第35話 人と人

そんなわけで停学が明けて青井が帰ってきた。

皆腫れ物に触るように対応していて、息を潜めて挙動を見ている感じだった。

外町グループはだいたい青井から離れてしまったがそれでも同じ剣道部の一人は外町から離れて青井について来た。


(一人、信じれる友が居れば多少アウェーでも何とかなるよな)

俺は宏介と転校したあっちゃんを思い浮かべた。


俺が青井に近づくと皆が緊張して注目しているのを感じる。

放課後まで待って話しかけてみよう。


放課後。

『立花くん、青井くん今日から2ヶ月清掃後のゴミ捨てをしてもらいます!』


香椎さんが宣言する。もう喧嘩はしないでね!って少しだけ強めに言う。


『わかってるよ、もうしない!』


『しない!』


二人でいい返事!


ゴミ箱二つだから本当は1人でも十分なんだけど二人でのんびり持っていく。

体育祭の応援練習が今日はあるから早めに終わってもあんまりメリットない。



『立花、本当悪かったな…。』


『もう聞いた!それより学校どう?』


特に問題はないが見られてる感じと一部の生徒には冷たい目で見られているらしい。まあちゃんとして誠実に暮らしていくしかないよね?



『俺これからまずどうしたらいいんだろう?』


青井も悩んでいる。


『俺も考えてたんだけどさ、田中や佐方や俺や宏介と遊んで人と人の理解深めたらいいんじゃない?』


謝るなり、わだかまりを解くなり、相手を知ることで自分のことがわかることもあるでしょ?相手だって言いたいことあるかもしれないし。

…俺の中にも1つしこりが残っている。


青井は納得してそれから日替わりで順番に各家へアポとって遊びに行ったらしい。


田中の家でお母さんが美人で優しくていじめたことを謝ったら許してくれたこと田中の漫画の好みは硬派だった。飼ってる犬かわいい。

佐方の家では優しいおばあちゃんが居ていじめを謝ったら佐方くんがどれだけ苦しかったか!ってめっちゃ怒られた。

あと佐方スマブラめっちゃ強かったって。

気弱3人ってくくってた残りの一人は家に家族いなかったけどパソコンめっちゃ高性能でびっくりしたこと、ゲームうまい。

宏介の家はお母さんが宏介と同じ顔で超お母さん似じゃんってビッくりしたこと。後お祭りで救った金魚を10年以上飼ってるのびっくりした。



そして体育祭の代休に青井は立花家に来た。


『宏介の家の金魚!びっくりするよね!』


『あんなにデカくなるんだな金魚って!』


宏介の家の話で盛り上がった(笑)


青井が言った。


『でも立花が言う通りだった。田中たちを知ってたらいじめなんてしなかった。お母さんや家族を知ってたら暴力なんてふるえないよな。』


そうだよなあ、俺もそう思う。

相手の家族や何を大事にしてるのか何が好きなのか?それが分かれば友達にはなれなくっても理解しあえれば人と人はうまくいくと思うんだよね?


『だからさ、何が一番大事か?何が一番許せないか知れば大体その人がわかるかもね?』


青井は頷いた。


うちの爺と婆が出迎える。


『いらっしゃい、宏介くんとあっちゃん以外連れてくるのは小4以来だねえ』


『承くんは友達いないからねー?』


『居ないんじゃない、数少ないんだよ!』



じいちゃんとばあちゃんが辛口!青井におやつをすすめて自分達の部屋へ帰っていった。



『面白いじいちゃんばあちゃんだなあ。』


まあねえ。


『じゃあ俺の大事なもの?見せるね。』


『お!見せて!!』



部屋の片隅のベビーベットへ近づく、青井もわかってたのか静かについてくる。

俺はニッコニコしながらハイテンションに紹介する。



『ジャーン!我が家のアイドルひーちゃんでーす!!』



『にー!ひーちゃーん!』



『可愛いなー!何歳?』



『ひーちゃんはもう少しすると2歳になるヤングボーイなのだ!』


光が名前だけどひーちゃんって呼ばれてる。

まだ一歳半だから自分をひかりって言えないんだよ。


『お目目クリックリ!可愛いなあ!』



『だっこー!』



まだ簡単な単語しか喋れない、だがそれがいい!

青井は一人っ子だって聞いたから赤ちゃん珍しいんだろうな。

まあうちのひーちゃんは最強だけどね。



『青井、だっこしてやってよ?』



『いいの?』



だっこのやり方を教え恐る恐る抱き上げる。


『よだれつくかもだけど気をつけてね?』


『こんな可愛いんだから気にしない。』


赤ちゃんセラピーなんてあるくらい赤ちゃんには癒し効果がある。

赤ちゃんにほとんど接していない青井など簡単に陥落するだろう。



『あー、癒されるー!』


『だろ?うちの宝物だからねー』

俺はさっき同様テンション高く話を続ける。


ひーちゃんをベビーベッドに戻して、青井に見せる。


『ひーちゃん、ちょっと見ーせて?』



『やー』


『お願いひーちゃん!』


『いー!』


許可出たのでひーちゃんに断って服をはぐる。

青井が息を呑む。

ひーちゃんの胸には手術の跡が2箇所ある。小さいひーちゃんの胸にある傷跡はその小さい体に不釣り合いの禍々しい痕で見まいとしても強烈に視線が引き寄せられる。



『…これって…?』


『光はね、生まれた時から心臓が悪くてね。

本当に危なかったんだよ。』



青井が黙っているから続けた。


『まだ1歳半なのにもう2回心臓周り?の手術してるんだ。

まだ小さくって体力ないから…命懸けだった。

よくわからないんだけど症例が少ないんだって。

だから補助を受けても色々なお金が費用がかかっちゃって…。』



青井は顔色が悪くなっていた。

続けた。


『だからさ、うち両親共働きだけどひーちゃんの付き添いとかあるから一時母さんは働けなくって忙しくて大変だったんだ。』



俺はニコニコしながら


『詳しくは子供だから知らせて貰えなかったし今もわかんない。

でもじい、ばあの話聞く分には何千万とかそれ位のお金が必要でさあ。

そんなお金普通家にないじゃん?

