第89話 香椎玲奈の宣戦布告

こうして9月1週の週末、HRに応援団、大道具係、小道具係、衣装係の選出をする。文字通り応援団は応援を主導して、応援合戦などでは振り付け付きで大いに目立つ体育祭の華。大道具係は各組の象徴になる巨大パネルの作成(応援合戦での評価点にも)、小道具は応援小物や応援合戦で使用する小物や飾り付け道具の作成。衣装係は応援団の衣装や組で何か象徴的なものを身に付けるならそれの作成。



こういったものは急に指名されても困るため大体は先週選出された実行委員が打診もしくは決めていて形式的にこのHRで選出される形が多い。

特に今のクラスの状態だと頼んでも断られる敵対するクラスメイトが多い為時間がかかりすぎるので大体はもう話をして決めてある。

そうすると大体は予想できるメンバーになるわけで。


HR


『応援団希望の人!』


『『はい!』』


ご存知!完くん、伊勢さん、にマッチョ2、ギャル1、香椎さんにフラれた男1と今回のことで香椎さん派中立で組んでる。


完くんも伊勢さんも条件付きで応じてくれた。


□ □ □

完『やってもいいと言うかやりたいけど条件があるよ!』


承『なんでも言ってよ?』


完『最後の組対抗リレーの前の1000m走僕と勝負してよ?』


承『え?そうするとリレー完くん使えなくなる!』


完『外町くんで良いでしょ?彼も早いし、目立ちたがりだからメインイベントで手は抜けないよ?それよりこっち!』


承『わかった、仕上げて臨むよ!』


完『応援団長も僕がやるよう?あー楽しみ!』


完くんはあの試合前の獰猛な笑みを浮かべたんだ。


□ □ □ □

さて伊勢さんは…


伊勢『じゃあ、良いけど、ラーメン奢ってよ!街の駅前の!』


承『え?そんなので良いの?俺あそこのラーメン大好き!』


伊勢『女の子1人で入るの勇気いるんだよねー?後街でなんか奢って?』


承『良いよ!高いもんじゃなきゃ!やー良かった!助かる!さすが伊勢さん!』


伊勢(初の一緒おでかけだ!)


こんな具合だった。

□ □ □ □

じゃあ応援団長立候補!って言うと挙手した完くんに即決。

完くんにその場をお願いして、俺と香椎さんは外出。


完『どこ行くの?他クラスもHR中だよ?』


承『こないだのマラソン大会盛り上がったでしょ?

あれは完くんが事前に勝負を挑んで来てくれて大会前からライバル対決!って盛り上がってたからでしょ?

同じことしてくるよ!


今から香椎さんと2組、3組のHR中に乱入して、煽って、宣戦布告してくる!

盛り上がるよ?祭り!って感じになるはず!』


完くんには道具係とかもう打診してる子は伝えてあるから居ない間に立候補募って適当に決めてもらうことをお願いして俺は香椎さんと教室を出た。



クラスのお調子者が数名付いてくる、敵対陽キャもいるけどむしろ見せたい。

ある意味お前ら煽る為にやってるんだぞ?って思いながら。


まずは、俺にとっては居心地の良い3組へ向かう。

委員長の小幡さん、友人の宏介、青井、田中も居るからやりやすい。


香椎さんとちょっと打ち合わせ。


立花『じゃあ、台本通りにね?煽るけど侮辱じゃなくってライバル!勝負!って感じで?後はノリで良いよ。』


香椎『本当にHR中乱入って良いの?できるかな?』


立花『だから3分程度!邪魔しないで手早く!香椎さんがやるから燃えるんだよ!』


ぶつぶつ言う香椎さんを宥めながら3組前へ。

付いて来たお調子者たちに、見ててね?煽ってくるから!祭り盛り上げようぜ!ってこっちも煽る。







コンコン、3組のドアを香椎さんがノックする。


『はい?』


小幡さんの返事が聞こえる。



『失礼します、1組の香椎です。

ちょっとだけ、ちょっとだけお時間ください♪』


男女問わず魅了する香椎さんのスマイル。そのまま教壇に上がる、俺も横に立つ。

お調子者たちもドアを少し開けて興味深々覗き込んでる。



小幡『ちょっと、玲奈!今HR中なの!何でこの時間に他所のクラスに?』


立花『まあまあ。』


3組は小幡さんが香椎さんと同じ考えで今回の体育祭が最後の勝負だとクラスに発破をかけていて士気が高いの、それも3組を最初に選んだ理由。


香椎『こんにちわ!』


『『こんにちわ!』』

『香椎さん!』

『香椎さん元気?』

『大丈夫?!』


みんな思い思いに香椎さんに声をかける、人気者だよね。


香椎『ふふ!ありがと!

