第87話 どうしよう?



散々甘やかしておいてなんだけど、そろそろ現実と向き合おう。


『これからの事を相談しよう、玲奈さん。』


『ん?まずはお互いの両親への挨拶かな?』


『ちょっと何言ってるかわからない。』

(まだ、動揺してるのかな?可哀想に…。)



今、クラスでハブられていて大変でしょ?

その話。


ちょっと今後の予想を考えていたんだよ?

聞いてくれる?頷く香椎さん。


明日のHRで席替えの後、

体育祭の実行委員2名と生徒会の本部付きになる委員1名を選出するよね。頷く香椎さん。

その後同じく文化祭実行委員2名と委員1名を選出する形だよね?


そこが一つ別れ道だと思うんだ。香椎さんも頷く。



『私も考えていた。2パターンだよね?

外町くんが主導権を握るケースか私に丸投げして困らせてくるケース。

どっちで来ると思う?』


『そりゃあ丸投げして困らせて香椎さんが泣きついてくるのが最高なんじゃない?外町的には?』


うん、見解は一致してる。


俺が外町なら香椎さんをいじめて取り込む事を目的とするなら?どうするかな?

体育祭の場合。


外町が主導権握るケースの場合

一般競技、応援合戦などで全ての駒(クラスメイト)が使えるよね?女子ではエースの香椎さんをハブるけど競技に出せば全力で戦ってくれるから点数稼げるし、完くん、香椎さん、外町だけでも点数は結構取れるし陽キャたちも学年では上位。

去年クラスMVP取ったみたいに三年では最強だと思うから1.2年生次第だけど今年も勝てる可能性は高いよね。


香椎さんに丸投げする場合

外町や敵対派閥の駒が使用不可もしくは士気が檄低になっちゃう。完くん、香椎さんは使えるけど外町は最低限度しか動かない。むしろ困らせて泣きついてくるのを待ってるから妨害すらあるかも。

陽キャも使えないから中立のクラスメイトだけで競技に臨むから勝ち目は無いかも?



文化祭なんて準備が全てだから外町主導というか外町支持が無いと勝負にならない気がする。


香椎さんも同じような見通しだったみたいで2人で考え込む。

でもクラスにハブられるを解除するには香椎さんが主導権持って体育祭を勝って支持を得るのが一番早い。

半年とかかければ元々人気者の香椎さんなら余裕で返り咲けるけど今回は時間が無い。


『そもそも明日の体育祭、文化祭のそれぞれ実行委員2、本部委員1のなり手すら居ないよ。どうしよう。』


『明日のことは考えがあるよ!任せておいて!

ただ外町派閥が嫌がらせの為に立候補してくる可能性だけが怖いんだよね?』


『え?何か考えあるの?!』


『多少はね?俺を信じてくれる?』


『信じてるよ!承くんでダメだったらもう諦めもつくよ!』


じゃあもし立候補がいなければ香椎さんが体育祭実行委員を兼任するって宣言してって確認する。


誰が立候補するか?もしくは誰も立候補しないか?

それ次第で動き方が変わるよね。

諸々の可能性を想定しつつ明日はその動き次第ってことになった。

不安がる香椎さんを宥めながら一緒に下校した。





別れ際、


『私今ね、すごく心細いんだ。いつも承くんと一緒に居られる訳じゃないし、女子だけの時間とかもあるし、

それでね?お願いなんだけど、何かお守りちょうだい?

何でも良いから!』


『うーん、女の子にあげられる物なんて持ってないよ?』



『なんでも良いよ!』


『じゃあ、去年の夏に本屋さんでもらったお気に入りの栞、海辺の防波堤で太った三毛猫が丸くなってる絵柄がラミネートされてる栞ならどう?いつも本に挟んでるやつ。』



『可愛いね!これ良いかな?

ありがとう、これいつも制服のポケットに入れておくね!承くんが側に居る気分になるよ!』



嬉しそうに香椎さんは栞を内ポケットに入れた。

(こうゆうとこ可愛いなあ、俺も香椎さんの何か欲しいけど言えないなあ。)




翌日。

HR、柳先生の提案で席替えがくじ引きになった。

今の好き同士で組む方法より香椎さん的には良いかもって思ってたけど香椎さんは持ってるよね?外町と同じ班って…。

まあ外町以外は可も不可も無い組み合わせ。

俺もマッチョ1、ギャル1どっちも少し話せる者同士あと一条さんと派手なグループ2人(男女各1)まあ普通。

それより香椎さんだよね、外町と同じ班かあ。

どう動くだろうか?


