第116話 反転【side香椎玲奈】

 私はやっぱり男子の方から告白して欲しい。

 もちろん女子からする事を否定するわけじゃないし勇気あるなって感心する。

 でも子供の頃からの理想形として、王子様のような男性に綺麗ロケーションでたっぷりムードを盛り上げて、素敵な言葉を囁いて情熱的に口説き落として欲しい。

 …それはあくまで理想形の話で、私の大好きな男の子は武将のような漢、あんまりロマンスは期待出来ない。

 好意があることは知ってる。けど告白してもらえるのかな?

 人間性や漢気、優しさ、勇気など自慢出来る部分は多いが…そこだけは不安がある。





113話、115話の香椎怜奈視点になります。



 さて文化祭の準備に向けてまったく士気が上がらない私たちのクラス。

 それを承くんがなんとかなる手段あると!

 その打ち合わせの為、いつもの美術室へむかったの。


どうするんだろう?前回はみんなを敵に回して1人でクラスを圧倒した。

その『熱』でクラスをまとめ勝利に導いたその勇姿を伊勢さんに送ってもらった動画で毎日見ている。



 承くんは言った、

『それでねHRの流れなんだけど、まあ前回みたいに香椎さんに演説してもらった後にね、俺が皆を煽るよ。

 一言で言うと毒を吐くよ!


 その上で…申し訳ないんだけど…

 香椎さんにも噛み付いて、馬鹿にする…。』


『えええ?!』


 私にも?承くんが私に悪口言う?想像つかない…嫌だなあ。

嘘とわかってても傷つきそう。


『そうすれば、クラスの怒りや憎しみが全部俺に向く。

 俺が合図したら


『みんなにそんな事を言うなんて!立花くんを文化祭実行委員から解任します!

 後任は外町くんにお願いしたいんだけど。』


 これなら外町は引き受けやすく、プライドも保てる。』


『…いや!』


承くんは、私にメリットを全力で伝える。

ほんわか承くんに策があるんだ?って思ってた私はやっと気づいた。

これもまた自作自演マッチポンプだ?!

自分に敵意や憎悪を集めて、全部それを背負い、後任の外町くんに託すつもり。

外町くんならこの状況でもなんとか出来ると信頼してるんだ?

でも!これじゃあ承くんが!承くんが頑張って得たみんなの信頼をどぶに捨てるようなもので…展開によってはクラスに敵を多く作るかも?!


私には代案なんて無い。やだ!やだ!ってごねてみた。

なんか違う案出てこない?


承くんは言う、

『だから!絶対成功させたい!多少の我慢はするって言ったじゃん!』


『多少じゃないでしょ!それじゃあ承くんがみんなに嫌われちゃうじゃない!』


『元々ぼっちだからいいの!みんなで文化祭楽しむんでしょ!俺じゃクラスはまとまらない。

 外町ならそれが出来る!』


『承くんのわからずや!!

 承くんと実行委員やりたいの!外町くんが優秀とか関係ないの!

 誰かを犠牲にしてまで…そんなの嫌だよ…。』



『俺が好きですること。

 そして香椎さんの願いを叶えるって誓った!

 俺は自分の能力全てや悪辣な手でもなんでも使って必ず叶えるって誓ったの見たでしょ!』


 承くんの本気に少しひきながらも真剣に私を思う気持ちが伝わって私は涙目でイヤ!イヤ!って連呼した。子供みたいに。

本当は文化祭で小幡ちゃんと勝負して勝ちたいよ。

でも承くんを犠牲にはできないし、する気もない。

(ああ、勝負したかったなあ。でもしょうがない。小幡ちゃんに勝ちを譲ろう。今回は仕方ない。)



私はやっと諦めがついた。

私なりの決意を口に出して承くんに伝えようってその時、






『俺好きなんだ、玲奈さんのことが。』



?!?!?!


 私の聞き間違い?!

いやそんな事ない!

毎日、火を吹くような演説動画見てるんだよ?聴き間違えるわけがない!


『ひゃっ!!』


(言葉が出ない!)


