第109話 夢と学び

誰しも一度は何の為に勉強するの?って疑問を抱くと思う。

俺もその例にもれない。もちろん腕力が暴力が全てだー!なんて世紀末な時代を望んでいるわけでもないし、勉強くそくらえ!なんて思ってもいない。

何でこんなに勉強しなきゃなのかなー?とは思っちゃう。



10月2週。ようやく体育祭を終えてしばし平常な日々、来週末くらいから文化祭準備が始まるこの隙間の期間に3者面談があった。

その為上のようなことを思ってしまったわけで。


俺は予定通り、公立の東光高校(偏差値49位)を受験、私立は適当な滑り止めを受けるが経済的なこともあるし東光以外は行かないと思う。


『何か夢があれば、そこから逆算して進路決めてもいいな?』


と担任の柳先生は言ってくれたけど、夢?夢…。

中学生で決めてる奴はすごいな。純粋にそう思う。

身近に1人だけ居る。

完くんである。


『俺、プロ野球選手になりたいんだ!』


中3のこの時期に胸を張って言える完くんが眩しい。

秋に入り、日曜どこかの高校がトライアウトしてると聞けば県内に限らず遠征していくんだって。

それで受かっても最低限度(本当に最低限度)受験しないといけないから完くんは俺に頼んで勉強を最低限頑張っている。

完くんは勉強要る?俺には疑問が残る。


しなきゃいけない事だし、意味ない!って拗ねているわけでもない。

でも俺には特別意味を感じない。俺は怠惰な人間なんだなあって思ってた。




3者面談の次の日。

美術室。

そんな疑問を香椎さんに聞いてみたくなったが…、

(でも、馬鹿な子供だなあって軽蔑されるかな?やっぱやめとこ)


3者面談直後だから自分の志望校の話になった。


『そっかあ、承くんは予定通り東光なんだね?近いし、うちから多くの人が志望校にしてるね?』



『香椎さんは?』



『私は公立は県高で私立は天月あまつき予定かな?』


県高は県の名前を冠した公立高校の最高難易度確か偏差値71位?

天月も県内私立で最高難易度の高校で確か偏差値73位?強気!!

確かお姉さんが天月なんだっけ?すごい姉妹だよね…。

うちの中学から3−6年に一人進学するってレベルだよ?



クラスの子が言ってた。


□ □ □

3者面談直後の同級生女子の会話。


『香椎さん県高と天月だって!すご!!』


『すごいよね。県内出身の政治家とか偉い社長なんて大体そのどちらかだよね?』


『本当それ!』


『香椎さんなんて、何にでもなれるよね?美人で学があって多才でさあ。』


『本当だよね?頑張れば女子アナとかアイドルとかプロテニスプレイヤーとか?女優もいけるかもね!』


『大変なんだろうけど、何にでもなれそう!どんな夢叶えるんだろう?』


『凡人にはわからんね?でも将来香椎玲奈の同級生ですよね?!とかテレビの取材とか来たりして?!』


『すげえー!』


(なんかわかる気がする。)


□ □ □


『香椎さんは夢とかある?』


何となく、聞いてしまった。聞いても自分との落差を感じるだけなのに。


『え?えー?!

…ひ…秘密…!』


香椎さんは顔を赤らめて恥ずかしそうに濁した。


(俺なんかに話せない?もしくはすごく大きくってまだ荒唐無稽な壮大な夢かも?)


『夢叶うよ、香椎さんなら!』


『叶うかな?叶うと良いなあ?』


赤くなりながら恥ずかしそうに呟く香椎さんに羨望を覚えながらも香椎さんの夢が叶うと良いと心の底から思う。


『俺は何がしたいんだろう?』


子供の頃は将来の夢 武将だったけど流石に(笑)

香椎さんは言った、


『高校で見つかると良いね?』


『その為に勉強しなくちゃだね。』


『そういえば青井くんや完くんに勉強教えてるんでしょ?どう大丈夫?』


香椎さんはそう言うと少し手ほどきしてくれた。

え?そうなの?そう思う驚きがあった。


『そうだよ?理論的にここは…。』



夏休みに青井が小幡さんに勉強を教わった時、頭いい奴の勉強は理論的って言ってて、俺は、

(青井は何を言ってるんだ?)

