第1話 裏
一年前、視察で訪れた孤児院でかなり遠目からだが、理想の女の子に出会った。遅すぎる初恋。それは、確実に俺のなかで育っていった。
そして、遂に初恋の君と会える日がやって来た。
入学式の新入生挨拶を終え、壇上から降りた俺を婚約者のベアトリーチェがいつも通り出迎えた。
「どうでしたの?」
「いたよ。やっぱり、可愛かった」
「じゃあ、このまま計画を進めるのでよろしいですわね」
そう嬉しそうに言う彼女は本気で喜んでくれているのだろう。計画を持ちかけてきたのはリーチェだったから。
「なぁ、本当にいいのか?」
「良いも何も、私はレンと結婚したくありませんもの。私と私の愛する方のためにもしっかり国外追放してくださると信じてますわよ」
幼馴染みでもあり、親友でもあり、婚約者でもあるリーチェにそう言われ、男としての自信を少しばかり失くしそうだ。
「一目惚れなのでしょう?」
「ああ。桃色の髪に琥珀色の瞳。小動物のような愛らしさ。しかも、孤児院の子供たちのために自ら菓子作りを覚え、病気や怪我について学ぶだなんて、女神すぎないか? 何より、ちょっと小ぶりの手にすっぽり収まりそうな胸と細い首がいいよな。あぁ、あの細い首筋に噛みつきた──」
「はい。ストップですわ。レン、貴方の性癖など聞きたくもありせんわ」
リーチェは、虫か何かを見るような視線を投げつけてくる。だが、俺はそんな目で見られても全くもってそそられない。
俺とリーチェは、互いが恋愛感情の欠片すらも抱けなかったからこそ、仲良くやってこれたのだろう。それぞれが別の人に想いを寄せるようになってからはなおのこと。
「それに彼女──ミリスさんのストーカー、まだやめてないと聞きましたわよ? そういう男は嫌われますわ」
「ストーカーじゃなくて、見守ってるんだ。あんなに可愛いのに街中を歩くなんて危険すぎる。それに、気づかれなければ問題はな……。いや、問題ありだな。護衛につけるのは全て女性に変えないと。護衛がミリーに恋してしまうということを忘れていた。あんなに素晴らしい女性に想いを抱かない男なんていないはずだ」
急いで護衛の変更をしなくては……と頭の中で算段を立てていれば、リーチェにわざとらしいほどの大きなため息をつかれた。
「どこから突っ込めば良いのか悩ましくて、頭が痛くなりますわ」
「保健室で休むか? それとも、迎えを……」
「そういうことではございませんわ。まず、なぜ一言も言葉を交わしたこともないお相手のことを勝手に愛称で呼んでらっしゃいますの?」
「そんなの俺の運命の相手だからに決まっているだろ?」
「だろ? じゃございませんことよ。それに、誰も彼もが想いを寄せるなんてことは、どんなに魅力的でもさすがにありえませんわ」
「ありえるかもしれないだろ」
「ありえませんわ」
「一億歩譲ったとして、一人くらいはいるだろ」
「そうですわね。一人くらいなら……って、レン早まってはなりませんわ。運命を作り出すために散々計画を練ったではありませんか。計画を台無しになさるおつもり?」
とりあえず、怪しいのから一人ずつ拷問するか……と考えていれば、リーチェからストップがかかる。
確かに目先のことに囚われて、ミリーとの運命の機会を逃すわけにはいかない。
こうして俺はミリーと、リーチェもまた想い人との未来を勝ち取るために運命を作り出す日々が始まった。
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