第113話 初めて伝える想い

自分の思うヒーローって誰だろう?

人によって違うと思う。戦隊ヒーローとかサッカー日本代表とか人によってはプロレスラーだったりお笑い芸人だったり。

成長に従って変わったりもするよね。あっちゃんも俺にとってヒーローだし。

でも最初のヒーローって大体父親じゃない?普通の家庭環境なら。

父さんは大きくて強くて家族の為に働いて、俺たちを愛してくれて。


俺の一番古い記憶は父さんとお風呂に入ってる4歳位の光景。

父さんに戦隊ヒーローの話をしてたっけ。

父さんは、

『父さんの時代は戦隊じゃなくって宇宙刑事だったなあ。』

って言いながら調子外れの歌声で主題歌を歌ってくれた。


全然覚えていないんだけど、サビの部分だけ父さんは

『父さんもそう思う。そうあるべき。』って言ってたのを鮮明に覚えている。ヒーローの言う事はスッと自分に入ってくる。




愛ってなんだ?

ためらわないことさ!

そんな歌詞だった。幼い俺は確かにそうあるべきって思った。



父さんは数年後生まれた弟の心臓が悪く膨大なお金が必要になった時、

借金をして弟の命を救った。

父さんの姿に俺は愛を感じる。



俺にはまだ愛が全部はわからない。でも俺にもヒーローの血が流れている。

だから香椎玲奈のことなら、香椎怜奈の為なら、




10月3週火曜日。

前日まとまらないクラスをなんとかする為に色々準備した俺は玲奈さんと美術室でおちあう。



『ごめんね?昼は忙しいのに?』


香椎さんは輝くような笑顔で応えてくれる、

『そんなこと!それより大丈夫なの?

無理しないでね?

私が頼んで言うのもなんだけど…』



香椎さんは申し訳なさそう。

でも、俺が好きでやるんだし。


『それでねHRの流れなんだけど、まあ前回みたいに香椎さんに演説してもらった後にね、俺が皆を煽るよ。』


『やっぱり!また煽るの?

みんな怒っちゃうよ!』


香椎さんはふふ!って笑いながら言った。


『でもね、煽るだけじゃ全然足りないんだ…こないだも1回煽ってるし。』


香椎さんは不安そうに、


『そうだよね…どうするの?』


『煽ってから皆を俺が挑発して、馬鹿にして怒らせる。

一言で言うと毒を吐くよ!


その上で…申し訳ないんだけど…

香椎さんにも噛み付いて、馬鹿にする…。』


『えええ?!』


香椎さんは驚いている。

続ける。


『そうすれば、クラスの怒りや憎しみが全部俺に向く。

俺が合図したら


『みんなにそんな事を言うなんて!立花くんを文化祭実行委員から解任します!

後任は外町くんにお願いしたいんだけど。』


これなら外町は引き受けやすく、プライドも保てる。』


『…いや!』


俺は、メリットを全力で伝える。

実行委員立花→外町は能力が大幅アップ。

外町グループも全力で動いてくれるだろうし、外町の統率力、判断力は文化祭にうってつけ。劇も多分ロミオやるだろうし全力でクラスが動き出すはず!

体育祭でほぼ存在感無かった陽キャがここでは大活躍できるはず。これで彼らにもイベントの楽しんだ、主役の思い出ができる。

共通の敵(立花)の出現でクラス一体になれると思う。敵がいれば結束は固まる!

俺は実行委員外れるけど別にグレて手伝わないとか絶対しないから特に問題ないはず。



まあとにかく外町を巻き込んで外町の能力を有効利用して、

最大派閥の外町グループがやる気MAXで使える。

共通の敵の出現で緊張感と結束ができる。

この2点の有効性がわからない香椎さんではないはず。

…でも真面目だから嫌がるかもなあ?とは想定してた。

だから昨日話さず直前の昼まで言わなかった。



想定通り、香椎さんはごねた!やだやだ!って子供みたいに。

思った以上に頑固に俺の話を聞いてくれない。


『だから!絶対成功させたい!多少の我慢はするって言ったじゃん!』


『多少じゃないでしょ!それじゃあ承くんがみんなに嫌われちゃうじゃない!』


『元々ぼっちだからいいの!みんなで文化祭楽しむんでしょ!俺じゃクラスはまとまらない。

外町ならそれが出来る!』


『承くんのわからずや!!

