第84話 リゾートビーチは沼のよう【side香椎玲奈】

8月下旬、全国大会の1回戦、私は負けた。

ギリギリのところだった、そこまでの差は無かった。

相手の子は関東で2位、本当によく鍛えられていた。

きっと寝食の全てをテニスに捧げているのだろう強さだった。

でもそこまでの差は無かった。

悔しい、私の頭にはそれしかない。

私はテニス以外にも色々したい事も多い、だからテニスに全てを捧げてはいない、それでも悔しいものは悔しい。


新幹線があったからその日のうちに家に戻った。

次の日になっても私は負けた試合を反芻してはこうしてたらとかあの手もあったとか考えていた。

私にしては珍しい、あまり引きづらないタイプで次はこうしよう!って切り替えできるタイプだったよね。

はっきり言うなら負けたことで私は機嫌が悪かった。


でもそんなことばかり考えるのも不健康だし、気分を切り替える必要があるよね?

(あーあ、承くんが誘ってくれたら良いのになあ。)


無理な話だ。承くんはスマホ持ってないし、そうゆう気はきかない。

でも良いんだ、それが承くんだし。


♪♪


ロインが来た。

明日クラスみんなでプールに行く予定があった。

私は大会があったから、保留していたんだっけ。

どう?明日は来れない?って外町くんから。


(勝ち続けていたらまだ関東に居たはず。負けたからもう戻って来ていてプール来れるよね?ってこと?)


私は頭を振る。被害妄想でしょ?そんな気で言ったんじゃないよね?

私は少しイライラしてしまった。


でもどうしよう?付き合いはいい方なんだけど面倒だなあ。

やめとこ。気分転換は必要だけどストレスを抱える必要ないよね?


♪♪


また来た。外町くんかあ。

立花も来るよ?



!!

うそ?承くん来るの?

どうしよう、去年の水着は着れるかな?


私は一転行く気になっていた。

だって今の私を癒せるのは承くんしかいないでしょ?

私の水着姿ならイチコロなはず。

お姉ちゃん風に言うなら悩殺と書いて脳を殺すよ!


私は多少疲れが残ってて億劫だったが承くん会いたさに明日のクラスみんなでプールに参加する事にした。

そうとなればごろごろしていられない。

水着を合わせて、耐水メイクまだあったか確認して、色々身だしなみを整えて、承くんに会えるから明日着る服も少し気合い入れて!諸々仕上げて準備してから寝た。


次の日朝9時、駅に集合。

電車で移動して海の近くの新しいプールへ向かう。

まだ疲れが残ってて少し気だるい。

駅では承くんには会えなかった。


駅でクラスメイトの何人かと会い、一緒に現地へ向かう。

全国大会惜しかったね?香椎さんほどの選手でも1回戦で負けるんだねー?

クラスの派手な女の子が言う言葉にカチンとくる。

あはは、流石に全国は強かったよー?

顔には出さず流す。でも私の機嫌は悪くなる。


現地に到着した。県内では新しいプールで海のすぐ傍で広くてリゾート気分も味わえるとふれ込みのスポットだ。南国をイメージした木を植えて、夕日も綺麗な県内屈指のデートスポットでもある。


だんだんみんな集まってくる。しかし承くんは居ない。

外町くんが近寄ってきて言った


『ごめん、立花手違いで声掛けてなかったって。

スマホ持ってないから誘えなかったみたい?』



『そっかあ。』

(また騙された!イライラするぅー!)


『ごめんね?でも立花居なくっても絶対楽しいから!

みんなも玲奈さんに会いたがってたから来てくれて嬉しいよ!』


ふたりきりになると時々外町くんは私を名前で呼ぶ。


『うん、わかった。絶対楽しいよね?

でも外町くん、下の名前で呼ばないで?』

私は毎回注意する。本人にも他人にも勘違いされると面倒だから。



私は清々しいほどの嘘でノコノコ呼び出され、承くんをちらつかされてツヤツヤに身だしなみを整え、みんなとの付き合いを考えてヘラヘラと嘘を指摘もできずに愛想を振りまく。

いつもなら仕方ないで済ませる事も、ここ数日の肉体的、精神的な疲労が重なり絶不調!

