第86話 甘やかし

香椎さんから一通り何が起こったのか聞いた。

正直香椎さん悪く無いでしょって思う。


でもこの娘は自分で全部背負い込んで傷ついて苦しんでいる。

こんな苦労してるんだからたまに甘やかしても良いんじゃない?

話終わった玲奈さんの頭を撫でながらいつも望にしてるように玲奈さんを甘やかしてみようと思った。

(第63話 香椎怜奈の隣の席2 最後参照)


『大変だったね?玲奈さん、単刀直入に言うけど甘やかしても良い?』


『…望ちゃんが言ってたやつ?』

まだグズついてる香椎さんは俯きながら頷いた。


ルールは2つ。お互い嘘はつかない、素直に聞いたり話すこと。

ここでの話はここでのみ、揶揄ったり、蒸し返したりしない。この2点。


甘やかしが始まる。


俺は優しく話しかける。頭を撫でながら。

(望以外にするの恥ずかしいなあ。)


辛かったのに偉かったね?みんな数日前まで味方だったのが敵に回るんだからショックを受けるの当然だよ。よく頑張ったね?


優しくなでなで。


玲奈さんはいつも頑張り屋さんだよね?勉強ではいつも一番だし予習復習も欠かさないし。柳先生が誉めていたよ?

勉強だけじゃないよね?

運動神経抜群でテニスシングルスでは県を制して、地方大会でベスト4で全国大会も行ったもんね?うちの中学校初じゃない?本当すごいよね?マラソン大会だって3連覇だし。


何があったか完全には知らないから気軽に言えないけど玲奈さんは真っ直ぐで賢くて明るい素敵な子だから元気出して欲しいな。


そろそろ泣き止んだ?




ふるふる。

俯いたまま首を振り、まだぐずってる。



玲奈さんは料理も上手だよね?

昔、玲奈さんの家で初めてビーフシチュー食べて美味しくって感動して三杯食べちゃった。ケーキも美味しかったなあ。

この美術室でもクッキーとかパウンドケーキとか毎週のように作って来てくれてありがとう、いつも言うけど本当美味しい!

妹の望や弟のひーちゃんも玲奈さんのお菓子大好物なんだよ?


ゆっくり長く頭をなでなで。


ピアノも弾けるし歌も上手いし、劇の役にもすごい集中して演じれるのすごいよね?

本当玲奈さんはすごい、すごい上に頑張り屋さんだ!俺尊敬してるよ?

しっかりもので責任感あって、綺麗好きで、おしゃれさんで、本当に素敵!


涙止まった?



ふるふる。


香椎さんは小さな声で、

『承くんにとって私ってどんな存在?例えでもいいよ?』



そうだなあ?

俺にとって香椎さんは『玲奈!』


玲奈さんは…月だな。

(玲奈さんからそれじゃない感が出てる?)

続ける。


花の慶次にね?慶次が月について語る場面があるの。

慶次が月を見上げて

『月はいいなぁ

月がなければ俺などとうに闇夜に迷い果てておった…』

って言うシーンがあるの。


俺にとっても玲奈さんは月だよ。

俺がいじめられた時一緒に泣いてくれたり、クラスのいじめを止める為奔走したり、悩みを聞いてくれたり、マラソン大会でも一番きつい時に声かけてくれたり。


ぼっちな俺の暗い夜を玲奈さんが照らしてくれた。

玲奈さんが居たから俺は進めた。

俺にとっては怜奈さんは『月』綺麗で静かに優しく輝くお月様。


(そして月って古来から手に入らない物の象徴でもあるよね。

どんなに恋焦がれても身分が高くても、宝物を手に入れても、かぐや姫のように結ばれる事は無い。)



『…見た目は?容姿は褒めてくれないの?』


これ泣き止んでるだろ?

でも声が少し元気出てる気がするからもう一押しかな?






『…可愛いよ。』


どうゆうテンションで言えば良いのかわからず耳元で音量が小さな囁くように言ってしまった。

大丈夫?キモくなかった?



ビクン!香椎さんは小さく跳ねた。




『…。』

うつ伏せだけど続きを促す気配を感じる、これだけじゃ納得してない。




こないだのポニーテールはすごく可愛かった!

直視できない。

可愛くって、揺れる髪とうなじに見惚れちゃった。

香椎さんまじさいきょう。



最後は俺もわけわかんない。

恥ずかしくて、もう真っ赤になって俺は言葉が出ない。

これもう告白じゃない?



『ふふふー!そっかあ。そんなに可愛いって言われると照れちゃうよ…。』


香椎さんはやっとうつ伏せをやめて顔を上げた。

にまにま口元が緩んでいる。

いや、言わせたんでしょ?

でも、やっと終わった!恥ずかしかった!!



『じゃあ、終了で。』


『なんで?!!』


『最初に言ったでしょ?褒めてることを口外したり、揶揄ったら恥ずかしくなっちゃうからそこでおしまいってルールなの。』


『ええ?!もっと甘やかして!』


『もう元気出たみたい。』


『え?』


香椎さんは驚いている、これ不思議なんだけど甘やかされて褒められて一定時間気持ちよく過ごすと凹んでたり、落ち込んでても少し元気が出る。

これが『立花家の甘やかし』という技法。

妹の望は寝落ちするまで頭撫でさせて自分の良い所言わせるからね?


上目遣いで怜奈さんがおねだりする、破壊力あるよ…!


『おねがい♪』


『だめ。』


甘えてもダメなら正攻法で攻めてくる、

『私は再度甘やかしを要求するよ!』


『はいはい、また今度ね?

用量、用法を正しく守ってご使用下さい?』


さっきまで泣いて辛い表情だった香椎さんの顔に笑みがある。

それだけでも甘やかした甲斐があるよね。

ただ妹より香椎さんを甘やかす方が消耗する。

俺は真っ赤になりながらそう痛感した。もう二度としない!



⬜︎ ⬜︎ ⬜︎

なんか怜奈さんが、不憫になり、思うがままに承くんと怜奈さんに動いてもらったら今回めっちゃ甘い回になった。

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