第122話 リセット【side香椎玲奈】

リハーサルが見れなくて


明日は文化祭って前日。体育館のステージを使用した完全に同じ衣装やセットを使用した通し稽古が行われる。


部外者非公開か公開か選べる。1組は公開。3組は非公開を選んだ。

道具係や衣装係、課題発表の生徒を入れて裏方仕事の労いの意味もある。

本番さながらのリハで壊れて大惨事!ってこともある。

他の組や学年も見に来ている。小幡さんや宏介、望も居る。


さて、始まり始まり!


仮面舞踏会での出会いのシーン


仮面を着けて踊るロミオとジュリエット。

(俺が香椎さんと踊ってたあれとは偉い違いだ…。)

苦笑いが出る。すっごい楽しかったけどなあ。


まだ出会ったばかりの2人だが急速に惹かれ合ってるって仮面をしててもわかる。

お互いにどうしようもなく惹きつけられて、目が離せない!ってなってるのが素人の俺でもわかる。

胸が痛い。



バルコニーでのああロミオ!のシーン。

2人はたちまち恋に落ち、お互いが仇の家の子だって知りながらも二人の思いはより深くなる。

バルコニーで、



ジュリエット(香椎)『ああロミオ、ロミオ!

どうしてあなたはロミオなの?!』


ロミオが仇の家出身だと知って身悶えるジュリエット。敵対する家の息子と知っても抑えられない慕情がステージからビリビリ伝わる。


(去年より凄みがあるなあ。ロミオへの思いが伝わる。)

ジュリエットだって言い聞かせるけど、どう見たって綺麗なドレスを着た香椎さんだから見てて切ない。



両家の仲直りを願う司祭様に秘密の結婚式を挙げてもらい、2人は秘密で夫婦になるシーン。


説明は要らないよね?

ロミオ外町ジュリエット香椎さんがバージンロードを歩き、

特に資料が無かったので日本の結婚式風に進行する。

誰も参列しない2人と司祭のみの式。

司祭役が完くんなんだけど司祭ってよりモンクって感じで悪人を撲殺出来そう。


何を言っていたのか聞いていたが全く頭に入らなかった。

情熱的でロマンティックなセリフの応酬。

香椎さんと外町がお互いを想い、愛してるって、繰り返し、繰り返し確かめあう。

(もう、俺にはロミオとジュリエットに見えない、和也と玲奈にタイトル変えれば…?)



いや、俺が香椎さんに全力でやってって言ったんだよ?

わかってるし、わかってた。

でも、俺はこれ以上、見ていられない。

もう滲んでまともに見えない。

本当に劇は素晴らしく、見てる人を引き込む力がある。

中学生の出し物としては極上だと思う。

主演の2人もすごい男前と美人だし!

演技も良く訓練されていて、綺麗に演じてる。


特に主演2人の心情が手に取るようにわかり、お互いを慕い、恋焦がれ、愛していく経過が短いながらも観客に伝わるよ。


実際、ロマンティックなセリフシーンで横の女子がため息を吐き、男子も目を離せないって顔をしている。

これを途中で席を立つなんて、演者に失礼だし、勿体無いし、道具係とはいえ協力してきた仲間にも申し訳たたない。





こないだも言った。



『俺は玲奈さんの幸せを一番に考えられる男!』


ふふふ!


少し笑いながら俺はステージに背を向けて体育館からゆっくり出ていく。

今日だけ。本番はきちんと最後まで見るから!


周りの生徒が出ていく俺を怪訝な顔で見る。

舞台用に照明が落ちていて良かった。


最後にチラッと振り返り、聞こえないだろうけど香椎さんに声をかける


『香椎さん、これならきっと勝てるね?俺役に立てたかな?

明日もがんばってね。』


体育館から出て渡り廊下を歩く俺は泣いてはいないが涙が止まらない。

我ながら女々しい男で嫌になる。自分に納得のいく漢への道はまだまだ遠い。







◻︎ ◻︎ ◻︎ ◻︎

リセット  side香椎怜奈


全体を通して、本番衣装でのリハはすごく良い出来だった!

私も動きがキレていて、バッチリ!

ジュリエットはロミオが好き!大好き!

愛してるよ!って観客に伝える。

これが伝わるほど、悲恋が際立つ!

役とシンクロ率が上がると良い芝居ができる反面、役に引っ張られてメンタルに影響が出る癖がある。

大体舞台が終わるとスッと抜けるんだけど役の間は集中してないとそのクオリティを維持できない。



劇と観客を動画撮ってもらったから後で家で見る。

自分の動きと観客席のリアクション。この2つを同時再生して受けたとこ受けなかったとこを洗い出したり、改善を図る。


1点もののドレスだから割り当ての女子更衣室へ向かい綺麗に脱ぐ為に移動。(2個あるけどリハの時間で割り振りがある)途中の渡り廊下に、望ちゃんが立ち塞がる。


(こないだからしつこく絡まれてるんだよなあ、忙しいからまたにしてもらおう?)



『ごめんね、私忙しくて『兄ちゃんは先輩の為に!』』


うん、そうだね?


『立花くんが全力でやって『知ってる!でも、兄ちゃんの気持ちわかるでしょ?先輩!』』



2度も話の腰折られるとイラッとするよね。

望ちゃんは大きな瞳に涙をいっぱい溜めて私を睨んでる?