と思っててたけど、俺の勉強は理論的で無かった!

カルチャーショックを受ける俺。


香椎さんの説明はとてもわかりやすくてスッと入ってくる。

思わずに何で勉強しなくちゃいけなのかな?って聞いてしまった。


『私もお姉ちゃんからの受け売りなんだけどね?

人として様々な能力を育てる為なんだって?

言語能力、計算能力、思考力、発想力、表現力、いろいろたくさん。

大人になってからの日常や仕事、『その時』の為にね?』



目から鱗とはよく言ったものだ。

香椎さんと話をすると驚かされるが今日もそうだった。

本当に香椎さんは可愛だけじゃない。尊敬してしまう。



『香椎さんは先生も向いているかもね?

香椎さんが先生だったらいじりやいじめで泣く生徒は居ないね。』


『どうかなあ?人と人ってシンプルだけど難しいよね。今回痛感したよ。』


『香椎さんでもまだ学ぶ事があるんだねえ?』


『一生勉強なんじゃない?』


ふふふ!って2人で笑って、話は続く。

どうしても気になっちゃって香椎さんの夢の話を聞いたけど話してはくれなくてちょっとだけがっかりした。

夢…かあ。

まだ中学生の俺には夢って言葉が大きすぎて現実味が無かった。

漠然と人の役に立つ仕事がしたいって言ったら香椎さんがすごく承くんらしいって褒めてくれた。

まだまだ形にはならないよね?


□ □ □

夢の話  side香椎玲奈


今日は承くんシリアスで志望校の話、勉強の話、夢の話をした。

志望校はお互い知っていたから確認作業。でももうじき離れ離れになるんだなってブルーな気持ちになる。


勉強の話は結構感銘を与えたようで勉強する意味、意義を説明したらすっごい納得して喜んでくれた。私の知るコツや勉強法を一生懸命覚えていたから受験前に学力伸びるといいね?


そして夢の話である。

私だってまだこれ!って夢は無い。

強いて言うなら…いや言えないよ!

まして本人の承くんには!


なのに本人は、


『香椎さんの夢叶うといいね?』


私は思う!


(君次第でしょ!!)



『夢叶ったら祝いするから教えてね!』


(君と叶えるのに君に叶ったよ!って報告するの!?)


うーん、フラストレーション溜まる…。




みんなの志望校も出揃い、中学生活もあとわずか。

もう半年無いんだな…。

こうゆう何気無い承くんとの日々が刻一刻と減っていくことに私は恐怖している。

ちゃんと高校生になっても承くんと繋がりを…。

私もっとがんばらなきゃいけない。




私は今悩みが無くて、結構幸せ。

2学期開始と同時に起きたクラスにハブられたのも解決し、体育祭も勝利し、今時点では大きな悩みが無くって。

もう少しすると文化祭で忙しくなる。今は中休みで毎日放課後承くんと一緒!すごくゆったり、楽しい時間を満喫している。


よく聞く言葉で

『後から思うとあの頃が一番幸せだった。』

そうならないように

きちんとお互いの思いを育てていきたいな。


□ □ □

その頃3組はこっそり担任教師の融通を効かせた『理科室』を根城に

ほぼ全員で会議をして諸々決めていた!


小幡『今年も劇で行くわ!』


相談の結果、演目は美女と野獣になった。

主演は小幡、青井。


『青井くんは、ケダモノね?』

『女王が弱ってる時に卑劣な…。』

『男子はエロいことばっか!』


体育祭のドタバタで小幡にキスを要求したのがクラス全員にバレてしまい、

青井のあだ名が『ケダモノ』になっていた。


青井『納得いかない。』


3組はこっそり文化祭準備中!

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