことは遺憾無く発揮できるタイプ。
お姉ちゃんに秘策があるよ!』
お姉ちゃんの秘策は単純だった。
でも、もうそれしかないし今からじゃそれしか出来ない。
私は通して一回だけお姉ちゃんに見て貰いながら稽古する。
『うん、可愛い!
私は絶対こっちの方が好き!自信持って今日頑張ってきなよ!
あと絶対に、承くんと話す時間作りなよ?』
姉ちゃんは私の疲れを少しでも取るために私が眠るまでマッサージをしてくれた。
私は夢うつつに、
『おねえちゃん…ありがと…、でもね?
動画けし…てほ…しい…な?ZZZ』
『それは出来ない(断言)』
いよいよ文化祭来たる!
□ □ □ □
久しぶりのコメディ回でした。
玲奈お姉ちゃん出したかったけど、だんだん変わって行く妹の話だとサスペンスしかうかばなくって…。
次回文化祭朝挟むので、週末の土曜1話、日曜2話が文化祭本番になります。
文化祭編もあと数話、もう少しおつきあいくださいな!
どうかあるに力を!♡を!☆を!続き頑張れ!って思った方はぜひお願いします!
一番効くのはコメント、感想です!絶対お返事しますので是非あるに愛あるコメントくださいな♪
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