第85話 沼から出たら落とし穴【side香椎玲奈】

1人目の告白に断りを入れた私。

まだ2人目が残るよね。


2人目が告白を始めた。

まあ内容はほぼ1人目と変わらない。言葉がちょっと違うけど容姿と性格を誉めて貰った。


全部聞いて。


『…ごめんなさい。』


『…俺もそれだけ?』


1人目と差をつけたらそれもトラブルになるでしょ?余計なことをしない方が良いと判断。

総括でふたりに、もう一度ごめんなさいとありがとうを伝える。私は今は誰とも付き合う気が無い。中学生の間は誰とも。


『何が、彼の何が不満なの?!』


(あー、彼の前で私を非難して彼をこんなに好きですアピールだなあ。)


『不満とかじゃないんだよ。今は誰とも付き合う気が無いの。ごめんなさい。』


『好きな人居ないんだよね?』


『好きな人は…居ないよ…。』

(承くん!!君たちが陰キャ呼ばわりしてる立花承くんだよぉ!言いたい!)


『じゃあ、俺とお試しで付き合ってみてさ?』

『待て!居ないなら俺と!付き合えば良さ絶対わかるから!』



(何度もそれ聞いたあ。

よく食い下がるなあ、フった子の前で。)


『私より、君たちを、君達だけを見てくれる素敵な女の子が側にいるでしょ?大事にしてあげなよ?』


ふふ!って私は笑うとその場を後にする。

(よし!うまく取り繕えた!)


後から思うと全然取り繕えてなかったんだよね。

私の後ろ姿を見る8個の瞳の色を確認できていればまた違うフォローをしてたはずだった。


そして皆と合流して家へ帰る。


電車の中で私はまた寝てしまった。

他の子たちがどんな話をしていたのか確認のしようも無かった。


地元駅に着いてホッとする。

あー疲れた。駅前広場で解散する。

みんなで挨拶して別れるかってなった時に急に二村さんが叫ぶように言った。



『香椎さん!今日はなんなの?!みんなが気を使って全国大会で負けたあなたを誘ったのに!1日中寝て!』


(しまった!これは私が悪い!でも友達の二村さんが?

でも全国大会で負けたことは不名誉なことでは無いでしょ!ムカムカする!)



『…本当にごめんなさい。疲れが抜けていなくって…。言い訳だよね

ごめんなさい。』


『言い訳だよ!そんなに可愛く準備してきて!男の子の視線集めるのに必死なのに?!』


『そんな?!』

(見せたい人が居ないのに?!気持ち悪いくらいだよ!)


そこへさっきフラれた子が追撃してくる。

『みんな聞いて!今日ね、私と二村ちゃんは告白したんだよ!』


ざわざわ!


『でもね、彼も二村ちゃんの告白した彼も香椎さんが好きって断ったの!』


(それは仕方無いじゃない…。)



『それで私たちが告白した彼と彼がそこで香椎さんに告白したの!

それを!この女は!聞くだけ聞いて!ごめんなさいの一言で済ませたの!』


聞くだけ聞いてって全部聞かないで断ったらそっちの方が酷いでしょ!

2人の告白断って、私に断られた男子2人は肩身が狭そうにしている


『もう告白なんて飽きるほどされてるでしょ?今まで何人の男子に告白されたの?』



『…。』


『なんか言いなさいよ!』


(だれが告白してくれたって言わなきゃいけないの?一生懸命告白してくれた人たち、そんな人たちを晒し者にはできない。)


『みんな一生懸命告白してくれた。誰がとか何人とか言えない!』


『ほら!この女は清楚な顔して男なんて数えられない位告白されて悦に入ってるような女なんだよ!』



『えー?モテるとは思ってたけどそんなに?』

『ちょっとひく。』

『そんなに告白されてたら何人かキープしてたり、関係持ってるんじゃない?』

『経験人数洒落になってないんじゃない?』



私は真っ赤になって叫ぶ


『男の子と付き合ったことなんてないよ!なんでそんなこと言うの?!』


『じゃなきゃ数合わないでしょ!』


私の名誉に関わる。

もし間違いで承くんの耳に入ったら死んじゃう!