『何が言いたいの、望ちゃん?』


『…あんまりだよ、兄ちゃんの気持ちわかっててあんなお芝居見せつけて…。

あんた本当に先輩?それともジュリエット?』



香椎玲奈ジュリエットだしジュリエット香椎玲奈でしょ?

それだけ?ジュリエットなんだからロミオ外町くんを愛するでしょ?当然。

邪魔しないでね?今はそれどころでは無いの?』



望ちゃんはキッと私を睨むと、



『…そうですか!わかりましたよ!

お邪魔しました!

もう2度と兄ちゃんと私に近づくな!

ばーか!匂いフェチおばさん!

好きなだけ外町とよろしくやってろ!エロばばあ!』



っっっ!?

捨て台詞を言いたい事言って望ちゃんはピューって走り去った。

すごくイライラする。



少し行くと3組の田中くんが居た。


『あ、香椎さん、ごめんね!

スパイじゃないよ?』


『?

私忙しくって?何か用事かな?』


『ごめんね?

僕、こないだの体育祭は本部委員の仕事で手が空いてる時間デジカメでいっぱい写真撮ってたんだ。これ香椎さんの!後でよかったら立花くんと見てみて!』



立花くんと?文化祭終わって暇があったら見るかも?

私はお礼を言って受け取る。

まあ見る気もなくてとりあえず受け取ったって感じかな?



ドレスを着替えて、録画2本送ってもらって家へ帰る。

リビングに荷物を置き、リハと客席を同時にタブレット2つで再生して演者の動きや舞台の広さを使えてるか確認しつつ、観客席の反応を同時に映す。



良いよ!思ってたよりステージを広く使えているし、ここだ!って場面の観客のリアクションも良い!


『なになに!お姉ちゃんにも見せて!』


途中でお姉ちゃんが帰ってきて見たがる。

面倒だけどお姉ちゃんの見る目は正しいことが多いので一緒に見てもらう。



『あれ?承くんこんな男前だったっけ?』


『ロミオは外町くんだよ、同じクラス委員長の。』


『え?玲奈がこんなに好き好きビーム出してるからてっきり彼が承くんだと…。』


『そりゃあジュリエットなんだからロミオが大好きで好き好き!ってなるでしょ?』



『うーん?そんなレベルかな?なんかもやっとする…。』


お姉ちゃんはまだ残ってるのに部屋へ戻って行った。

失礼じゃない?こんな良い出来でロミオとジュリエットだってラブラブで舞台映えしてる!


観客席の反応も上々!でも、1人途中で帰ったのが見えた。


(失礼だな!こんなに良い舞台なのに!!)


そう思って確認すると、立花くんだった。


(自分が全力でやってって言ったのに…なんかガッカリ。)


最後まで見て、小さい修正点を書き出し、明日の本番に備える。

すごく身体が昂っている。明日が楽しみ!みんなに仕上がった私を見せたいよ!






※ここから先は性的描写があります、ご注意ください。




ちょっと早いが明日の準備!って家族に言って9時に部屋に戻る。




ふふふ。

実はね?


じゃーん!今日のリハで汗ビショになった私に外町くんロミオがハンカチ貸してくれたの!


紳士的でさすが外町くんロミオだよね。

もっと好きになっちゃうよ…。



でも、ごめんね?こんな私を見たらガッカリさせちゃうかな?

そういえば、立花くん以外の男性の匂いで慰めるの初めてだ…。



私は興奮していた。

明日に昂り、初めての外町くんの匂いくんくんに。


電気を消して、少し服をはだけて…。


『…んっ…。』


そういえば文化祭準備に明け暮れて、しばらく自分でしていないかも。

敏感になっちゃってる?



そーっとカバンから外町くんのハンカチを取り出す。

大事に大事に宝物のように。



電気を消した室内ではいつも五感が鋭くなって色々捗る。

そっと自分の部分に指を当てて、外町くんのハンカチに顔を埋める。


まず、外町くんが着けてる男性用フレグランスのシトラス系の爽やかでクリーンかつ知的な香りがする、少し制汗スプレーの匂いもするかな?

あと、外町くんの匂いもする。ずっとポケットに入ってるんだもんね?匂いしないとむしろ困るよ?


それでは失礼して…



すんすん、すん…すんすん。


あれ?


くんくん、くんくん…くん?



何これ?全然



くん、くん、くんか。



ペイっ


(違う、これじゃない?)


私は無意識に外町くんのハンカチを投げ捨てた。

無意識のままベットの横の引き出しからジップロックを開けて立花くんのグレーのタオル。(ダンス回で入手)、ワイシャツ(体育祭)を取り出して、さらに服をはだけてワイシャツを体に巻き付け、グレータオルに顔を埋める。



くんくん、くんくんくんくん!


!!

なんだろう?幸せ成分のようなものがバンバン出てる。



くんくんくんくんくん!

くんくんくんくん!!



久しぶりだから?快感が強い!





私は妄想しちゃう。

『…承くん…久しぶりだからって…乱暴だよう…だめ…だめ、…あっ!』



※久しぶりなのも乱暴なのも玲奈さんの匙加減です、承くんには一切関係ありません。




…私は自分を慰めた。




賢者タイム。

それはいつも自分を正しく、言い訳しようないほど見つめ直す時間。




結論から言おう。



私は我に帰った。



わ…私なんて事を!

承くん!承くんになんて言えば…なんて仕打ちを…。


そしてよりによって本番前日に!我に帰ったことで今まで育ててきた自分の中のジュリエットが完全にどっか行ってしまった!

どうしよう!明日!ジュリエットー!!!

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