第96話 どこが嘘?【side香椎玲奈奈】

やっとクラスが収まった…。

安心したのは否め無い。もちろん終わったわけでは無いし、油断すれば再発もありえるし何か違う問題が起こる可能性もある。

もし負ければ誰のせい?ってなって二村さんたちがいじめられる可能性すらある。やはり負けられないよね?


とりあえず今日の作業を確認、指示して色々割り振るが今日支持を申し出てくれたみんなをとっても人手が足り無い小道具係にほぼ突っ込む。

大道具のパネルは少数精鋭でないとかえって邪魔だし。

応援団も基本人数足りてるし、今から新入りの意見を取り入れられる進行度では無い。

『えー?こんな地味な仕事?』

『応援団で綺麗な衣装作ってもらって私たちのコーナー作ろうよ!』


(この子たちわかって無いよ!)

思うけど、ここは我慢!おだてて小道具をお願いする。

応援小道具や体育祭飾り付け用の造花の割り当てなど作業が多くここまで人手不足で進行が遅かったんだからここで頑張ってね?


さて、そんなことはどうでもいい。

HRの承くん演説について私は追求したい!


仕事が押してるから仕方なく指示、進行してるが正直それどころではない!

私の気になってる点は結構ある。



嘘はどこの部分か?

オーバーに話したこととは?

告白3回?

私のこと好きなの?

なんでここまでしてくれたの?

感謝を伝えたい。

何かお礼がしたいな。


うーん、まとまって無い?冷静なようで動揺してるのかな?

ここまでうまく行って今日クラスが収まるなんて思ってもなかった。

味方を増やして有利になってじわじわ勢力図が変わっていく感じを想定していた。

間違いなく承くんの『熱』の結果。クラスを自分の熱で押し切ったのは横で一部始終見ていた私も熱くなった。

本当に恥ずかしいけどあの勇姿を見てたら心も身体も熱くなってしまった。

もう今日口説かれたら私はなんでも言うこと聞いてしまうかもしれないよ。


下校時刻ギリギリ、もうじき6時の美術室。

帰りに美術室寄ってって伝えたからもうすぐ来るはず。

…私ちょっと意識してるかもなあ。


ガチャ


承くんが来た!

まだまだ暑いから最近クラスの男子で首に涼しい素材タオルを巻くのが流行っているんだよね。

承くんは薄いグレーの涼しそうなタオルを首に巻いてた。



『香椎さんお疲れ!応援団はね?…』


事務的な報告を受ける。性分なんだけどこうゆうのを疎かに出来ない私。

報告と気になった点を聞いて、私も同様の報告、相談をするよ。

いや!今はそれどころじゃないでしょ!と思いながらも仕事終わらないと私語できない私の職業病。



お互いの報告が終わったのは6時半、もう帰らなきゃって時間。

私は勤めて冷静に話す。



『承くん、今日は本当にありがとう。』



『いやいや、香椎さんの普段の行動と人望があったからだよ。俺はちょっと水を向けただけ。』


私の好きな男の子は本気でそう思っているのだ。これが他の男子なら功を誇ったり、自慢げにその時のことを話すのに全く恩に着せず、自慢をしない。

そうゆうところ尊敬してるんだけどね。


『そんなこと無いよ!承くんの言葉だから、本気の熱が伝わったから心が動いてみんな協力を申し出たんだよ!』


『そうかなあ?俺を補佐に選んだ。それも含めて香椎さんの力でしょ?』



(本当にそう思ってるんだよなあ?無欲というか…。

今日は香椎さん呼びばっかり?注意したいけど今日はそれどころではない!)

私はこれを口実にお礼と称して進展したいんだけど、本当に無欲で何も要求してくれないのだ。



(色々さっきの演説について問い詰めたい…でもどこからのどこまで?

難しい…。)



(もし…もしも、もしもだよ?ここで重要な話になって、告白って流れになっても私は…私には全く断る気は無い!あんなの見せられたら我慢できない!)

思い浮かぶのはクラスを敵に回し、一歩も引かずに私を弁護、支持、擁護してくれたあの姿。

みんなの前で私が好きって宣言し、クラスに檄を飛ばすあの声。

私は絶対にみんなの前で好意を宣言なんて出来ない!恥ずかしくって死んでしまう。

その場面を思い出すだけで胸の鼓動が収まらないし身体と心は火照ってる!

大好きは止まらないし、なんならもう直接くんくんしたいよ!



迷っていても仕方ない。時間も無ければ私に余裕もない。

その覚悟というかいくつか展開を予想して話を核心へむける。


9月はまだ日が長く、私の好きな夕暮れ時の美術室。

イベント特有のざわざわした校舎、人の音、作業の音。

私は口を開く、


『承くん…今日のHRの話なんだけど…?』


『ごめん!調子に乗りすぎた!思ってた以上に白熱してしまって…不愉快だったよね?どこから聞いてた?』


『終わりの方からだと思う…何を言ったのかな?』

(どこが嘘なの?!私のこと好きって言ったよね?!)



