第78話 ご褒美の行方

YELL !  side香椎玲奈


私は今年もマラソン大会優勝した!しばらくして小幡ちゃんもゴールした。


『結局3年間玲奈に一度も勝てなかったわ。』


『ふふ、まあ勝負事は負けたく無いよね?』


同じ学年の女子とは勝負付けが済んでるからもちろん本気でやるけどそこまでの興奮は無い。そこは今年のマラソン大会を全力で楽しめてる完くんが素直に羨ましい。

息が整ってきた頃には男子の方はどうなってるか気になって仕方ないよね。

(まあ7割方は完くんが勝つかな?

承くん頑張ってるだろうなあ、無茶しないと良いけど?)



ゴール前に移動してると担任の柳先生に電話が来た。

『はいはい、今立花が1位?結構離してる?へー!』


(!!承くんすごい!!)


『え?完がすごいスパート?多分完かな?』


私は聴いていられなくってこっそり小幡ちゃんと学校横の橋まで見にいくことにした。

橋の上からこっちに走る承くんが見える。


(あ、もう限界だ。)

それは見てすぐわかった。きっと毎年完くんのスパートを凌げないから逃げ切るためのリードを取る為にハイペースで飛ばしたんだろう。


『玲奈、立花くんはもう限界だよ?』


『見ればわかるよ!』


自分も同じ感想だったけど人に言われると腹が立つ。

でも毎日頑張ってきたのを隣の席の私は毎日聞いてた。

あっちゃんの為に、ライバルとして見てくれた完くんの為に、負けっぱなしで終われない自分の為に。

あの我慢強い男の子は今日も無理をしている。

(もう頑張らなくっていいよ?辛いんでしょ?苦しいんでしょ?)


後ろからすごい勢いで完くんがスパートをかけている、まだ距離はあるけどこのままならゴール前まではもつれないで決着しそうなほどの勢い。

遠目でわかるほど完くん超笑ってる。対して承くんは本当に辛そう。

好きな男の子が苦しんでるところ、負けるところなんて見てられない。


『止める?これ以上は無理!

なんか声かけるんでしょ?玲奈?』


小幡ちゃんが私に話しかけるけど私は承くんから目が離せない。

承くんと目が合う。もうボロボロだけどまだその瞳は燃えている。







私は大きく息を吸い込む。









『今日まで頑張ってきたんでしょ!?


負けても良いなんて死んでも思うなぁ!!』








自分でも思ってなかったほど声が出た。横の小幡ちゃんがポカンとしてる。

承くんも一瞬目を見開くとニッと笑ってまた速度を上げ、走り出す。


『承くん!!私ゴール前で待ってるよ!

行こ小幡ちゃん!!』



私は泣きながらゴールへ走った。走りながら小幡ちゃんは、


『泣くくらいならなんであんなこと言ったの?』


『だって、目を見たら絶対に止めるなって。』


『…玲奈は武将の奥さんになれるかもね?』


『どうゆうこと?』


『きっと武将が戦へ行く時、今回はきっと負ける、戦死するかもってわかってても奥さんは笑って、頑張れって送り出すんだと思うんだ。

怪我してても病気でも、家のため、家族のため、領民のため旦那さんに本当は征って欲しくなくっても止められなくって。

征ったあと泣いちゃって、無事を祈るしかできなくっても笑って送り出す、そんな武将の奥さんに玲奈ならなれるかもね。』


私はなんとも返事が出来なかった。無茶して欲しくないけど応援せざるをえないのだ、確かにそんなかんじなのかな?

(毎回無茶を見てたら寿命縮まるよね。)



そしてゴール前で固唾を飲んで見守る。

最後の直線に最初に飛び込んで来たのは承くん!数秒後すごい勢いで完くん。

2人の表情は対照的、完くんは笑い、承くんは苦しい。

ぐんぐん迫る完くん、必死に凌ぐ承くん!


そして本当にギリギリ!ギリギリで承くんが完くんのスパートを凌いだ!

校門前は大歓声!それぐらいの激闘だった。


承くんは腕を高々と上げて声にならない声で吠えた!

