第81話 香椎玲奈と周りの温度差
そして7月に入りいよいよ部活は最後の大会に入る。
俺たちサッカー部は3回戦で敗れ、俺たちの部活は終わった。
一生懸命頑張ったが終わってみればあっけない。
ホイッスルのなったピッチで外町は呆然としていた。1年から主力だったもんな思い入れはきっとどの部員よりあるのだろう、お疲れ。
どうしてもあっちゃんの居ないサッカーは夢中になれない、俺高校では何をしようかな?
各会場で3年生は最後の試合をこなしていく、部活を続けられるのは勝ち続ける者だけ。敗れる者は強制的に引退になる。
うちの学校も次々報告が入る、野球部が、卓球部が、バレー部が何回戦で負けたって連絡が入る。
そんな中で勝ち続ける者も居る。
香椎さんである。
香椎さん去年は県でベスト4までのこって近隣の県を勝ち抜いた地方大会まで行った県有数の実力者なのだが今年は指導とか部内でリーダーとか大幅に減らしてプレーヤーとしてどこまで行けるかやってみたいと言ってたのだが県大会のシングルスを制した。
妹の望が言うには『強い』んだって。早いとか上手いとか戦術がとかじゃない、強いんだって言ってた。
全校集会で香椎さんは表彰されていた。本当にすごい!
ちょっと世界が違う。あんなに頭良くってみんなのリーダーもやっててテニスは県で1位も取れる。そりゃあ『完璧女子』の異名が付くよな。
夏休みに近隣の県の上位を集めた地方大会がありそこでも上位なら全国大会なんだって。
その日の放課後、いつもの美術室。
『香椎さんお疲れ!まだ3年生で香椎さんだけ部活あるね?』
『そうだね?部活引退すれば楽だけど寂しいもんね?
負かした子の分も頑張るよ!』
そこで話が変わった。香椎さんは部活の話より違う話がしたいらしい。
『ちょっとだけ聞いて欲しいんだけど…?』
『うん?』
香椎さんは色々ポツポツ語り出した。
少し前になるが修学旅行で3人に告白されたんだ。
みんな一生懸命告白してくれたんだけど私はそんな気になれなくって全部丁寧に断ったんだよ。
そのことで一部の女子から『調子乗ってる!』とか言われることもあるんだ。
どうしたら良いんだろう?
私はみんなと楽しくこの中学時代を満喫したい!
そのために頑張って色々なことを引き受けたり、気を使ったり、調整したりしてるんだ。
誰とも付きわないのも今まで告白してくれた20人位の人に今は誰とも付き合う気は無いって断った義理を通さなきゃ!って思ってるから最低でも中学生の間は誰とも付きあわないって決めてるんだ。
今は誰とも付き合う気は無いって言っても『でも今好きな人居ないって事でしょ?他のやつはともかく俺なら?』とか『でも俺ならその心を溶かせる!』『好きな人居ないならワンチャン!』みたいに攻めてくるのはなんでなんだろう?付き合う気が無いって言ってるのに?
私断るのも辛いよ。すごく申し訳ない。
もちろん振られる方が辛いんだろうけど。私にとってそんなに印象ない人に急に愛を全力で語られて断ると被害者だって顔で見られるの嫌だよ。
香椎さんは悲しい顔をしていた。
いつもの香椎さんじゃないみたい。
でも間違いなく本音の悩みなんだろう。
俺も香椎さんに悩みを聞いてもらったことがある。
俺には何も言えないし、言う気も無い。
もし香椎さんが意見を求めるなら言うけど今はただ聞いてあげたい。
私のファンだよ!私の考えに共感するよ!って人たちがなんで私が大嫌いないじりやいじめをするんだろう?
私と仲良くしたらハブられたり、攻撃対象になるってなんでだろう?私を少しでも理解してくれるなら私がそんなこと一番嫌いだってわかるよね?
承くんはわかるでしょ?
俺は黙って頷く。
私と承くんが仲良くすると皆んなが当たり強くなるのも本当にいや。仲良くしたい人は自分で決めたいよ。
あいつは香椎さんにふさわしくないとか認めないとかなんなんだろ?
今日の香椎さんはご機嫌ななめだ。
でも他の人にこうゆう姿を見せているのを見たことが無い。
もし俺にだけ『ご機嫌ナナメ』を見せてくれてるなら俺は嬉しいなあって思っちゃう。
香椎さんは続ける。
私はね、この学校が好き、教室も、部室も、体育館もグラウンドも。
でもね、この美術室が一番好きなんだ。
ここに居る時だけは周囲に気配りや発言に気を使ったりよそいきの顔じゃなくって普通の香椎玲奈って女の子で居られる。承くんにわがまま言ったりね?
でもみんなが私に求めているのは誰にでも優しく、気配りできてなんでもやってくれる便利な優等生の香椎玲奈なんだよね。
もちろん自分でクラス委員長に立候補したし、みんなと色々なことを楽しんで思い出を作りたい!その事に嘘は無い!
話ズレちゃった!
とにかく自然で居られるこの美術室が大好き!特にこの夕方の美術室が大好き!ずっとここに居たい位だよ。
話長くてごめんね?聞いてもらえてスッキリした!
ありがとう。
香椎さんだって普通の(すんごいハイスペックだけども)女の子なんだ。
俺が力になれることはなんだろう?
俺は話を聞きながら考え込んでいた。
□ □ □ □ □
部活の無い水曜日の放課後は比較的静か。
夕方の美術室、香椎玲奈の話も終わる。
少女は勇気を振り絞り少年にこう伝えた。
『私は卒業式が終わるまでは誰とも付き合うつもりはないんだ。
でもね…もしいつか…何か伝えたいことがある時にはこの大好きな美術室に呼び出して欲しいな?』
少女は
私は卒業式が終わるまでは誰とも付き合うつもりはないんだ。
と卒業式が終わったらここで大事な事を伝えて欲しいと伝えたつもりだった。
少年は
私は卒業式が終わるまでは誰とも付き合うつもりはないんだ。
と、先ほどの話を告白を断るのが申し訳ないと悲しむ少女の辛さを慮った。
(そうだよな、俺じゃ玲奈さんに釣り合わない…。)
最近ずっと噛み合っていた2人の歯車が軋む音がした。
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