だからうちには借金があるんだ。』



青井はもう震えていた。

ひーちゃんの服を戻しながら続ける。



『どこの家だって家を建てれば何千万円かかってみんな借金して払って行くと思うんだよ。

うちはそれがたまたまひーちゃんでひーちゃんはわがままボディの金がかかる男なんだ。』



続ける



『ひーちゃんの手術や医療費に大金がかかるってわかった時に即座に躊躇わないで借金をしてひーちゃんを守った両親を俺は誇りに思っている。

借金を返して俺たちに普通に暮らさせるために必死に働く両親に弁当なんていらないおにぎりとなんかウインナーとかだけで良いよってお願いしたのは俺なんだ。』






続ける





『一回だけ、一回だけ言う。もうこの話は2度としない。

いじられていた時の話だ、俺の両親をしょうもない?

2度と言うな、殺すぞ。』





苦笑いしながら続ける。



『青井とは話して悪い奴じゃないってわかったからもう終わった話だ。言ったのも青井だけじゃないしな。

それでもだ、借金があるんだから確かに貧乏だよ、母さん忙しいから、手間かけさせたくないから俺のお昼は質素だよ。スマホだって持ってないし。

友達少ないし、確かに委員長は務まらなかったし貧乏ならバイトした方が良いって俺も思うよ、でも中学生の俺に出来るバイトがこの辺には無かった!

俺のことなら良い、でも家族を友を侮辱するな、両親を妹の望を必死に生きてる光を侮辱することは絶対に俺は許さない。』

(12、13話参照)


淡々と青井に告げた。

今回だけ、もう2度とこの話は蒸し返さない。

俺は謝った。

『ごめん、お前だけが言ったんじゃないのにな。』



青井は声を出して泣いてた。泣きながら詫びていた。

(やりすぎた。話してるうちに怒りが再燃してしまった…)



じゃあこの話はおしまい!って宣言してひーちゃんをジジとババに任せて俺の部屋へ行く。

しばらくは無言だったがもう終わりだよとおどけてやっと普通の空気になった。

何かお前のおすすめを貸してくれ!って言われたから当然『花の慶次』を手渡す。

これ読めば大体漢わかるんじゃない?



久しぶりに剥き出しの感情をぶつけてしまった。もうこの話は俺が呑みこむ。



『ありがとう立花、こないだ語り合ったことでわかった気になってたけど今日もっと立花承を知ることができた。

誤魔化して付き合っていくこともできたのに俺と向かい合ってくれて、責めてくれてありがとう。』



ああ、こいつは思ってたより人の心がわかる男なんだな?

自分が言った事だけど理解して友達になれば傷つけあったりせずに諸々うまくいくのかもしれない。誰かとそんな話を…あ、香椎さんと昔はなしたことだった。



『立花、このままだと俺は俺を許せない、ひーちゃんに顔向けできない。』


『いや、もう良いんだよ、一度許すって言ったのに家に招いてそんな話をした俺がむしろ悪いわ。すまなかった謝る。』


いやいや俺が!俺が悪い!二人で自分が悪いを主張する。

もし3人目が居てじゃあ俺が悪いって言ったら『お前が悪い!』ってダチョウ倶楽部さんみたいになりそうだった。

青井は言った。


『じゃあ一発俺を殴れ!』


『わかった、ならその後俺も一発殴れ』


思わず応じてしまったが前回俺の方が殴られた後遺症重かったんだよなあ。

こうして青井はみんなの家を1周した。

青井が学んだ、得たものは多かったみたい。




次の日。

香椎さんは冷たい目をして言った。


『何でまた2人は顔を怪我してるのかな?説明してくれるよね?』


『はい。』


言いたくないことを省いて香椎さんに説明した。


『どうしても必要だったんだよ。』


『それ走れメロスのラスト!』


香椎さんが呆れながら突っ込んだ。

香椎裁判官の判決はゴミ当番一カ月追加の刑だった。異議申し立てを出来る雰囲気ではなく、

結局香椎さんにめっちゃ叱られた。執行猶予はつかなかった。



ーーーーーーーーーーーー

立花家の日常。

お風呂あがりのひーちゃんをよく拭いて、仰向けのお腹に顔を埋めて息を吹きこむ承。


『ぷーー!!』


『きゃっ!きゃっ!』


ひーちゃん大喜び。妹の望がその音を聞きつけてやってきて同じように息を吹きこむ。


『ぶーー!』


『きゃっ!きゃっ!』


同じようにお腹で音を出して遊んじゃう。


『ひーちゃん、ひーちゃん!』


『ねー!ねー!』


『早くお姉ちゃんって呼んで欲しい。』


『俺もお兄ちゃんって言って欲しい!』


立花兄妹はひーちゃんのわがままボディに夢中なんです。

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