席替えがくじの為迅速に進んだ為HRの時間は多めに残っている。

2人のクラス委員の香椎と外町が話し合って今日は司会香椎、黒板外町という分担。

(やっぱり外町は司会はしないのか…。)


『それでは、来月上旬の体育祭の実行委員を2名、本部付きになる体育祭本部委員1名を選出します、立候補は居ますか?』



『『『…。』』』


ざわざわしてるけど立候補は無い、誰も協力しないのにみんな香椎さんを観察しているようなそんな感じ。


『中学最後の体育祭だよ!前も言ったけど、この面子でやる最後の体育祭だよ!みんなで、みんなで一緒に盛り上げて!思い出作ろうよ!』



ざわざわ、

『ふふ、必死!』

『1人で頑張れば?』

『空回りしてるw』

『一緒に?誰が?』



いつもならノってくる陽キャたちの冷たい反応に顔色が変わる香椎さん。

わかってたことだけど見てて辛い。



『体育祭実行委員はね?知ってるかもしれないけど…』


場を持たせる為、香椎さんは体育祭実行委員と体育祭本部委員について説明をする。

それを冷ややかな目で見つめるクラスメイト。

もちろん全員が敵対してるわけじゃない。香椎さんに対し好意的だったり、外町グループのやり方に嫌悪してる者も多い。それでも言い出せない程の圧と流れができてしまっている。



むなしく流れる香椎さんの声。誰1人反応しないHRのこの空気、聞いてて胸が辛い。それでも香椎さんは『みんなの為』に『体育祭を盛り上げて』『大成功の思い出を作りたい!』と声を大に主張した。


それを聞き流すだけならまだしも、冷笑する陽キャたち。


俺は休み時間にお願いしていた人に合図を送る。


『…私、体育祭本部委員に立候補します!』


一条さんが説得の甲斐あって本部委員に立候補してくれた!

生徒会とクラスをつなぐ係でここが意思の疎通取れないと本当に面倒。

明らかに敵だと妨害されるし、香椎さんの味方!って主張してる人がなっても今度は敵対派閥の嫌がらせもあるから二村さんと香椎さんの板挟みになってる一条さんが適任!と思って休み時間に説得していた。

俺なら目立たないし、今朝まで同じ班だったしね?

クラスで香椎さんと二村さんの板挟みになるより本部仕事の方が、気が楽だと思うと説得したら上手くいった!


本部委員が決まったことにホッとした香椎さん。

あとは実行委員2名。


『実行委員!実行委員は立候補いませんか?』



誰も名乗り出ない。



『居ないようなら実行委員の1人は私が兼任します!

もう1人…もう1人の実行委員やりたい人居ませんか?』


クラスに香椎さんの声だけが響く。

もうこれ以上ひとりにはさせておけないよね?他に立候補も居ないし!



『はい!居ないなら俺立候補します!』


俺は挙手して大きな声で立ち上がった!

陰キャの俺が!




『立花くんが?』

『ププ!キャラじゃ無いでしょ?』

『地味!』

『やれるのかね?』

クスクス笑いながら俺を下に見る陽キャたち。

外町も目を細めておかしそうに見てるから思わず言ってしまった。



『誰もやらないんでしょ?クスクス笑ってるけどさあ、どっちがおかしいかな?一生懸命みんなの為に頑張る香椎さんとそれを笑うお前らと!』


クラスに殺気が満ちる。

いやこれ怖い!何これ?俺そんなに憎いの?


クラスのヘイトを自分に向けるつもりだったけども思いの他ヘイトが集中する(笑)


香椎さんはホッとした半分、ヘイトが集中する俺心配が半分、

『では、体育祭実行委員は香椎、立花くん。

体育祭本部委員に一条さんで申請します!』


引き続きの文化祭委員も立候補はなく、全く同じ組み合わせ

『では文化祭実行委員は香椎、立花くん。

文化祭本部委員に一条さんで申請します。』



『では、週末のHRで応援団長、応援団、各役割分担を決定します。実行委員から打診などあると思います、出来るだけ協力お願いします!』


(ああ、言いたくない。)

『実行委員から!体育祭やる気無い方は言ってください!

応援練習も免除しますし、競技も出ないで椅子にずーっと座って居られるように気配りします!』



ざわっ!!



俺に対する敵意が膨らむ。

HRは終了した。




放課後美術室。


『なんで!なんでみんなを煽るの!』



俺は香椎さんの説教を受けていた。


『必要なんだよ、俺もキャラじゃないって思ってるんだけど…。』


『承くんまで!みんなに嫌われちゃうでしょ!私そんなの見たくないよ!』


『香椎s『玲奈!』

玲奈さん、俺だって玲奈さんがハブられてるとこなんて見て居られない!』



俺は真剣な目で続ける。


『昨日の話の続きになるけど、

香椎さんが望むなら、俺がなんとかしてみせる!

大事な質問だよ?


香椎さんは今『本当に困ってる』と思うけど、今どうしたい?今の香椎さんの願いを教えて?『一つだけ絶対なんとかする』』



香椎さんはほぼノータイムで、悩みなく答えた。


『みんなと前のように仲良く』『体育祭を大成功させて』『文化祭も大成功させて』『クラス委員長を全うして卒業式を迎える』!


何年経っても語り合えるようなね?っていたずらっぽく笑う。


(香椎さんは欲張りだよ。でも惚れた弱みだよなあ。こんな状態なのに自分の事よりみんなの事だもんな。すごいよ。)


俺は笑いながら香椎さんに『決意』を伝える。

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