承くんは続ける、

『玲奈さんとのこの美術室の時間や、修学旅行やマラソン大会や体育祭色々あるけどどれも素敵な思い出で。』



刻々頷きながら急に始まったロマンチック劇場に身も心も奪われて私は思考をぶん投げた。

 私は思う、告白する方もビシッと決める事が必要だけど、告白される側もきちんと仕上げて受け入れるべきだと。

私は眼を潤ませて少し上目遣い、戸惑いながらもにっこり微笑みながら彼からひと時も目を離さずに返事する。はい!って。



『ひゃい!』


自分の理想とは全く違う、噛んでしまった…。

告白され慣れてるはずだったけど、本番は違うよ!

いっぱいいっぱい!どうしよー!!



『俺はこんなことでしか好きな娘を助けてやれない、無理をしなけば好きな娘の願いを叶えてやれない。

 今日だけ、今日だけは俺の言うこと聞いてくれない?

 絶対クラスまとめて見せるから。』



 私はストレートに好きって初めて言われたショックで頭がばかになっていて、正直何が何やら?

顔は真面目だが頭の中はピンクなことでいっぱい!

どうしよー!!

かろうじて無理しないとどうにもならない、今回だけは言うこときけ!とだけ理解した。



『こんな慌ただしいのじゃなくってちゃんと機会を作って想いを伝えるよ。』



本当?



『じゃあ卒業式の日!卒業式の日にきちんと想い伝えてくれる?

 怪しいな?

 なんかまた理解してないってオチじゃないの?』


心配で確認する。


『俺、香椎玲奈さんのことが、女の子として好き。大丈夫、理解してるよ!

 知らないだろうけど、子供の頃からずっと好き。


 卒業式の日に必ず想いを伝える。どんな形であろうと。

 ラブストーリーみたいにはいかないけどビシッと!

 武将の話や昔話みたいに最後は締めてみせる』


ふー!!女の子として好きだって!!

でも…武将?昔話?みたいに?どゆこと?



私は頭がバカになってしまい、全て受け入れた。

せめて承くんの望む通り全力で小幡ちゃんと戦い、出し物で勝って最優秀クラスを獲るって誓った。


それでね?面と向かって好きって言ってくれた承くんに私も誠意を見せなきゃ!って思ったの。勇気を出して好意を伝えてくれた!そのお礼というか?ご褒美?


これは…手付け!手付けみたいなもので…

本番告白まではまだ『カレカノ』じゃないけど、暫定というか、仮というか、有力候補というか、みたいなもの?なんて言えばいいのかな?

少し長考していたみたい。背を向けていたので振り返ってにっこり笑顔で声をかける。




『承くん…。』



ビシッと手を挙げて承くんは美術室を足早に出て行った。

何それ?






そして終わりのHRが始まる。



私は文化祭が最後の大きなイベントで特に3組の気合いの入りようについて語り、次に承くんが出る。



みんなが注目してる。

承くんは事情を知ってる私が止めたくなるほど長々クラスメイトとクラスをディスってた。

やめて?みんな超怒ってるよ?!

クラスの雰囲気が敵意一色にに変わっていく。


立花『はいはい、どうせ口だけでしょ?

漢なら百遍言うより一回やってみせろよ!』



クラスの苛立ちがビリビリ感じられる。

承くんは体育祭の事象をひとりひとり言及していく。


クラスのみんなの承くんを見る目がもう違う。

少しおこらせる位でって思ってたのに全然違う!!


みんなの顔が失望に染まっていく。これは絶対に良くない!

早めだけど私がもう止めて外町くんに回そうかな?

外町くんだけはニヤニヤしながら楽しい様子で見てる?



意識をそっちに持っていかれた瞬間承くんの話は私に向けられる。


私を直接見ないで横の花瓶を見つめながら承くんが私に向かって毒を吐く。



立花『大体、香椎さんだって良くないよ。

みんなの為みたいな顔してみんなを甘やかしてこんなダメなクラスになったんだよ。』



(言えている。私が悪いのかな?)

私はいつも承くんの話だとすんなり聞き入れてしまう。

腑に落ちるっていうのかな?信頼してるからそうなのかな?って思ってしまう。

嘘…なんだよね?




