第79話 ダブルブッキング

突然の玲奈さんによるほっぺにキスは衝撃的だった。

頬に残る暖かい、湿った、弾力のある感触。

怜奈さんの匂い、唇を離した時の微かな吐息、どれもが鮮明な幻のようだった。

顔が火照る、喉がさらに乾く、心臓がバクバクしてる。

え?マラソン後だからかな?もうわけわからない!




ぼんやりしてると伊勢さんがきた。伊勢さんの体操着姿はおっぱいの迫力もあって超セクシー!ほんとに中学生なの?


『立花!優勝おめでとう!ほーら!』


伊勢さんはポカリシットを投げて寄越した。

いや、まじ喉の渇き酷いから助かる。香椎さんも買いに行ってくれてるんだけど冷たい缶の手触りが官能的ですらある。


『ありがと!…ぷふー!!』


開けるのももどかしくプシ!って缶を開けて半分くらい一気に流し込む。

うめえ。染みる!!個人的な感想だけどもペットボトルより缶の方が美味しく感じる。


『あは!立花は部活の後ポカリ派って聞いてたからゴール後きっと欲しいだろうなあって思って買いに行ったよ?』


『ありがとう、ほんとうまい。』


今なら1本500円でも払っちゃうくらい冷たいポカリ最高!

伊勢さんはわかってる。


『ご褒美確かに受け取った!』


『うん?それは副賞だって、ご褒美は…。』


ちゅっ!


左頬に素早く伊勢さんはキスしてくれた!


『おおお男の子にキスするの初めて…。

プレミアものだよ!』


真っ赤になって照れる伊勢さん。

それを見てやっと現実に戻った俺。

(えー?!伊勢さんのご褒美もほっぺにキス?!)


(学年最強の完くんに勝って、玲奈さんに右頬にキス、伊勢さんに左頬にキス。

俺今日死ぬのかな?良いイベントが渋滞してる!)





2人で真っ赤になってると香椎さんが戻ってきた。

『sy…立花くんお待たせスポドリ買ってきたよ!喉乾いてるでしょ?一応2本買ってきたよ!』


訝しげに俺と伊勢さんを交互に見る香椎さん。その香椎さんを煽るように、


『は?香椎玲奈遅くない?マラソンを限界超えて走ってるんだからすぐに水分欲しくない?

あーしが立花にもうポカリ飲ませたから!』


香椎さんはえ?って顔して俺がポカリを啜っているのを確認するとスッと目を細めた。


『伊勢さんのポカリ美味しい?

アクエリアースの方が美味しいよ?ノーマルとレモンあるよ?』


『あれー?香椎玲奈知らないのー?立花はポカリ派なんだよ?』

煽り返す伊勢さん。やめて?


再び、え?って顔してこっちを見る香椎さん。


『え?あ、うん。俺ポカリ大好き。』


香椎さんの悲しい顔を見て慌ててフォローする!


『俺!アクエリアースも大好き!あれいくらでも飲める!』


『立花無理しない方がいいよ?

お腹壊すよ?ポカリ一息で飲んだばかりでしょ。』


『喉乾いてるから飲めるよね?私のアクエリ飲めるよね?!』


『アクエリも美味い!喉乾いてるから全然飲める!』

急いでアクエリを開けて口をつける。


『無理しちゃって。でもポカリ派だからポカリの方が好きっしょ?』


『喉の渇きと水分補給ならアクエリも負けてないよ!』


『うんうん、どっちも美味い!』


『ねえ、立花くん?伊勢さんのポカリ1本飲んだからには私のアクエリは2本飲んでもらうよ!』


『え?どういうルール?』


『いや!あっちが1本ならこっちは2本飲んでもらわなきゃ気が済まない!』


『あーしもう1本買ってくる!』


(俺本当に今日死ぬかもしれない。)

ぎゃーぎゃー美人が言い争う姿を疲れ切った俺は黙って見ているだけ。

ぼっちの俺が学校内で有名な美人2人にキスされたなんてきっと人に言っても信じてもらえないよね?



結局スポドリ騒動はなんとかここで終わり、香椎さんが、

『ほら立花くん疲れてるから休ませてあげようよ?』


って伊勢さんを連れて香椎さんが校舎へ戻ってくれた。

(助かったぁ、ふたりともほっぺにちゅうしてくれたけど意識しちゃって今はしんどい。)


あー、風気持ち良い!

同学年の大体の選手はゴールしてるみたい。2年が今走ってるのかな?


もう少しだけ涼んだら教室へ戻ろう。


『水分補給したら汗出てるんじゃない?』


え、香椎さん戻ってきた?休ませてくれるんじゃ?


『ああ、あれは伊勢さんを校舎に戻す為に言っただけだよ?』



こわ!!策士!

ほら汗出てるよ?って言いながら香椎さんが汗を拭いてくれる。


『本当に頑張ったね?』


『鳥居強右衛門位頑張ったよ!』

彼の漢ぶりには鳥肌が立つ位初めて知ったとき感動したんだよね?


『それだと最後死んじゃうでしょ?!』


バカな話をしつつ、香椎さんは少しからかうように、


『私のキス守る為に必死だったのー?』


『…。』

(これがしたくて戻ってきたのかな?)


『ふふー!他の人にちゅうして欲しくないのー?』


『うん、まあ。』


『もう、仕方無いなあ?承くんは…私のこと…結構好きだよね?』

冗談めかして際どい質問が来る。


『…。』

(こんな汗びしょでヘトヘトな状態で告白出来ないよ!それにしても距離感がバグってるんだよなあ?)


そもそもポニテ香椎さんを直視できない!素晴らしい!

香椎さんは上機嫌でさっきから俺の汗を拭いてくれて、マッサージしてあげよっか?シャツの下も汗かいてるでしょ?拭いてあげようか?とかやけにサービスが良い。

さすがにシャツの下を拭くには上半身裸になる必要あるから断る。

(これは伊勢さんもちゅってしてくれたなんて言ったら俺酷い目に遭わされるんじゃ?)

怖い。もう今日はこれ以上イベントを起こしたくない。


見ると香椎さんのタオルは俺の汗を吸ってビッチョリ濡れている。

『ごめん、タオル汚しちゃったね、洗って返すか新しいもので返したいんだけど?』


『ううん、大丈夫だよ!』


香椎さんは俺たち男子を魅了する、優しくて、可憐、品のあるフワって笑みを浮かべると



ん?



なんだこの違和感?


『香椎さん、タオル…。』


『なんのことかな?』


『やっぱ俺洗って返すよ?』


『そんな!…いや私の為にがんばった承くんの手を煩わせるわけにはいかないよ』


一向に香椎さんは俺と目を合わせようとしない。

なんか理由でもあるのかな?まあいいか。

ほんと今日は疲れた。俺は教室に戻った。



とにかくイベントが玉突き事故おこして大渋滞の1日だった!



◻︎ ◻︎ ◻︎

いつも読んで頂きありがとうございます。

マラソン大会終了です。

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