第34話 2人の距離【side香椎玲奈】
私は余程のことが無ければ自分のことより人の事、いや全体の事を優先するタイプだと思う。全員が全員自分のことを主張していたら決まるものも決まらないのは学級委員長の仕事をしていても思うのだからこれが町とか市とか県とか国とか大きくなるとどれだけ煩雑になるのか正直見当もつかない。
だから余程のデメリットが無ければ全体を優先する方が楽だったり効率的だったりすると思う。
立花くんと青井くんがぶつかった翌日、朝HR前に二人を説教しなければならない。あまりしたくは無いが立花くんが言う通りここでビシッとクラスにいじり、いじめを止めるには確かに良いと思う。
朝、クラスに入ると立花くんはもう来ていた。
(!!)
頬がひどく腫れている!先週一回青井くんとケンカした時にはもう腫れていたが昨日殴られた所はもっとひどい腫れだった。
(昨日は夕方から夜だったからわからなかった!あんなにはしゃいでいたから気付けなかったよ。)
仮面をつけて立花くんと青井くんの話を聞いてる時になんでこんなことを?と聞かれた立花くんは自分の為と香椎さんが悩んでいるから!って即答してくれた。
(大変な事だと思っていたがこんな痣作るほどのケンカだったんだ…。)
私は二人を叱り、自由は好き勝手と違うこと、暴力はいけないこと、みんなに思いやりを持って欲しいこと、みんなが好きだからみんなが傷つけあってるところは見たくないと。だからいじり、いじめ、暴力は絶対許せない!何かあれば言ってほしいとスピーチした。
いつもよりまとまらなかった。顔に怪我してる二人を見ていたら心が落ち着かなかったからだと思う。
二人にはゴミ捨て当番2ヶ月を課した。1ヶ月って最初伝えていたんだけど2人でやるなら立花くんが1ヶ月分。ゴミ捨てるスペースは別棟で時間かかる為、皆やりたがらないから落ち着いたらたまに私が一緒にゴミ捨て手伝ったりすることもできるしね。合法的に立花くんと2人で歩けるはず!
そんな多少の自分勝手を盛り込んだところで青井くんがいじめの自白をした。
立花くんや田中くんに一人一人詫びて深く頭を下げた。
当然、大問題になった。
1限目は自習になり、青井くんや立花くん、気弱な3人らは事情聴取受けていた。
青井くんが全部自分って言ったからいじめに関与した子はホッとして青井やばいよねとか言ってるのを聞いて流石に腹が立った。
昨日のケンカで本当にわかりあったんだ。私は正直彼らを甘く見ていた。
今日になって心変わりして朝は逆に攻撃されることもあるかも?って思っていた。
始まってみたら喧嘩両成敗って一緒に説教された立花くんのその心に応えて皆の前で罪を告白して皆の前で謝罪した姿は素直に立派だった。
もちろんいじめは悪いし、やったことは戻せないよ。
それでも立派だった。ちょっと感動した。
最初に立花くんの作戦を聞いて大丈夫?て思ってたけど結構真面目に考えられてて。でも土壇場で殴り合う選択をしたと聞いて私は正直怒った。何をしているのよ!と。
終わってみれば全部立花くんが解決してくれた。私の目は正しかった。
立花くんはすごい男の子だよ!
放課後立花くんはクラスの男子を私は女子に話をしに行った。
今回の事件を受けて皆いじめ良くない!って風潮になっていたからいじりやいじめをさせないようにクラスで協力するっていう説得は簡単で『本当はあんな空気嫌だった』とか言うのだ。
そう思っても動いてくれたのは立花くんだけだったのに。私は、
『そうだよねー○○ちゃんはそうだと思ってたんだよー!』
とか合わせておく。必要なことだ。
女子は感情的に何かあればすぐに敵に回ることも珍しくないから油断せずに動きを見守る。その点男子の方がわかりやすくって羨ましいよね。
この事件はあっという間に学校中に広まり学校も問題視して一気にチェック体制、意識の変化によりこの学校からいじり、いじめが一気に姿を消した。
もちろん完全に根絶はしないものだと思う
それでもそれが無いだけで心は軽くなるし、苦しむ人も減るのだから久しぶりに悩みが無くなって私は少し浮かれていた。
体育祭の準備が本格化してきた。
クラスの各2人が体育祭実行委員会と体育祭クラス委員になってそれのフォローに忙しい。実行委員は本部仕事でポスターの作成や周囲のお宅へ挨拶に行ったり競技を決定したり、所属クラスに伝達や、物を手配したり生徒会と一緒に体育祭って祭りを行う準備、実行、片付けを行う。体育祭クラス委員はクラスで競技に誰が出るかとか、3年生の指示に従って応援練習やパネル、小道具などの作成を割り振ったり、クラス内の諸々実行していく。
これが結構大変でどっちの委員もフォロー必要だから頼まれた役割を割り振ったり調整したり人手がいるからクラスメイトにお願いしたり大忙し。
部活もこの準備期間は日数が少ない。立花くんは怪我の為部活や応援練習も免除になっていたが造花を作る作業だけ一生懸命手伝っていた。
大変に忙しいのだが私には楽しみがあった。
『立花くん!こっち向いて!』
毎日業務終わりに保健室で立花くんの顔の傷の治療というか痣の手当てをしているのだ。
『もういいよ。』
『ダメだよ!こんなに腫れて!』
軟膏を丁寧に指で患部に塗り込む。
合法的に立花くんのほっぺを触れる!しかも至近距離で!
