第93話 傾け傾け

※今回と次回は承くんが暑苦しい作者の趣味回です、ご注意ください。




そして外町との約束の日、HRにてもう一度競技のエントリーを受け付ける。

正直ほとんど名乗り出るものは居ない。

議題としてチーム対抗リレーだけはみんなで決めたい!と皆に布告する。


『女子は香椎さんが最速最強だから香椎さんが良いと思う!』


香椎さんファンの発言に香椎派中立層が大きく賛成してそちらは決まった。

で、男子なんだけど…


候補に上がるクラス最強は完くんと外町。


『僕はその前の1000m走に出るからリレーは出れないねー?

外町くんどう?』


完くんが辞退しつつ、外町を推薦してくれた。


『うーん?僕?』


ざわざわ。


渋る外町に外町を推す声、外町くんは出ないでしょ?って敵対派の声。

外町ファンもリレーでアンカービシッと決める外町見たい!ってなってる、見せ場として最高だよね。

外町もその美味しい場面に心が揺れてるように思える。


香椎さんが畳み掛ける。

まだ返答せず迷ってる感を出しながら、ここもお願いと。


『外町くんどうかな?クラス委員長としてクラスを勝利に導いてよ?

温存するために他の競技は免除でいいから!おねがい!』


反対派もいるけど外町は人気があるから支持層が外町が最高に目立つクライマックスを見たい!って声が大きく、渋々という体で外町はアンカーを引き受けた。


(よし!これでリレー勝ち目が出てきた!)


多分1年女子の望、3年女子の香椎さんはまずリード取れるし、アンカーの外町も去年青井とデッドヒートを繰り広げていて互角なはず。

6人の走者のうち2勝1引き分けは見込めるからかなり有利!あとはなんとかクラスの敵対派を少しでも引き入れて、クラスをまとめて、体育祭へ臨みたい!




今日のHRで香椎さんと立花が敵対派を最後の説得を試みると一部生徒には伝えて居た。

事前の打ち合わせで、香椎派中立の子たちには今日まで中立を保持してもらった。今日のHRを見て立場を鮮明にして欲しいと伝えてある。

中立の子たちにも一部信用できる子には同様のことを話してある。



今日の話の流れ次第でこのまま分裂状態で臨むか、一部でも敵対派を引き込めるか?の分水嶺となるHR。

敵対派も大きく分けて3つ。

二村さんとフラれた彼女を中心とした敵対中心派。

クラス男子最大派閥の外町グループの便乗派。

流れと上記とつながりがある引っ張られた派。

の3派で上から順に頑なな状態。


特に引っ張られた派は体育祭の盛り上がりや他クラスの煽り、ライバルの挑戦などで結構グダっているから話の流れでクラスの世論次第ではこっちに流れてくる可能性が大きい。

それを狙っている!最悪そこが取れればクラスの民意!ってなって外町派閥も流れで逆恨み派を切り捨てて寝返ってくる可能性すらあるんじゃない?と思ってる。

まあ取らぬ狸の皮算用だよね?



香椎さんがまず話す、その後一度退場してもらって俺が煽ったり情に訴えたりしていいところで香椎さんに締めてもらうつもり。

俺多少オーバーに話すし、少し嘘も入れるけどなんとか口裏合わせてね?ってお願いした。

香椎さんに泣いても良いんじゃない?って言うと


『泣いてもいいの?』


って。女優もできるんだよね?罪悪感を植え付けて、その後の俺のやりやすさ考えると泣いてくれて良い。



リレーのアンカーが外町に決まったことで話の流れは体育祭のこと。

応援練習も始まるし今のまま不参加多数って訳にもいかない。

そのことを含め、再度香椎さんは敵対グループにお願いした。


客観的に見ても健気で、献身的、みんなのことを思い、思い出を作りたいという今までと一貫した心を打つ呼びかけだった。


それでも


『あなたの感想ですよね?』

『良い子ぶりやがって!男おもちゃにしてんでしょ?』

『そんなにみんなに良い顔したい?』

『八方美人ビッチ!』

『男好き!』



もう体育祭関係ないじゃん?って反応。

それでも辛抱強く語りかける香椎さんの姿に俺涙が出そう。


香椎さん派の皆もかなりキレそう。どうどう!落ち着いて!


二村さんが、

『あんたの話なんて私聞かない!』



その言葉で香椎さんはショックを受けた表情になった。


『…そっか…。』

香椎さんの大きな目からポロポロ涙が頬を伝い、落ちていく。

こんな場面だけどあまりの綺麗さに目が離せなかった。教壇の横で聞いてた俺の横を香椎さんが通り過ぎる。



『立花くん、ごめんね、ほんとに涙出ちゃった…少ししたら戻るからおねがい…。』


香椎さんは俺にそう言うと教室を飛び出した。


俺はさ、いつも花の慶次の話を引き合いに出すってみんなに言われるんだよ。慶次は傾奇者で意味は派手な身なりで突拍子のないことをする人って意味らしいんだ。

で、傾く《かぶく》って言葉がよく出る。

自分の意のまま自由に振る舞うとか異様なふるまいや突飛な行動を愛することを傾くって言う。

俺今日は傾く!

クラスの陽キャほぼ全員的に回すよ!