『聞いてないならよかった…まあ色々なんだけど…。』


『なんかまずい嘘ついたの?』


『あの…香椎さんにね?告白…。』


(キタ!肝心のところ!!)

『うん?告白がどうしたの…?』



『香椎さんに3回告白したって勢いで言っちゃった…。ごめん。』


『…ふーん?3回も告白してくれたの?』


『いや、ごめん、俺なんかがイキってるって思われるかもだけど、フラれても香椎さんが好き!って、そういう奴がそれでも好きな位香椎さんは良い娘だ!って主張したくて…つい…言っちゃった。』


『そうゆう理由なら?仕方ないよね?』

(なんで?そんなにビビってるの?) 



あんなに大勢のクラスメイトを的に回して一歩も引かずに私を擁護し続けてた承くんが私1人には気後れしてるのかな?



『俺が言ったせいできっと香椎さん立花3回フったの?って結構聞かれると思うんだよ。

3回告るくらいだから立花は香椎さんが好き!って言ってくる奴も多分出ると思う…。』


『そっかあ、まあそれはしょうがないよね。』


『ごめんね、迷惑だよね?本当申し訳ない。俺熱くなりすぎちゃって…。

だから「もし立花が香椎を好きって聞いても適当に聞き流して」!』



!!!

(承くんは私が聞いてないと思って、演説の中の『俺、香椎玲奈が好き!』を3回告ったという嘘に紛れ込ませる気だ!)


    

これどっちだ?

後でしっかり告白するからこれはノーカウント!

なのか

勢いでオーバーに言っちゃった!やっぱ無し!なのかな?!


前者ならここは追求したくないよ。

私も告白はムードや準備をして欲しい!

後者であっても…逃す気は無いけども!

私の為に矢面に立ってくれて今回の解決の立役者だよ?あんなの好きになっちゃうよ!(元々好きだけども)


際どいところ攻めてみよう。確認せずにはいれないよ。



『ふふー?どうしようかな?

…でもね?一回でも告白してくれないの?』 



『…告白を断る香椎さんの辛さを聞いてるから、不用意に香椎さんの負担になるようなことは出来ない。』



『そっかあ。』


本気でそう思ってるのが伝わってくる。

すぐ告る男子に少しでもこの心遣いを持ってほしいな。

そしてすぐ告る男子のあと先考えない思い切りの良さを少しだけ承くんに分けてあげて欲しい。いや、相入れない性分なのはわかるんだけどね?


頭では色々わかった。

追求すべきものでも無いよね。

『立花承は香椎玲奈を好き』なのは好意の大小あれど確定している!

卒業式の日に綺麗に確認出来たら良い。

今はそれで良い。

ただ今回のことで私は知ったんだ。

まだ好きの先がある。もうこんなに好きなのに今日もっと好きになった。

私の心大丈夫なのかな?なんかエラーを起こしてない?

お姉ちゃんに相談したいけどハブられたところから説明したく無いからしばらく保留するよ。



『それでさ、3回告ってフラれてるのに修学旅行で指名されて班ってあの子らが言った、男をおもちゃにしてるっぽい…』


『じゃあ、保利くんと承くんが仲良し設定で…告白時期は…』


詳細に口裏を合わせた。こうゆう作業をおろそかには出来ないんだよね?




話しながら思う、

今日の承くんの勇姿を見て私ははっきり言って興奮してる、身体が熱い。

こんな女の子だって知ったら、承くん幻滅するんじゃないか?って思うくらい、今日私は2人の間を進展させたいんだ。

多少強引な手を使っても最低ハグ!

ハグ位してもらわないと私収まらない!修学旅行の3日目の夜にハグ未遂があった。あれの続き!

承くんも男子なんだからそこで止まるかどうかはわからない。

まあ誠実な漢だから無理矢理される!なんてことは無いのはわかる。

さあ、どうしようかな?




取り留めない話をしてるうちにハブられたことが辛かったって話になった。



『承くん、本当にありがとう、私…。』


『もう何度も聞いたよ!もう言いっこ無し!』


『私、お礼がしたい…。』


『そういうつもりでやって無いって!気にしないで?』



(そう言うだろうと想定済み、言葉用意してあるよ!)



『ありがと、でもね?感謝してるのに何もできないのは辛いんだよ?

私に何かさせて欲しい、何かで返せたら少し心が軽くなるの。

…例えば…デートとか…こないだのほっぺにちゅうとか…承くんが望むなら…それ以外でも…?』



(どうかな?女の子から言うなんて本当は恥ずかしいよ!)



『あー…隣の家のおばさんがどこ行っても出先でお土産買って来てくれるんだけどさ。

もらいっぱなしって訳にはいかないから、お返し大変って母さんがぼやいてた。そうゆうことだよね?』


『ちがう。』



(これは手強いぞ?!)


続く。

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