ちょっとドキドキしながら手当てしてるんだけど立花くんは照れてなかなかこっちを見てくれないよ!
私のために身体を張って頑張ってくれた立花くんにお礼がしたくってお弁当作ってきたら食べてくれる?とかお礼にどっか一緒に遊びに行く?とかさりげなくお願いしているんだけど何とも生返事。
誰にでも言ってるわけじゃ無いんだよ?私が思わせぶるとすぐに好きになられてしまうから男の子には対応はしっかりしているつもり。親愛や友情は示すけど男の子にはできるだけ愛想の良い受付のお姉さんのようなビジネス対応をとっているつもりなんだ。
でも立花くんはちょっとだけ特別なんだよね。元々気にしていたけど今回の立花くんの『熱』みたいなものに当てられたのか仲良くなれたら良いなあから仲良くなる!に気持ちは変化していた。
だから精一杯の気持ちで『何でも言って!』って毎日保健室で手当て中に言ってアピールしていたんだよ?
(でもえっちいのだけは困っちゃうよね?まあ立花くんは子供だからそこまでのお願いは絶対出てこないでしょ!)
そんな3日目ついに立花くんがなんか言いにくそうにお願いしてきた!
『香椎さん、あのさ』
『うん!いいよ!』
(しまった、気持ちがはやった)
立花くんは困った顔をしながら言った。
『香椎さんにお願いがあるんだけど…。』
『うん!いいよ!』
大概の事は(えっちいの以外)了承するつもりなので返事が食い気味になってしまったよ。
なんか立花くんが残念な生き物を見る目で私を見てる気がした。
(失礼な、でもそうよね?ちゃんと可愛く!)
ちょっとあざとい上目遣いのうるうるモードで立花くんを見つめる。
立花くんは照れて私の目を見れないみたい?やりすぎたかな?
大事なことは目を見て言って欲しい。
夕日の差し込む保健室に2人きり、このシチュエーションも何度かやってる。
ざわざわする校舎と段々帰っていく生徒たちの声が遠くに聞こえる。
(まあ告白…はしてくれないよね?)
流石にわかる、立花くんはまだ子供だもん、まあ私も同学年だけど。
でも何かお返ししたい、何かお願いしてくれたら、できたら二人の距離が縮まるようなお願いを私にして欲しい。
少し緊張した様子で立花くんが口を開く。
『香椎さん、俺と距離を置いて欲しいんだ。
できたら厳しく接して欲しい。』
『え?ちょっと何言ってるかわからない。』
(は?ど、ど、どういう事ー?!)
『それ俺がよく使うサンドイッチマンのやつ!』
立花くんのツッコミ久しぶり!
(いや、今はそれどころじゃ?!なんで?!今回のあれこれで距離は縮まったんじゃないの?!)
私は思わず怒ってしまった!そして泣きそう。
『何で!何でそんな事言うの!?』
(私のこと嫌いになったの?!)
立花くんは1から説明してくれた。
青井くんの一件以来注目を浴びるようになった事。
色々な噂があるが暴力が絡んでいるため悪評が強いらしい、キレる陰キャが一番怖いみたいにも言われてると傷ついた顔で言ってた。
大体危ない、怖い、友達いない、強い、すごいって順番の評判みたい。
今回いじめの解決は私の愛のこもった説教と立花の肉体言語(?)で青井くんが改心したって噂になっているらしい。
立花くんはすげえ危ない奴みたいな噂が広まって怖い先輩たちが昼休みに見に来るのまじ怖いって言ってた。
立花くんは
それでそんなやつが香椎さんの側にいると香椎さんにも悪い噂が付きまとうし、そもそも香椎さんのそばに居たら目立ってしまうし仲良くしていたら妬みも買ってしまう。
それにこないだの
だから距離を置いた方が良い。
って。
『やだよ!』
私は駄々を捏ねた。
『でもそれが一番香椎さんの為にもみんなのために良いはずだよ!』
立花くんの言うことのメリットはわかるすぐに理解できた、なるほど確かにみんな、私、青井くんは確かにそっちの方が丸く収まるけど立花くんだけ損じゃない!
『何でも言ってとは…?』
聞き分けの悪い私にびっくりしたのか立花くんがつぶやいた。
立花くんは
とにかく、戻ってくる青井のためにも俺と青井は香椎さんに言われて反省しています。って態度とペナルティを受け入れて香椎さんは皆に公平、悪いことしたら毅然と対応する!って姿勢で行かないとまたいじめとか違う形で再発する可能性があると俺は思っていることを伝えた。
確かにいじめた青井は悪いけど皆の前で罪を申告し謝罪した勇気と男気に応えるためにも俺にも毅然とした態度で接して欲しいと。
中途半端だと今度は青井が仲間はずれやいじめの対象になってしまう!
『お願い、香椎さんこの通り。』
(私のために頑張って身体を張ってくれた立花くんに頭を下げさせて私は何をしているの?)
私は了承した。
その日は自分の無力さに腹が立って仕方がなかった。
立花くんが守ってくれたものを必ず私がキープして無事にこの任期を全うしてみせるって誓った。
私にはそれしかできなかったから。
でも、また一緒に笑って何かしようね?
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