『〜っっ!』



先生たちと見守っていた女子たちにもみくちゃにされる承くんと完くん。

本当に格好良かった!




レース後勝った承くんの方が明らかに疲弊している。

ゴール後倒れ込みそうになる承くんを先生が支えて救護室で座らせて酸素スプレーを吸ってる。

完くんはニコニコしながらキレてる。自分の足で承くんのところへ行き健闘を讃えた。


『完くん、どっちが勝ったか見たらわからないね?』


『そこまでガチでやってくれたんでしょ?どう?厚樹くんには勝てた?』


『あっちゃんが居たら俺は2位だったw』


『マジで?悔しくて頭おかしくなりそう!

立花くん、体育祭で味方なの残念だよ?』


『味方で良かった!俺はもう2度と完くんとやりたくない!』


『あー悔しい!全力で戦って負けて超気持ち良い!でも悔しい!あー!!』



ふたりがグーパンぶつけ合うのを見てやっぱり男子って良いなあって思った。


落ち着いたから救護室を出る承くんを慌てて追いかける。校舎の影になってる日陰で座り込む承くんに小さい声で話かける

『承くん、すごかったね、優勝おめでとう!』


『ありがとう、でも本当に強いのは完くんだよ。多分今日だけ。』

苦笑いする承くん。


『なんであんなに無茶したの?』


『そりゃあ、勝負だし、完くんに挑戦されたし、あっちゃんの幻に勝ちたかったし…』


モゴモゴ言う承くん。

(違うでしょ!私が聞きたいのは…!)


『…玲奈さんが他の人にキスしてるのは絶対に!絶対に見たくない!』


私はニヤニヤ笑顔が止まらない。


『ふふー!そうななんだ?』

動揺して噛んだ。


『でもこれで…。』


『あの後みんなに誤解でキスは無し!ってきちんと説明して回ったんだよ?』


『えー?!そうなのー!?それ早く知りたかった!』

ショックを受ける承くん。


『だから優勝してもキスは無しなんだよ。ごめんね?』


『あ、それは大丈夫!』

ホッとしてる承くんになんか腹が立つ!もう少し残念がらないかなあ?


『安心したら喉乾いた!

俺今日水筒忘れたからスポドリ買ってくる!』


『いいよ、優勝のご褒美に私が買ってきてあげるからここで座ってて?

あ。あとね?ちょっと耳貸して?』


承くんがこっちに耳を寄せる。


私は周りに人が居ないのを確認して、






ちゅう。






3秒きっかり右の頬に口づけした。

初めて男の子にキスした(頬だけど)


マラソン走ったばっかりで汗の匂いがする、こんなに近くに承くんの顔がある。

唇じゃない頬だからって言い訳して口付けしたのにこんなに心臓がバクバクする。

心臓の音承くんに聞こえるかな?


呆気にとられる承くんの顔がおかしくて愛おしくて笑ってしまう。

『じゃあ、すぐスポドリ買ってくるよ!』


私は真っ赤になりながら自販機へ走って向かったよ!

恥ずかしくってたまらない、顔から火が出るとはよく言ったものだよね!


□ □ □ □ □

小幡 千佳視点


その様子を私は青井とこっそり見ていた。

『そこ!玲奈!よし!』


『応援いるか?』


『…でもさ、なんで立花くん、あそこまで必死に走ったのかな?

たかがほっぺにキスでしょ?』


青井くんが信じれられないものを見るような目で私を見てる?


『男だったら好きな女子のキスかかっていたら命かける価値あるでしょ?』


『男子ってピュアだわ。』


『男にそう思われる女子になりなよ?』


『ムカつく!私は玲奈みたいに可愛らしく無いからそんな風には思われないよ!』


『いつかクラスの男子に頬にキスしてあげるからってお願いしてみなよ?何人かは命かけるぞ?』

青井はなんかつぶやいていた。そんなわけない。



怜奈の様子を確認して、私は教室へ戻った。

その日私はあの熱いゴール前の激戦にインスピレーションを得て完くん×立花くんの絵を描いた。

とても捗った。良い出来!

あの熱い光景を見てこれを描いた事、流石に人には言えない。

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