第32話 言わずにはいられない
こうして顔に痣を貼り付けてクラスへ向かう。
教室に入るとクラスメイトがギョッとした顔で俺を見てる。
『立花さあ、顔どうしたん?』
滅多に話さない隣の席の女の子が話しかけてきた。
『色々あったんだよ。』
『先週も怪我してたけど昨日よりひどいことなってるよ?』
(知ってる。)
手をひらひらさせて流すと女子は黙った。
香椎さんも教室に入ってきた。
俺の方を見てやはりギョッとしている。
(昨日話したからいいか?)
そして青井が入ってくるとクラスがどよめいた。青井も酷い顔をしている。
でも誰も話しかけはしなかった。俺と目が合うと赤くなった、きっと今朝青井も昨日のテンション思い出して恥ずかしさに悶えたのだろう。
朝HRが始まる15分前香椎さんが教壇に立ち皆の注目を浴びる。
『昨日の夜に青井くんと立花くんがケンカしてると他の生徒から連絡がありました。2人とも本当?』
『した。』
『したよ。』
『何で?二人してそんな怪我して!学校はリングじゃないんだよ!』
そこから香椎さんの説教が始まった。
自由は好き勝手にやって良いとは違うこと、暴力で怪我すれば事件になるし、家族を心配させる。当たり前のことだけど人に思いやりを持って欲しい。私はみんなが好きだからみんなが傷つけあってるところを見たくない。
だからこそ心も体も傷つけるいじり、いじめ、暴力は絶対に許せない。
何かあれば私ができることは何でもするから言ってほしい。
香椎さんならもっと綺麗なスピーチをする印象だったが今日は荒削りの思ってることを吐き出すような、心をぶつけるスピーチだった。
『二人とも絶対にもうケンカしないでね!罰としてクラスのゴミ捨て2人で2カ月!』
(話し違うなあ1ヶ月って言ってたのに。)
まあ仕方ない。選択肢は無いかって思った時に青井が口を開いた。
青井の顔は憑きものが落ちたように穏やかだった。
『…聞いて欲しい。
喧嘩だけじゃないんだ、俺は立花や田中たちを…』
3秒くらい躊躇いがあった。
『…いじり…いや、いじめました…。傷付けて、侮辱して、暴力を振るいました。』
クラスがシーンとする。そこまで言わなくてもいい、これからいじめに抑止力担ってくれれば今までのことはこれからの付き合い方で不問にするからみんなの前でそれを言ったら問題になる!
俺は止めようとした。
『立花!言わせてくれ。謝って済むことじゃないけど。』
俺に向かって深々頭を下げて青井は詫びた。
田中や佐方くん達にも一人一人に詫びて深々と頭を下げた。
大問題になった。
先生は途中から聞いていたのかすぐ教室に入ってきて1限目は自習になり、
俺や青井、気弱な3人もそれぞれ聴き取り調査を受けた。
青井は自分がやったの一点張りで他のいじめに協力した奴の事は一言も喋らなかった。
外町やそのグループは戦々恐々としていた、共犯で事情聴取受けることもあるかもしれないって考えていたんだろうがいつもと違うお葬式のような雰囲気だった。
被害を受けた俺たちはこれからの青井を見て判断するがまずは謝罪を受けとる。厳罰は望んでいないことを伝えた。
被害者側が厳罰を望んでいなくて学校側も事件を大きくしたくないのだろう、青井に反省の態度は十分見えて、自分で申告もした。
急いで結論を出したのか翌日には処分が決まり、青井は3日の停学になった。俺もケンカしたがいじめがあったこと、追われてるのを目撃した人も多かったため注意で済んだ。
各所からこの件詰められたのか事なかれ主義の担任は真っ青になっていた。これだけは溜飲を下げた。
当初はケンカ騒動から香椎さんの公開裁判とスピーチでいじめダメ絶対!をアピールしてイジメいけない!って風潮に持っていくはずが青井が自分から名乗り出た為この事件はあっという間に学校中に知れ渡り教師、生徒ともそういう事件に敏感になり、各クラスや部活などの小さないじりなども許されないって風潮になり学校のいじりやいじめは瞬く間に息を潜めた。
俺は放課後クラスの男子に会いに行った。学校で話せるやつには1対1で少しだけど思いを話した。学校で話せなかったやつは家知ってるやつだけ小石以外全員(外町は3年前に転入して来たから知らない)会いに行った。
大体半分は元々いじりやりたくは無かったって言ってた。もう半分は俺を怖がっていた。でも概ね了承してくれた。
女子には話しかけられなかったので香椎さんに願いした。
でも何となくわかる、人間だからパワーバランスが崩れたり事件があるとまたいじりやいじめがすぐに再発するのだろう。
それでもそれが無い方がクラスは平和で好きな子の悩みも減るんだから上々だろ?
いじりやいじめに敏感になった学校は多少窮屈だがいじられていた頃から比べればストレスフリーだった。
香椎さんのホッとした顔が最高のご褒美だよねって思った。
ーーーーーーーーーーー
長い1日が終わり、青井はやっと家に帰る。
自分のした事だが繰り返しの事情聴取を受けてさすがに疲れていた。
親には昨日話をしてこっぴどく叱られたが自分から申告することに驚いていた。
(俺だけじゃ無いんだな、親にも迷惑かけちまったなあ。)
そんな事を思いながら歩いているとシューズボックスで外町とばったり会った。
『…。』
『…。』
昨日まで仲間だった二人の間に会話は無かった。
『…俺がいじめたから…俺の俺だけの責任だ。』
外町に恩を着せるでもない、詫びるでもない、淡々と目を合わせずに呟く青井。
『…そりゃあそうだろう…。』
外町グループがいじめに関与していて外町が待ったく関係無いわけがないが外町のこれまでの高い信用と証拠不十分、青井の自分だけという主張に事情聴取も無かった。
青井は初めて目を合わせるように外町に向かって言った。
『立花さ、お前が言うような厚樹の腰巾着で口ばっかの陰キャ野郎じゃ無かったよ。』
外町はまだ目を合わせずに靴を履きながら言った。
『だからお前をぶつけたんだろう。』
ここで初めて目を合わせて外町は青井に言った。
『もう、話しかけてくんな。』
一瞥もせず外町は帰って行った。
友達だった、友達だと思っていた。こうなる気はしていたがもしかしたら?とも思ってしまった。苦笑いして青井も校舎を出る。
明日以降どんな処分が下るんだろう、みんな俺をどんな目で見るんだろう?
(学校に味方が居ないってこんなに不安なんだな。立花はどんな気持ちで…?)
今更ながら自分のした事に罪悪感と胸糞悪さ、羞恥心を覚えて校門を出る。
校門を出てすぐ近く、3軒隣の家の2階の窓から宏介と立花がこっち!って言いながら手招きしていた。
自分から罪を申し出た時に不安はあったが後悔は無かった。
青井の目には校門の外は空が広く見えた。
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