第一私が特定の誰かと交際始めたら絶対バレるでしょ?


徹底的に二村さんたち2人を論破した。

徹底的に、完膚なきまで、ぐうの音が出ないほど。

私は止めどきを見失った。イライラしていたんだ。

ここ数日のストレス、イライラ、試合で負けたこと、騙されてプールに行ったこと、承くんは居ないこと、告白に巻き込まれたこと全てにイライラする!

いつもの私なら二村さんたちだってフラれて今日はいつもと違うんだって言い聞かせて最低限に留めてたはず。



駅前は阿鼻叫喚の地になった。

言い争う女子中学生3人。

周りでオロオロする同級生たち。


口喧嘩で言い負かされたふたりは実力行使でふたりがかりで掴みかかってくる。

私はそれを正面から受け止めてねじ伏せた。



決着がついた時にはふたりはしゃがみ込んで泣き出して私はそれを見下ろしていた。


外町くんが

『今日はここで解散しよう、

…ここは俺に任せて?香椎さんはもう帰った方がいいよ?』


『本当ごめん、お願い。』


苦い、帰り道の足どりは重く、鉛のようだった。

どう帰ったのかよく覚えていない。

ただ帰り道、歩きにくくてまるで舗装されていない荒れた道を歩いているような感覚、不安で心細い気持ちで帰った。


3日後、新学期の朝を迎える。

この3日不自然にクラスロインは沈黙している。

あれからどうなっただろう?外町くんはうまくまとめてくれたかな?

まあ他力本願じゃあどうしようもない、今日会ったら謝ろう。


そして小幡ちゃんといつものように学校へ向かう。

2学期は体育祭、文化祭がある、最後の大イベントだから盛り上げようね!って話しながら教室の手前で小幡ちゃんと別れる。

小幡ちゃんは何か思うことがあったのか初めて見るほど燃えている、良いね!その方が絶対盛り上がる!





教室は異様な雰囲気だった。


『おはよう?』


『…。』

『…。』

誰も返事しない。


鳥肌がたった。空気が読める方だと自負があるけどこれはまずい。

想定していた中で最悪の展開だとすぐにわかった。


前の席の二村さんが私の方を向いて言い切った。


、私は、私と好きな人を侮辱したあんたを許さない!』


『別に、侮辱したわけじゃ…。』


『もう、あんた友達じゃないから!』


こないだけんかになったもう1人も来て言った。

『香椎さんには幻滅した、もう信じられない。あんたとはもう距離置くっていうかハブるから!』


『私も!』

『…わたしもそうする。』

『いい気味!』


クラスの女子の3分の1が、派手なグループの子たち、二村さんの友達合わせて2人の支持を表明した。


その日フった2人まで


『あんなフリ方ないぜ!香椎さんには失望した!』

『好きな人居ないなら付き合ってくれても良いじゃん!』


『男てだまに取るんでしょ?』

『俺もてだまに取られたい!』

『本当は男性経験豊富?』

『でも最低じゃん!』


フった2人をその友達が支持して私に距離を置く宣言を男子5人ほどがした。

(男子5人はとにかく女子の支持が危険!)

早急に残った子たちの支持を取りつけ対抗するにしても和解するにしてもまとめなきゃ!状況は切迫している!


『俺たち男子も2人を支持する!』


突如外町くんが宣言した。

自分のグループが『男子の総意』と言わんばかりに。


『香椎さん陰キャとか構うのはそうゆう風に言うこと聞かせたり、自分に惚れさせようって遊びで男子を見てるんでしょ?

フラれた2人の気持ちを考えると俺たちは香椎さんを許せない!

同じ男としてそんな女子は許せないよ!』



伊勢さんの親友の木多さんまで憎々しげに吐き捨てた!


『そうだよ!可愛い顔して、男の子に色目使って!

みんなの為ですう!みたいな誰にでも良い顔する八方美人ビッチなのよ!』



ざわっ!!

クラスの最大派閥外町派閥が私を名指しで敵対宣言した!

