第76話 on your mark

そして6月下旬、天候は曇り。午後からマラソン大会が始まる。

女子は5km、男子は7km。女子がスタートから20分後に男子スタート。

完くんは俺以外にも去年5位以内の上位陣に真剣勝負を申し入れたらしく今年は大盛り上がり!


俺自身も今年は今までで一番トレーニングしてきた。香椎さんとのお茶を断ってまで積み上げてきた。香椎さんは最初委員長補佐仕事を手伝えなくて不満顔だったけど俺の本気を見て応援してくれた。

想像の中のあっちゃんを越えたかはわからない、でも今までで一番の仕上がりだと思ってる。

昼食もいつもは完くん達と伊勢さん達と食べるけどこの一週間は別にしてる。まあ元々ぼっちなんだけどね?

お昼は午後を考えて軽く。青井と宏介が通りかかり声をかけてくれる。



『立花!仕上がってるみたいだね?』


『うん、恥ずかしくないよう仕上げてきた!』


『俺もトレーニングは積んできたけどどうしても長距離は苦手だから苦しい!立花と優勝争いしてみたかった!』


多分体質なんだろうけど青井は瞬発力やパワーを掌る白筋の割合が強くて短距離やパワーは強いけど持久力は正直並なんだよね?


『青井は体育祭で活躍できるでしょ?俺はここだけだから!』


『マラソン大会で優勝して体育祭でも大活躍の完が異常なんだよ!』


『承がんば!』


青井と宏介は手を振って出ていった。

宏介はトレーニングに付き合ってくれていた!

ありがたい。


昼休みの後半になりそろそろ準備していると、伊勢さん来た。


『ねー?どう?完くんに勝てそう?』


『わからない、強いからね?』


『でも超鍛えてきたんでしょ?』


『そりゃあ超鍛えてきたよ?』


『もし優勝したらさ、こないだ言ったご褒美あげるよ?』


『期待してる!』


ちょっと頬を赤らめて伊勢さんもがんば!って声かけてくれた。



俺自身、負けっぱなしは悔しいし!

自分の中のあっちゃんに勝ちたいし!

完くんの挑戦に熱くなってる!


スタートが待ち遠しいし怖い。相反するようだがこれは良い状態。

入れ込みすぎず、リラックスしすぎず、身体と心に熱がある状態。

あとはコンセントレーションだけ、まだちょっと早い。


ぼちぼち女子は校門に集合してスタートになる。

隣の席に香椎さんが戻ってきた。


『香椎さんも今年勝てば3連覇だね?』


『うん、今年も獲るよ!』


(香椎さんもフィジカルモンスターだよなあ)


そういうとドヤ顔でこっちをじっと見てる?

(なんだろ?)


ちょっとマラソン前で集中し始めていてわからない?


『ポニーテール好きなんでしょ?望ちゃんに聞いたよ?

応援してるよ!って意味のポニーテール♪』

62話 新入部員立花 望 参照


な?!望のやつそんなこと言って?!

動揺を隠せない。確かにポニー玲奈さんめっちゃ可愛い!可愛い!!

うなじ!揺れる毛先!香椎さん!もう最強!


ちょっとポーって見惚れちゃった。


『今までで一番鍛えてきたなら?あとは頑張るだけだね!

無理だけはしちゃいけないよ?

先に女子がゴールしてるからゴール前で応援して待ってるよ!』


『うん。』


『ふふー♪じゃあ勝ったらさ!ご褒美あげるよ!』


『何?』


『何が良い?』


試合前のテンションとポニーテールの可憐さに頭回らないよ。


『じゃあさ…勝ったらキス…ほっぺにキスしてあげようか?』


真っ赤になるなら言わなきゃ良いのに…。聞いてるこっちも真っ赤になっちゃうよ!



ところが




『マジで!!!

マジでマラソン大会優勝したら香椎さんキスしてくれるの?!』


後ろの席に居た小石が大騒ぎ!!

ざわっ!!!クラスがどよめく!


『え?』『マジで?!』『香椎さんがキスしてくれるの?!』


香椎『ちょっと!ストップ!!待って言葉の綾だよ!!ほっぺ!ほっぺにって言った!

例えば!例えばなの!!

無し!!今の無し!!キスはしないよ!!誤解だよお!!』


なんかクラスがざわめいているけど俺の耳には入らない。

俺負けられない、俺にキスしてもらえないのは良い、でも俺の目の前で玲奈さんが完くんにキスしてるのは絶対に、絶対に見たくない!


□ □ □ □

ふらふら教室を出ていく立花を香椎は追いかけて誤解を解こうとする。

それを止めたのは完だった。


『完くん?キスの件は誤解で…しないよ?』


『香椎さん、わかってるよ。

大丈夫、俺勝ってもそんなこと要求しないから!

それよりお陰で立花くん良い顔になった!これは楽しくなるぞぉ。』


完はニタァって笑った。

気は優しくて力持ち。温和なゴリラを思わせる風貌は勝負を目前にして昂りを抑えきれない。


『全力で戦って全力で叩き潰す、これが一番楽しい勝負なんだよ。』


『気持ちはわかるよ。挑んでくれる人限られちゃうもんね?』


完と香椎はこの学年最強で、本気で挑戦してくれる人が居なくなったという点では似ていた。

今回の男子の盛り上がりがちょっと羨ましく思った香椎だった。


□ □ □ □

女子がスタートした。

男子も20分後にはスタートだ。


できるだけ良い位置を取りたいが…陽キャの押しが強い奴らが前に陣取ってる。

まあ良いさ、でも序盤で先頭集団に居ないと厳しくなる。

完くんはスパートが強い。


完くんの話になるが体型はゴリゴリのマッチョでなぜマラソンが強いのか意味がわからない。

毎年2位の2組の遠野くん(初登場、モブ)は趣味ランニングで体型もすらっとしている。彼も言ってた、なんであの体型で持久力あんの?って。

そもそも毎年なら9月下旬の体育祭まではバランス型で鍛えてて1ヶ月後のマラソン大会までに仕上げてくる。これもおかしい。不条理だよね。体育祭後最初の体育がマラソンなんだけど初日は大体俺の方が早いの。それが1ヶ月後のマラソン大会には完くんの方が早くなってる。今回は体育祭って縛りが無い状態で準備期間はたっぷりとれたはず。

俺はサッカー部で約90分戦えるように走り込みしてるけど野球って走塁や守備とかバッティングとかで使う能力の瞬発力とかパワーに必要能力が偏ってるからスタミナも必要なんだけど普通は鍛えてると体型的にもゴリゴリなマッチョになるよね?例えばサッカー選手ってすらっとしてる方が多いでしょ?不条理だ、完くんの肉体どうなってるんだろ?


まあ不条理を嘆いても仕方ない。

俺は3列目で準備する。


両隣に完くんと宏介が来た。

完くんがいつもの温和さを捨てて獰猛に微笑む。



『どっちが強いかな?』

『強い方が勝つんじゃない、勝った方が強いんだ。』


宏介が言う。

『完くん、承が厨二っぽいこというときは絶好調だよ。』


満足そうに完くんは頷くともうお互い目線は合わせない。

緊張感が高まり、先生もスタートの準備を始める。



『位置に着いて!!



よーい!!』


ばん!!!!!

スターターの合図で皆一斉にスタートする!




続く。


※すいません、一応ラブコメです。

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