諸々機嫌が悪くなる事が重なりストレスを感じている。


水着に着替えて、パーカーと飲み物を脇に抱え、皆と合流する。


『ふー!』

『香椎さん!かわいい!』

『マジそれな?』

『エッロ!』

『…女の子から見てもすごいよ!』


エッロは褒め言葉じゃないよ?

自慢じゃないけど、今年に入りプロポーションはさらに良くなったと思う。

お姉ちゃんがやっぱり

『玲奈エッロ!中学生なら見ただけで惚れるんじゃない?』

って言ってたけど、お姉ちゃんは私よりはるかにバインバインだし、そもそも惚れさせたい人が来てないんだよー!


『…。』

外町くんは私をまた上から下まで鑑定するように眺めた後満足そうに頷いていた。なんかイヤだなあ。


『じゃあ!みんなで泳ごうか!』


そうゆう事になった。

私は主に一条さん、二村さんと泳いでいた。

二村さんが今日はすっごい可愛い。


『二村さん、今日は仕上がってるね?』


『えへ、わかる?

でも男子のリアクション見ると香椎さんの側じゃ霞んじゃうけどね?』


『そんな事ないよ!可愛い!』


『ホント?そう思ってくれたらいいなあ?』

今日のメンバーに好きな人がいるのかな?がんばれ!二村さん!



遊んでるとやっぱり疲れがあるのか気だるい。

しばらく遊んでから皆に断ってプールサイドのパラソル下のベンチで横になる。



ナンパがひっきりなしに来る。

私はサングラスをかけ、パーカーを着込んで横になると気付けば寝てしまった。

寝てる時外町くんとか何人か男子が話しかけていた気がする。

私は夢うつつでうるさいなあって無視して眠ってしまった。

※この間通りかかった同級生男子からパーカーの空いた胸元や脚、横向いた時にはヒップラインや腰回りをめっちゃ視姦レベルで見られていた。




気づけば夕方近くなっていた。

起き抜けで頭が働かない。

疲れてたんだな?寝過ぎた。

皆んなは?



みんなの下に合流する。


『ごめん!疲れてたのか寝てしまってたよ。

ごめんなさい!』


『全国大会で試合と移動があって戻ったのが一昨日だもんね?お疲れ!』

『香椎さんと遊びたかったよー!』

『そんなに疲れてるなら無理しなきゃよかったのに?』

『わたしたちと遊ぶより寝てる方が良かったのよ?』


好意半分、やっかみ半分だなあ、遊ぶって応じたのに寝てしまった私が悪い。

隙を作ってしまったのは私。皆にもう一度謝る。


『見てたけどナンパ多かったね?』

『わかる!でもこんな可愛いならナンパするわ!』

『ナンパ断り慣れてるよね?すっごい!』


ナンパされてる被害すら攻撃対象になってるなあ。ホント嫌だ。

私の不機嫌メーターはぐんぐん上がる。

それでも低姿勢に皆に謝り、受け流す。

(隙を作った私が悪い。でも承くんや小幡ちゃんなら絶対そんな事言わないなあ。)



わかっていてもうんざりする。

夕方のリゾート風ビーチはオレンジ色に輝き雰囲気がある。

カップルがあちこち寄り添い、ふたりの時間を満喫している。


(あーあ、私何してるんだろう?承くんと来たかったなあ。

きっと承くん水着の私直視できなくてヤキモキしたり、ナンパ断ってくれてキュンキュンしたり、ふたりでキャッキャ水かけあったり、ビーチで追いかけあったり?夕暮れのビーチで寄り添う2人の影がだんだん近づいて…一つになっちゃったり?!きゃー!!


…そんな夏イベントしたかったなあ…。)



私がぼんやりしていると


『『香椎さん!』』


クラスの派手なグループの陽キャの男子と外町くんグループの男子が私に声をかけた。

(あ!これ良くないやつだ!)