香椎さんを泣かしてふふんって顔してる二村さんに壇上から語りかける、


『じゃあ俺の話聞いてよ?』



は?って顔された。壇上に居たのに認識されていなかったらしい。


『そんなに香椎さんが悪いかな?』


『は?悪いに決まってるじゃん?』


話し始めると教壇の真ん前の席の伊勢さんがタブレット取り出した。

いや、伊勢さん話聞いてよ?


『何が?告白してフラれるなんてよくある話じゃない?』


『は?ディスってんの?』

二村さんこわ!修学旅行ん時傘直そうとしてくれたりあんなに良い子だったのに!


『ディスってないよ?でもそこまで怒ることか?って言ってんの。』



『ぼっちが!』

『陰キャのくせに!』

『イキってるぼっちきんもー☆』


(きんもー☆は何故かダメージ受けるなあ。)


『何?文句あんの?香椎に泣きつかれた?』

二村さんは自分が正しいことをアピる為に俺の話にのってきた。



『泣きつかれてないよ、でもそこまで言われるほどのこと?とは思うんだよね。』


『はあ?告白聞くだけ聞いて雑に返して、告った彼も、その彼に告った私たちも侮辱したんだよ!!』


『そっかあ、でもさ、聞かないで断ったらまた怒るんでしょ?

じゃあさ、例えば仮に俺が二村さんやフラれた君に、クラスでプールに行ってさ、夕方に


好きです!って見た目や性格や、エピソードトーク交えて求愛したとするよ?どう答える?』



『『ごめんなさい?』』


2人してノータイムで断ってきた。いや傷ついては居ないよ?いやほんと…。



『まあ仕方ないよね

でもその直前に仮に仮にだよ?

俺を好きな娘が居て、俺に告ってたとする。

まあ俺を好きな位だからあまり趣味は良くなくって美人じゃないかもしれない。

でも一生懸命告白してくれて、俺はその子に勇気をもらって告白したんだ。』


『うん?』



例え話をしてると伊勢さんがすごい顔で睨んでいる、美人が睨むとマジこわい。

例え話だから怒るポイント無いでしょ?



『俺に告った子が二村さんたちを『立花が一生懸命告ったのに!』ってキレて突っかかってきたら面倒じゃない?』



『まあ面倒だね。逆恨みみたいなもんだよね。』

『仕方ないでしょ?って感じ。』



『そうだよね、急に告られてごめんなさいしただけで…ねえ?』


俺の蔑む目の色を見てやっと言いたいことが伝わったらしい。


『でも!香椎は!』


『まあ聞いて!

それプラス立花まで断り方!って食ってかかってきてどう思う?

面倒でしょ?ごめんさい以外なんていうのさ?』


『私たちはちが…『違わないでしょ!』』


俺は口を挟んだ、


『告白して断られたなんてよくある話だよ!世間ではいくらでもある話!

ましてモテるならそりゃあいっぱい告られるでしょ。でもそれがどうしたの?人のプライパシーだし、本人同士だけの話じゃん!

それでハブるって?自分の仲間使って集団で精神的に責めてハブるってなんなの?』


『それだけのことをしたの!』

『彼だって傷ついたんだから!』


『それだけのことって何よ?二村さん大して知らない男から告白されて断ったらクラスの大半にハブられても文句無いの?好きじゃないなら断るでしょ?

香椎さんもそうだよ、断ってんのにビッチだ男好きだってなに?

彼だって傷ついてって誰だってフラれれば傷つくし、香椎さんだってフルたび申し訳ないって傷ついてるよ?今までフッた人に義理立てて中学卒業まで絶対誰とも付き合わない!って宣言してるくらい。』



香椎さんは義理立てで中学卒業まで絶対誰とも付き合わないの件でえぇ!ってどよめきがあった。わかるわ。


『そもそもさっきの例え話、二村さんたち俺ふったあと彼に告られたら付き合うんでしょ?』



『『まあ、付き合っちゃうね』』



『香椎さんのこと男てだまに取るとかビッチとか言えないじゃん?

そもそもそんなキレ方して昨日まで仲良かった友達、クラスの為に健気に頑張る良い子をハブって、ビッチとか男あさりとか寄ってたかって罵倒する女の子なんて誰も惚れないよ?』


はっとして思いびとを振り返る2人。


『自分の行動見て見なよ、それでも香椎さんは君らに謝って、仲直りしたいっていつも言ってるよ。自分がされて嫌なことは人にしないって習ったでしょ?

寄ってたかって言葉のナイフ突き刺して、黒ひげ危機一発なら香椎さん飛び出してるよ?』



『…そのツッコミ前に聞いたわー。』


(使いまわしたって良いじゃないか!)

地味にツッコミに突っ込まれたのがダメージだった。



2人に言いたいこと言った。

でも周りが俺に口撃してきている。

こんなに人数居るからやっぱり怖い。


怖い時こそ狂わなきゃいけない。正気で後のこと考えていたらやってられない!

全員敵に回すんだから!

傾け!傾け!



皆を見渡して声を高く宣言する。



『俺は今のクラスの状態が本当に気持ち悪い!

なんなの?協力しないなら、端っこで黙ってたら良い。

香椎さんの優しさに甘えてなんでも押し付けやがって!お前ら恥ずかしくないの?』



大きく息を吸い込む。

思い浮かぶのは『俺のお月さま』こないだ何て言ってたっけ?




『文句あるならかかってこい!』


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