これで趨勢は決まった。

続々2人支持を表明する男子、女子。

黙ってるのは完くんたちマッチョ、意外にも私を嫌いなはずの伊勢さんたちギャル3人、他には中立を保つクラスでは目立たない子たち数名でクラスの過半数以上が敵対ないしは敵対的中立を宣言した。一条さんは私と二村さんとの板挟みで中立になった。


外町くんは私の支持を無くすためにきっとあの日別れた後2人や周囲を煽ったんだ!なんの為?見せしめ?自分に依存させる為?なんにせよこれからが本番だろう…。

私は誰かに肩入れすぎると悪影響が出るため交友関係を広く浅く心がけていた為それが裏目に出てこうなると私派閥は日和見してる子ばかり。

承くんが正しかったのかな?友達は多く浅くではなく少なく深く持つべきだったかもしれない。小幡ちゃんがいれば。



(承くん…いや承くん居なくて良かったかも?いたら無理しそうだし?

こんな姿見せたくないよ…。)



あ、承くんもこうゆう姿見せたくないって言ってた。あの頃承くん辛かっただろうって思ってたけれども…そっかあ、こんな気持ちだったんだね?


承くんはギリギリに来た。

こんな時でも顔を見ると嬉しくなった。


始業式、その後の先生の話、何も頭に入らない。

何か変わるかと思い終了後5分くらい座っていたが悪意のある視線が辛くて私は逃げ出した。

(承くんは強い、私はこれを耐えられるかな?)



足は自然といつもの場所へ向かう。

美術室に入ると鍵をかける、もしここで悪意を向けられたらもう耐えられないし逃げ場が無い

。本当は使用時鍵をかけてはいけないのだが今日ばかりは怖くてかけずにはいられない。



私は声を出さずに泣いた。押し殺しても涙が出る。

なんでみんな…?私が悪いのかな?

『承くんに私を見つけて欲しい、…でもこんな私を見られたくないよぅ。』



色々考えてしまう、悪い方に。

気持ちが悪い堂々巡り。思いのほか私はショックを受けているらしい。

涙は止まらない。



!!

誰かドアの前に来た!


(承くんであって欲しい、承くんじゃなければいい。)

相反する心。私はまとまっていない。



ガチャ。開けようとするが鍵をかけてある。


少し間が空く。


コンコン!ノックされた!


『香椎さん、立花だよ、今は誰も居ない。居たら開けて?』


私は彼に見つけて欲しかったんだ。

やっとわかる。見てほしい、見て欲しくないどっちも本当の気持ち。

でも承くんが来てくれたらこんなに心が温かい!


涙を拭いて、喉を整え、表情をニコって一回笑顔にリセットして私はやっと返事した。


10分経って美術室にもう一度ノックの音が響きわたる。

私は精一杯の笑顔を保ちいつものように彼を部屋へ迎え入れる


たわいもないやりとりに承くんの優しさを感じる。

思わず笑ってしまい、ホッとしたらまた泣いてしまった。


そんな私を椅子に誘導して承くんは話を聞きながら黙って頭を撫でてくれた。

(安心するなあ、手、大きくてあったかいなあ)




彼は飲み物を何故か4本も抱えてて、

好きなの取ってって言われたから泣きながら果汁入った炭酸飲料を受け取る。

でもなんで4本持ってるの?


『今なんの飲み物が飲みたいかわからなかったから色々買った…気が利かないんだよね?恥ずかしい。』


ふふ。

私の事を色々思ってそうしたんだね?今はそんな小さな気遣いが嬉しいよ?



そんな優しく、頼もしい私の武将。彼さえ居れば、例えクラス全員が敵だとしても私は戦える!

今はまだ涙が止まらないけど承くんさえいればなんとでもなるよね?


今はその優しい手に全てをゆだねて自分の感情を整理した。


□ □ □

私信

まさぽんたさんへ

いつもコメント、♡ありがとうございます!


@hinaminacielさんへ、いつも♡ありがとうございます!


@nistaさんへ

1日で全話♡ありがとうございます!



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