目の色が熱を帯びてる、これは告白される?!

私は逃げる事にした。大体碌なことにならない。

面倒な事になるか、女子に見られてやっかまれるか?どっちにしても良くないぞ!


『あ、私みんなのとこへ…』


『『香椎さん!話聞いてあげて!』』


二村さんと派手なグループの女子が後ろから現れて私の退路を絶った。

なんで?



男子ふたりには離れて待ってもらって、女子2人が話し出す。

今ふたりはこの男子2人にそこのビーチで告白したんだって。

一生懸命、精一杯の思いを初めて思い人に伝えたんだって。


『すごい!勇気あるね!』

私は突然の青春ストーリーに昂った。


でも2人の私を見る目は冷たい。なんで?

それでふたりともダメだったんだって。言葉が出ない。

離れて2組が同時進行で告白タイムするが2組ともダメ。

2組とも男子は『『香椎さんが好きなんだ…。』』って。


(なんて迷惑な…承くんなら

ちょっと何言ってるかわからない?って言うなあ)


それで男子ふたりにどうしてもダメ?って食い下がったら、

女子が告白してくれて勇気もらった!これから俺香椎さんに告白してくる!

…もしダメだったら告白してくれた事もう一回再検討するかも?!って。



(控えめに言ってクズじゃない?)

勢いで告白してダメだったら女子の告白考え直すかも?ってこと?

保険かけてるの?そんな男子嫌じゃない?

何より私にはリスクしかない。

受けようが断ろうが女子、男子のヘイトを集めるばかり。


(逃げたい。)


女子2人が泣いて、彼が香椎さんに思いを思いを伝えないと私たち誰も前に進めない!ってせがむから急遽始まる青春群像劇。

(進めば良いじゃない。)

機嫌が悪い私は心の中で毒づく。


女の子ひとりに対し2人同時告白、オーディエンスは今フった女子2人と言う地獄のようなリゾート風ビーチ。


告白が始まった。


先攻は外町くんグループの子、二村さんの思いびと。


言ってる事を要約すると


二村さんの告白で踏ん切りがついた、彼女に勇気をもらった!

俺香椎さんが好き!

可愛くって!優しくって!

いつも大変なのを見てて頑張ってるなあって思ってた!俺と付き合ってください!!


(うーん、同じ言葉でも承くんに言われたらキュンキュンするのかもなあ?告白されてる最中に他の男子のことを考えるのは失礼だよね?

でもさ、いつも大変って思うなら何かしてくれたら良いのに?)


私は、全部聞いてから答える。


『…ごめんなさい。』


『…え?それだけ?』


『他に何か要るかな?』


やっぱり私は機嫌が悪く、いつもなら言葉を重ねて少しでも衝撃を柔らかく、今後の付き合いに配慮したフォローを欠かさない私が今日は簡潔に断った。

この後もう1人告白待ちだし。

もうひとりの男子はホッとした表情、女子は複雑な顔。

断られた男子は

『えー?他の断られた男子はいい所挙げて貰ったり、丁寧な断りで感動してたのに?俺これだけ?』

二村さんは咎めるような目つきで私を睨む。

(二村さん…告白受けても私を恨むんでしょ?断ったんだから彼を慰めてうまくやってよ?)



まるで沼にハマってしまったような動きにくさと疲労感。動けば動くほどハマっていく。

地獄のような雰囲気インザビーチ。

まだまだ苦行は続く。



□ □ □ □ □

その頃の3馬鹿。3馬鹿も海に居た。自転車で35分くらいの防波堤にて。


『うわ!入れた瞬間魚が食いつく!!』


『完くん引いてる!引いてる!』


『立花!すっげえ引いてる!』


『『『ヒャッッハー!!!』』』


夕暮れ時、潮の流れ、魚の食いつく時間がはまり、投げ入れた瞬間に爆釣り状態に3人は大興奮!!

香椎さんと正反対の超気持ち良いストレスフリーな時間を過ごしていた。


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