承くんと実行委員やりたいの!外町くんが優秀とか関係ないの!

誰かを犠牲にしてまで…そんなの嫌だよ…。』



『俺が好きですること。

そして香椎さんの願いを叶えるって誓った!

俺は自分の能力全てや悪辣な手でもなんでも使って必ず叶えるって誓ったの見たでしょ!』

決意 参照。



涙目でイヤイヤする香椎さんが本当に愛おしい。

こんな俺が役にたてるのはこういう場面しかない。

文化祭で小幡さんと戦いもできずに負けるの?

いや、俺がそうはさせない!



昼休みの間にもう一個用事があるから香椎さんに時間を取りすぎるわけにはいかない。

俺が好きでやることだ、

俺は理由を伝えなければならないと唐突に思った。

覚悟決めろ俺!


じっと怜奈さんの眼を見つめて、声を張る!








『俺好きなんだ、玲奈さんのことが。』




玲奈さんが跳ねた、


『ひゃっ!!』



『玲奈さんとのこの美術室の時間や、修学旅行やマラソン大会や体育祭色々あるけどどれも素敵な思い出で。』


玲奈さんは眼を潤ませて、戸惑いながらもにっこり微笑みながら噛んだ、



『ひゃい!』



『俺はこんなことでしか好きな娘を助けてやれない、無理をしなけば好きな娘の願いを叶えてやれない。

今日だけ、今日だけは俺の言うこと聞いてくれない?

絶対クラスまとめて見せるから。』



赤くなりながらまだ難しい顔してる



『…。』



『こんな慌ただしいのじゃなくってちゃんと機会を作って想いを伝えるよ。』



しばらくして口を開く。



『じゃあ卒業式の日!卒業式の日にきちんと想い伝えてくれる?

怪しいな?

なんかまた理解してないってオチじゃないの?』



『俺、香椎玲奈さんのことが、女の子として好き。大丈夫、理解してるよ!

知らないだろうけど、子供の頃からずっと好き。


卒業式の日に必ず想いを伝える。どんな形であろうと。

ラブストーリーみたいにはいかないけどビシッと!

武将の話や昔話みたいに最後は締めてみせる』



『武将の話って…恋愛の話じゃ?

え?本当に本当?』



『本当に本当に本当。』



『わかった、今回だけ我慢する。

ううん、私がわがまま言ったから…ごめんなさい。

承くんが身を挺してくれたこと絶対忘れない。

必ず結果出して見せる。

何か要望はある?』



『好きな女の子のわがまま叶えるために無茶するのが漢でしょ。


出し物がやっぱり花形だから出し物で優勝して学年最優秀クラス取って欲しい。』



『約束するよ!見てて!』



俺は初めて目を見ながら玲奈さんに好きって伝えた。心臓がおかしい。

このタイミングってどうなの?

俺も色々考えすぎて頭おかしくなりそう。



『承くん…。』



香椎さんはもっと話したかったようだけど次の約束があるので、美術室を足早に出て、校舎裏へ向かう。





居た。

もう来てた。



『男子にここに呼び出されたの初めてだよ?』


『女子には呼び出されてるってこと?外町は?』


『まあ、要件はわかってるけど…。』


『香椎さんを文化祭で小幡さんと全力で勝負させてあげたい。

香椎さんの望み、みんなで文化祭を成功させたい。

この二つ叶えるために、外町に協力をお願いしたい。』



『そう?どうしようかなあ?』


外町と一対一でしっかり話すのってそういえば初めてかも。

毒を吐くのに良く効く毒の心当たりがあった。

不倶戴天の敵と手を組む為、俺はなんでもする覚悟だった。

例え何を要求されても俺はためらわない。

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