今日はね、お願いがあって来たんだ。

きっと小幡ちゃんからも聞いてると思うけどみんなで戦える体育祭は今回が最後になるよね?


だから今回は盛り上げたい!3組のみんなの力も貸してもらって私たちの代の体育祭が一番盛り上がった!って伝説になるほど!燃える体育祭にしたいんだ!』



『『『おおお!!』』』

クラスがどよめく。



香椎『だからね、各クラスに親友とかライバルとか居るでしょ?

レギュラーを争ったとか恋敵!とかずっと一緒だった友達とか!そんな仲間と全力で戦える最後の機会をクールぶって流すなんて勿体無いことしないよね?

是非皆さんで誘い合わせの上同じ競技にエントリーしたり、着順にこだわったり、どっちのチームが勝つから争ったり!完全燃焼しよ?!』



『そうだね!』

『勝負しようぜ!』

『俺、あいつと競技あわせる!』

3組にも熱が伝播してる!



(根が上品だから煽りに来たのにお誘い合わせの上ってw

まあ香椎さんに煽れって方が無理か?)

そんな感じで微笑ましく見ていると、



香椎『みんで全力出し切って体育祭盛り上げよう!

3組のみんなもがんばってね?


切磋琢磨して!競い合って!ギリギリの勝負を!

その上で私たち1組が勝つよ!

2組も3組も全力出させた上で1組が必ず勝つから!

ごめんね!!』



おー挑発的!!



『うわ!燃える!』

『香椎さん煽るじゃん!』

『3組が勝つ!!』

香椎さんの挑発を受けて青井はもう、うずうずしている。

クラスの熱気が軽い怒りへと移行する。

他所のクラスへ乱入して自分のクラスが勝つって宣言したらそりゃムッとするよね。





いい熱気!十分暖まったね!





香椎さんはみんな見惚れる花が咲き綻ぶようなキラッキラの笑顔で言い切った。







香椎『文句あるならかかってこい!!』




小幡『玲奈!言われなくてもかかって行くわよ!!

少し待ちなさい!

後でうちも煽りに行くから!!!!!』



ざわ!!!!!!

3組の士気が沸騰しているのは見てて楽しかった。





なんで最後あんなに煽ったの?


ごめんなさい。


怒らせなくって良いって言ったよね?


前に立花くんが言ってたの思い出したから…。

(11話 委員長生活2日目より)




教室を出るとお調子者たち大興奮!

『燃える!』

『なあ立花プロレスみたいな?』

『これだけ煽って負けたら恥だぞ?』

『クラスのみんなに伝えなきゃ!』

もう祭りの熱気に当てられお調子者たちは諍いなんて関係なく、笑い合いながら教室へ戻る。



香椎さんの願いの1つ

クラスみんなでを叶えるのはやっぱり祭りの熱気の一体感しかないでしょ?

クラスへ戻るともうお調子者たちが3組への挑発の話で大盛り上がり!

負けられない!俺もあいつと勝負したい!燃える!そんな声があちこちで聞こえる。

完くんに説明しながらクラスみんなにいかに3組を煽ったか面白おかしく伝える。

後で3組が煽り返しに来るってよ?ってとこでクラス大爆笑!

じゃあ、次2組ね?



お前はさっき見ただろ!ってお調子者の顔ぶれは変わったがまた何人か着いてきて、同様に香椎さんの煽りが炸裂した。


教室に戻るとすぐに3組の小幡さんが来た。


小幡さんは皮肉たっぷりHR中に乱入する非礼を咎めた後、情熱的に3組に宣戦した。

1組も士気沸騰!

2組もその後宣戦しに来た。

この3年生の煽り合いは瞬く間に学校中の噂になった。

例年以上の盛り上がりを見せる体育祭。学校中体育祭ムードになっていった。


(これで敵対してる連中も一部競技にエントリーしてくれるかも。)

陽キャの一部が競技に出てくれれば今の陣容より遥かに勝率が上がる!

俺は香椎さんの願いを叶える為、今のクラスの空気を変える為何がなんでも香椎さんの力で体育祭を勝利に導かなければならない。


それでも、香椎さんと敵対グループはその盛り上がりを無視してずっと香椎さんの陰口を暗い瞳で呟き続けていた。

風向きが変わりつつあるのを察したのか香椎さんへの風当たりはより一層きついものになっていった。

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