立花『大体はぶられたのだって脇が甘いとしか言えないし、そもそも八方美人で、身内に甘くて、ええかっこしいなんだよ。

ハブられて唯一味方についた俺なんか見向きもしないでみんなばっか見てさ!もう俺着いて行けないよ!』



がつん!がつん!がつん!

脇、八方美人、身内に甘い、ええかっこしい。全部思い当たる…真実だから余計に鈍器で殴られたような…いやそれなんかより



唯一味方についた俺なんか見向きもしないでみんなばっかり見てのところで息が苦しくなった。

息を吐きながら吸ったようなカッて呼吸が出来なくなった。

確かにそうかも?

人ばっかり気にして、私は嫌な女だ。

もう着いてきてくれないの?

私はもう泣きそうだった。



クラスの反応も、


『え?立花くん香椎さん好きだったんじゃ?』

『所詮ぼっちだから人の気持ちわからないんだよ!』

『香椎さんを逆恨みしてない?』

『本当に香椎さんを好きなんだって感動してたのに…。』


(ダメだ!ここで泣いたらみんなが絶対に承くんを責める!全面敵になっちゃうよ!嘘なんだから!ショック受けるな私!)








立花『香椎さんなんて好きになっても絶対手に入らない…。好きにならなければ良かった!』



(!!全部が出鱈目ではない…真実が含まれている…。)

私と承くんだって結構付き合いは長い、前回の演説動画だって毎日見てる。

嘘を言う雰囲気みたいなの少しは見抜ける。

そんな私だからこそ気づいてしまった。



数秒の沈黙が容赦なく私の涙腺を抉る。



『ふえええ、えぇぇ、ああん…』



私はみんなの前で泣いてしまった。


合図みて承くんを解任して、外町くんを実行委員に新任する計画が、実行出来ない。

でも私はそれどころじゃなくって、




このタイミングで、外町くんは大きなリアクションをとりながら皆に語りかけた。






外町『頑張ってみんなの為に尽くして来た香椎さんを侮辱して、逆恨みし、もう着いて行けない?そんな奴はクラスに必要無い!

立花!お前を実行委員から解任する!

僕が実行委員になり、皆んなと文化祭を成功させる!

良いよね、香椎さん!』



クラスの皆は拍手して、外町くんの宣言を支持した。

私は承くんに言われてたから泣きながら承認した。




外町『元々立花は自分勝手でわがままで自分の利益最優先で嫌な陰キャぼっちだった!

体育祭で香椎さんを支えていたから言えなかったけど、ついに本性を表したな!

クラスの面汚しが!

こいつ何考えているかわからないから皆気をつけて!』



そんな人じゃないよ!承くんは!

私は泣きじゃくりながら言おうとしたが承くんと目が合い、目で止められた。

誰か、外町くんを止めて!私は言いたいが言えずにHRが終わってしまった。


私がぐずっている間に今までグダっていた雰囲気は一層され役割分担など諸々決まっていった。

こうゆう仕切りは本当にうまいよね、外町くん。


私がジュリエット、外町くんがロミオに決まった。



HRが終わると承くんは完くんと伊勢さんにすごい勢いで連れていかれた。

クラス内では承くんは卑劣で歪んだ裏切り野郎って事になってた。

あんなにさっきまで体育祭の英雄!みたいに持ち上げてた子が同じ口で承くんはおかしいって事を言う。

女子更衣室で立花みたいに愛してくれる男子はいないよー!って推してた女子が3回告白して諦めないのは偏執的だって罵る。


共通の敵が出来て、団結する1組。

私が望んだ『みんなで』は決してこんな形では無い。

でも私の願いを叶えるために承くんが文字通り身を斬って用意してくれた状況。

私は明日から、全身全霊、一心不乱に文化祭の準備に全てを賭ける事を誓う。


それでも今日だけは色々あり過ぎて疲れ果ててしまった。今日だけは休もう。


(数時間前は承くんが初めて直接好意を伝えてくれて舞い上がっていたのになあ。)


ただ、一目承くんに会いたい。

私は一縷の望みに賭けて美術室で時間の許す限り承くんを待ってみようって思った。

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