第83話 悪意に囲まれて

『立花くん、香椎に絡むと?』


2学期初日朝、遅れて教室に入る俺にかけられた言葉。

香椎さんの友達だと思ってた二村さんに言われた。


『いや、元々ぼっちだし?』


『…。』


クラスの雰囲気がおかしい。

香椎さんの顔色、クラスの雰囲気、二村さんの言葉。

(香椎さんに何があった?)

俺はこんな日に寝坊してギリギリになったことを後悔した。

心細かっただろうに、俺がいたら防げたなんてとても言えない、でも何かしようはあったはずだ。

周りが敵でも1人味方がいるだけで心が強くなるのは俺は身をもって知っている。



始業式が終わり、そのままの流れで壇上では香椎さんが表彰されたがその表情は冴えない。

教室に戻り、柳先生の話が終わり

香椎さんの地方大会ベスト4、全国大会出場の話が出ても拍手はまばら。

先生も訝しい表情。


(思ってたより事態は深刻みたいだ。)


外町の号令で終わりの挨拶。いつもならすぐに人に囲まれてる香椎さんのところに誰も行かない。基本香椎さんに絡みたがる外町も今日は遠巻きに様子を見ている。

(絡むなら今だろ!みんなにお前が働きかけていつもの綺麗事言えよ!)


誰も行かないのにみんな香椎さんを見てる。

そんな不愉快な光景。


香椎さんは俯いている。こんな香椎さんは見たことが無い。

5分くらい身動きひとつしなかった香椎さんが弾けるように荷物をまとめ教室を早足で出ていった。


『…見た?』

『いつも自分が中心みたいな顔してたのにねー?』

『ふふ。』

『弱ってる香椎さん萌えるわー。』

『調子乗ってるからだよ!』





(fuck you…ぶち殺すぞ…ゴミめら…!)

あっちゃんちで読んだ漫画カイジの有名なセリフが頭をよぎる。


他人事なのに怒りが込み上げる!

いやもう香椎さんのことは他人事とは捉えられない!


香椎さんを追うべきか?状況がわからなすぎる。

とりあえず話できそうないつものメンツに聞いてみよう。


完くんは知らなかった。

一条さんは、


『…言えない。』


と。一条さんは香椎さん派閥だと思ってたから驚いた。

まあ同じ派閥の二村さんが敵対してるような気配だもんな?


廊下で出会った香椎さんの親友の小幡さんにも聞くが知らなかった。

何か香椎さんの身に起きていることを伝えるとびっくりしていた。


あとは困った時の成実しげざねさん。



『わからないんだよね?でも今朝あーしがきた時はこんなだったからきっと夏休みになんかあったんだよね?

あーしは夏休みの終わりのプール行かなかったんだけど何かあった?』



『うん?何それ初耳?』


『またこれか?きっとそこで何かあったんだよ。

8月下旬に外町がクラスみんなでプール行こうってロインのクラスグループから誘い来て、みんな参加!みたいなこと書いてあったけどあーし面倒だから断ったんだ、立花もくるよ?

って言われたけど絶対立花は行かないっしょって思って。』


『香椎さんや伊勢さん来るなら、誘われたら行くかも知れないけど誘われていない!』


じゃやっぱりそれじゃない?って結論になった

伊勢さんにお礼を言い、香椎さんを探す。

とは言え心当たりは一つしかない。



美術室へ移動した俺はドアの前に立ち、深呼吸してドアを開ける。

!!

閉まってる…ここじゃない?

ここを使用する際に約束で基本何かあるといけないから使用時は鍵をかけないってルール。香椎さんはそうゆうの遵守するタイプだから。

(ここじゃないとするともうわからない。帰ったのかな?)


ちょっと考え、


(香椎さんならここだと思うんだよな、一応声だけかけてみよう。)

コンコン、ノックして言う。

『香椎さん、立花だよ、今は誰も居ない。居たら開けて?』



やっぱり居ないのかな?あとはシューズボックス確認して靴あればもう少しだけ探してみようかな?

そう思って来た道を戻ろうとすると、



『立花くん?まだ居る?』


(鼻声だ、泣いてた?)

知らんぷりして言う、

『オレだよオレ!わかる?』


『オレオレ詐欺じゃない!ふふ!』


『ここだと思った!開けてくれる?』


『…ちょっとだけ待ってもらって良いかな?』


『あ、俺荷物取って来る、10分後位にまた来るねー。』



(絶対泣いてたな。見られたくは無いよね?)


10分後荷物を持ってまた美術室に向かう。

自販機で飲み物を4本買って。何が飲みたいかわからないから色々買った。


美術室をノックする。ガチャ。鍵が開いた。

ドアが開き、香椎さんが笑顔で迎えてくれた。

目は腫れ、表情は曇り、顔色は冴えない。

それでもなお香椎さんは美しい。



『どうしたの?今日は新学期の初日で仕事無いよ?』


『いやいや、仕事でしょ?』


『作業は無いんだよ?ありがとうね?』



『俺はね?クラス委員長補佐なの。香椎玲奈付きの!

俺はこの仕事に誇りを持ってるんだよ!

玲奈さんが困ってたら俺が補佐する!一緒になんとかするよ!』


『私と居ると承くんもハブられちゃう…。』


『もともとぼっちだから、クラスに友達居ないし。

俺が色々されてた時は玲奈さんが色々動いてくれてたでしょ?今度は俺の番!』

(もう完くんも伊勢さんも友達だけどもこの方が気にやまないだろう?)


『ふふふ!


…ふ、ふえ、ふえぇ…えぇ…。』


香椎さんは笑い、そして泣き出した。

椅子に座らせ、机を挟んで向かいに座り、泣いてる香椎さんを俺は見てるだけ。

この頑張り屋さんの娘の涙を止めることも、笑わせることも俺には出来ない。

机にうつ伏せになり泣いている玲奈さん。

俺はたまらず優しく頭を撫でた。妹の望はこれが落ちつくって言ってた。

妹と同じ対応で大丈夫か?!でもこれしかできない。

もしキモイと思われたら…いや、俺が撫でたい。


香椎さんの髪はサラサラ、良い匂いがする。

ゆっくり、ゆっくり優しくなでなで。


香椎さんは時々詰まりながらことの顛末を語り出した。

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