第3話 表
階段落下事件から、はや二ヶ月。
手首は治癒師という魔法のように治してくれる人を神殿から呼んでくれたみたい。
治癒師はとてもすごいけど、一回かかるだけで平民が一生かかっても返せない額が必要だ。お陰さまで痛みも何もないが、こっそり金額を調べたときは血の気が引いた。
どう頑張っても返済できない額なので、返せと言われないことを願うしかない。
あれから変わったことと言えば、王子が片時も私から離れてくれなくなったこと。
何故か、私の住居が王城の一室へと移され、学園には行けるものの王子が一緒じゃないと部屋から出してもらえない。
窓には転落予防という名の鉄格子。ドアには護衛騎士。もうひとつある扉は王子の部屋に直通。
もしかしなくても、軟禁である。学園に行けるだけ、ましかもしれない。
普通なら、ここで王子のヤバさに引くだろう。だけどね、むしろラッキーって感じ!
朝も昼も夜も、王子の顔を見放題とか天国なの? あの時死んだとか言われても、ここが天国だからそれでもいいかなってくらい幸せ!
残念ながらR指定展開はまだだけど、結婚したら我慢しないから……だって!
その時に首噛まれたのにはちょっとビックリしたけど、王子顔ならあり! 何されてもいい! あっ、でも殺されるのだけは嫌かな。そしたら、あの美しいお顔が見れなくなるし。
そんなこんなで幸せな二ヶ月でした。乙女ゲームの展開からは大きく外れちゃったけど。
そして、今日は断罪の日。
ベアトリーチェ様が二ヶ月の間に訪ねてきてくれて、号泣しながら謝られたこともあったけど、お陰で協力者だと分かって良かった。これで、心置きなく国外追放ができる。
思ったよりも全然いじめてくれないから、断罪できるの? ってなってたけど三人で口裏も合わせられたし、あとはやるだけだ。
「ねぇ、レン様。レン様って、私のストーカーでしたよね?」
ドレスアップした私の隣に立つ王子へと微笑めば、彼は明らかに挙動不審で笑ってしまう。
乙女ゲームの登場人物だと思っていた彼等も、意思のある一人の人間だったのだ。シナリオから外れてから、やっとそのことに気が付いた。
そして、王子は私のストーカーだった。でも──。
「そのくらい、私のことが好きってことですよね?」
驚きに瞳を見開いた顔も、そのあとにくしゃっと子どものように笑う顔も、熱を孕んだ瞳も全てが愛しい。私の完璧な
きっと、この顔じゃなきゃ許せなかった。
軟禁された日、オーダーメイドであろうドレスやワンピース、靴や下着のサイズまで気持ち悪いほどピッタリだった。
それが一つや二つじゃない。衣装部屋いっぱいにあるのだ。
普通に考えておかしい。顔はいいけど、行動がおかしいのだ。
もしかしたら、私が乙女ゲームを熟知しているから攻略できていたのではなく、作り出された運命を辿っていただけなのではないか。そんな疑問が湧き、ベアトリーチェ様が謝罪に来てくれた時にその疑問をぶつければ、驚くほど頭を下げられてしまった。
その時に、王子が護衛や影を使って私を監視するというストーカー行為をしていたことを知った。
金持ちは自らストーカーをするのではなく、人を使うのか……と変な関心をしてしまったものだ。
「好きなんかじゃ足りない。どうしたら良いのか分からないほど、焦がれてしまうんだ。俺だけを見て欲しい。ミリーを誰にも見せたくない。閉じ込めてしまいたい……」
あぁ。苦悶の表情もいい……。心のシャッターを連写しながらも私は微笑む。
「いつもレン様だけを見ているわ。でもね、閉じ込めないで。そうしたら、レン様と色々なものを見に行けないもの。レン様の隣にいられないもの」
「あぁ、ミリー! 絶対に離さないからな……」
力強く抱き締められる。その背中に手を回せば、更にギュッと抱き締められた。痛いくらいの力だけど、あのお顔がやっているのならこの痛みも極上だ。
さぁ、私の愛しの王子が作った、作りものの物語のエンドへと向かおう。
それぞれが幸せになれる最高のエンドへと──。
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