第92話 香椎さんの選択
『ねえ承くん、私どうしたら良いのかな?』
香椎さんは話終わったあと、暗い表情で俯いていた。
外町は本当嫌なタイミングで揺さぶってくるなあ。今の香椎さんの状態なら飛びつきたくなっても仕方ない条件だ。
それだけ悪意を受け続けられることはストレスだし、慣れてない香椎さんは参ってることだろう。
『…。』
俺は返事が出来なかった。色々考えてしまう。
香椎さんが揺れるのは無理ないよね。
香椎さんの願い『みんなと前のように仲良く』がそれなら叶えられるんだから。
『外町くんに助けてもらってみんなと前のように仲良く』になるならそれは仕方のないことだなあ。
一緒に頑張る日々は辛いけどそれ以上に楽しかった。
香椎さんの願いが叶うならここで降りても構わない。多少の苦しい、悲しいなんて感情は好きな娘の笑顔の為なら大したことじゃない。
『香椎さんが辛いなら、外町の申し出受けたら良いと思う。』
『良いの?』
『完くんや伊勢さんには俺が謝るし、香椎さんが思うように、やりたいようにしたら良いと思う。
皮肉とか突き放すとかじゃなくてね?
俺はクラス委員長補佐だから何があろうと、どんな形だろうと香椎さんの願いを叶えるって誓っているから。
香椎さんはどうしたい?
それを教えて?』
『私はどうしたいのかな?何か承くんが思ってること話して?』
俺はまとまってない取り留めないことを話し出す。
今はしんどいけど今回の状況のせいで普段と違う子が香椎さんを支えて、今までとは違うアプローチで体育祭を楽しんでいるよね。
陽キャが全部悪いって言ってるんじゃないよ?でも今まで日陰にいた子たちが今イキイキして今イベントの主役になってる。
これは今まで香椎さんがすすめていたバランスの取れた形じゃないのかな?
これで勝ったらすごくない?
陽キャの力に依存せず!普段は目立たない子も体育祭の主役になれて!
香椎さんが気にしていた声の小さい生徒の声も反映されて!
あとは陽キャを仲間に入れてみんなで勝てたら最高じゃない?
みんなで勝てれば一体感も出るし、敵対した子たちも今は感情的になっていて、告白断るなんて当たり前にあることだって気づいてないだけ。
そもそもそうゆう感情を利用して外町にそそのかされたんじゃない?
外町はリスクを犯さないで香椎さんを叩いたり、旗色悪くなれば二村さんを裏切ることもできる。主導権は自分が持ってるって思ってるんだろうね?
『自分の気持ちわかったよ!
私が我慢して、承くんや完くんにお願いすればって向こうの思う壺な思考になってた!
私は今さら外町くんの力借りたくない!!だから提案は魅力的なのに引っかかるんだ!
今の体制で勝ちたいよ!』
香椎さんはぷんすこ怒りながら言った。
『あと、香椎さん香椎さんって!玲奈でしょ!
私、承くんにはわがまま言うよ?
なんとかなるよね?』
わがままだなあ、でも他の人に言わないわがままを俺に言って欲しいって思っちゃう。
『俺がなんとかするよ?』
香椎さんはにぱっていたずらっぽく笑うと、
『私の今の望みはね、私を騙し討ちしておいて!もっともらしい理由をつけて!恩着せがましく仲裁しようとするズルい男に目に物見せてやること!』
俺は苦笑い。
『煽るの上手くなったね?
もう一度言う、俺がなんとかするよ!』
香椎さんは自分の頬を両手で叩いた!痛そう!
『心が弱ってて甘言に乗っちゃうとこだった!思い出したら腹が立ってきたよ!
辛い時助けてくれた子たちと一緒に勝ちに行く!もちろんクラスを割ったままにもできない!承くん私を助けてね?』
もちろん!
『弱ってるところに付け込む申し出だったんだから迷うのは仕方ないよ。
次のHRで競技のエントリーを募ろう!
今度は俺がみんなを煽るよ!』
『私たち煽ってばかりだね?』
香椎さんは外町の申し出を断るつもり。
直前まで迷ってる感を出して保留している体で行くことになった。
保留しつつ一番名誉のあるラストの組対抗リレーで外町を推薦する。
ラストのリレーはポイントも高く逆転の代名詞的な最終競技。
クラスのエースが出る、体育祭のクライマックス。みんなの注目を浴びて手を抜いて負けるなんてプライド高い外町は絶対に出来ないはず。当然女子エースの香椎さんも出場になるだろう。リレーだけは有利な気がしてる。
それまで敵対してる子には全力でアプローチしていく。
他のクラスの子にも会うたび盛り上げてこんな楽しい祭りに参加しないなんて勿体無い!って雰囲気を作っていく!
あとはHRでどれだけ心を動かせるか?それに尽きる。
⬜︎ ⬜︎ ⬜︎ ⬜︎
そして応援団の結成式が放課後行われた。来週から週3放課後1時間応援練習になる。
応援団はみんなの先頭に立ち、声を出す。
応援合戦では振り付けもして審査員にアピールもする。
リーダー香椎、サブ立花、応援団長完。
3年は伊勢さん、マッチョ2、ギャル、香椎派男子、太鼓係マッチョ
1.2年男女1ずつで3年が多い。
それぞれ挨拶していく。
『1年1組の立花 望です。よろしく願いします!』
香椎さんが話しかける
『望ちゃん応援団やるんだ?』
『はい、兄ちゃんや先輩と最後の体育祭ですし!
本当は小幡先輩と組んで香椎先輩に勝つ方がロマンがあって良かったんですけどね?』
『はは!望ちゃんが味方で頼もしいよ?』
香椎さんと望が少し話し込む。仲良いんだよね。
順番は伊勢さん自己紹介。
『伊勢先輩おっぱいでか!』
『望!なんて事言うんだ!ごめんね?
!!!
伊勢さんより望の方が驚いてるリアクション?
『えー?!立花の妹ちゃんなの?めっちゃ可愛い!初めまして、伊勢成実だよ!』
『妹の望です、兄ちゃんがお世話になってます、お噂はかねがね?』
望は俺の手を引いて話しかける。
『家で話に出てくる
もっとゴツい気のいい理解者の友達じゃないの?』
『
『
※承の教育で望ちゃんは武将に詳しいです。
不思議そうに、微笑ましそうに兄妹を眺める伊勢さん。
望は香椎に話しかける。
『先輩、こないだ言ったこと訂正です。』
『なんのこと?』
(第62話 新入部員立花 望 参照)
『家で出てくる話に女の子の話なんて香椎先輩しか出てこないと言いましたが伊勢さんもかなりの頻度で出てきます。兄ちゃんめっちゃ信頼してます。』
『なんで?前はそんなこと?!』
『家で兄ちゃん、
あんな立派おっぱいの美人ギャルだと思わなくって…。宏介くん、香椎先輩の次に話出てきます!』
『そうなの?!…それもだけど、私より宏介くんの方が話に出るんだ…?』
こうして顔合わせは無事終了。
ちなみに選曲は俺の好みで良いって言われたから好きにした!
皆んなの反応は半分笑い、半分呆れていた。
来週から応援練習も始まる。
焦っても慌てても構わずカレンダーは進んでいく。
各組盛り上がりながら準備を進めていく。
赤組だけは参加しないものが多数いたんだ。
それをなんとかする為のHRに臨む。
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