第21話 運命の人は神様が決めた人

ターヤの努力により、アクラを倒した。

あれから一週間。

わたしは学校の都合でなかなかターヤのお見舞いに行けなかった。

今日は久しぶりにターヤに会えることになって、わくわくしながら病室に行った。


「ターヤ! 久しぶり!」


わたしは元気よく病室の扉を開けた。

そこにはターヤが立っていた。


「あら、久しぶりね」


ターヤは相変わらず雑なあいさつを返す。

それはいつものこと。

ただ、いつものことでないことがある。


「え? あれ?」


わたしは目をこすってターヤをもう一度見る。

やっぱりターヤは可愛い。

いや、そういうことではなく。


「どうしたの?」

「ターヤ、立っているの?」


ターヤは自分の足で立っていたのである。


「ああ、そうね。昨日から自力で歩けるようになったわ」

「……」

「?」

「おめでとう!」


わたしは涙を流して喜んだ。

喜んだついでにターヤを抱きしめようとした。

ターヤは軽やかなステップでわたしをかわした。

足の動かなかったターヤにはできなかった動き。

いつもならおとなしく抱き着かせてくれたのに。


「もう、ちゃんと歩けるようになったのよ」

「良かったわね……」


抱き着くのは失敗したので、ターヤの両手を握った。

これは回避されなかった。

わたしの両手でターヤの両手をぶんぶん振る。


「そんなに喜んでくれるのね……」

「それはそうよ。ターヤがきちんと歩けるようになったんだから!」


わたしの興奮具合とは逆にターヤは落ち着き払っている。


「まぁ、わたしの足が治ったのはあなたのおかげ、というかあなたのせいなんだけど」

「わたしは何もしていないわよ?」


ターヤのために医療の勉強を始めてはみたものの、実際にターヤの治療をしていたわけではない。


「あなた、私と出会った最初のことを覚えているかしら?」

「ええ、覚えているわ。身体中に戦慄が走って、これが一目惚れかって理解したわね」

「いや、そこはどうでもいいんだけど。……あなた、この世界に生まれ変わるとき、わたしをいじめるよう神様に言われたらしいじゃない?」

「あ~、ああ。そうだったわね」


そんなこともあったな。

すっかり忘れていた。

この世界に生まれ変わったときの使命というか、この世界における役割をもらったんだった。

ターヤの可愛さの前にすべて瓦解したわけだけれども。


「実はね、わたしもこの世界に生まれるときに、神様から役割が与えられたのよ」

「……そうなの?」


初耳だった。

初耳だし、驚きだった。

ターヤに限らず、前世の記憶を持った人や、神様から役割を言い渡された人に出会ったことがなかった。


「私が与えられた役割わね、『17歳ごろに足が動かなくなって入院するから、そこでお見舞いに来た男と結婚して幸せになること』よ」

「……は?」

「『17歳ごろに足が動かなくなって入院するから、そこでお見舞いに来た男と結婚して幸せになること』よ」

「いや、2回言わなくても大丈夫だけどさ」


ターヤはそんな予定調和の役割を担わされたってこと?

え、つまり、ターヤの足が動かなくなったのって?


「わたしの足が動かなくなったのは、神様のシナリオを動かすためのフラグなのよ。原因不明の難病ではあるけれど、運命のいたずらによる不幸なんかじゃない。私が幸せな結婚をするために、なるべくしてなったってことよ」

「……え? そんなことある?」

「そんなことがあるというか、そういうことをしていたのよ。神様がセッティングしてくれた婚活みたいなものよ。私はこの入院中に、未来の旦那を見つける必要があったのよ」


神様が婚活をセッティングしてくれたなら、それはもう運命の相手と言って差し支えない気もする。


「あれ? でも、わたし、ターヤのお見舞いに来た男共を全員追放しちゃったわよ?」


そう。

わたしはこれまで、ターヤのお見舞いに来た男共にゲームを挑み、勝利することでターヤに近づけさせまいとした。


「そうなのよ。私の結婚相手は見舞いに来られなくなってしまった。これでは私と結婚するために仲を深めることもできない」

「そう、よね……」

「だから、もう私が入院する必要はなくなったのよ。神様としても、だめだこりゃって思ったんでしょうね。私の足を動かなくする必要はなくなった。だからすんなり完治したってわけなのよ」


ターヤはその場でジャンプしてみせる。

足の挙動は申し分ない。

しっかり動くようだった。

それはそれで良いことではあるのだけれど。


「もしかして、わたしって……」

「うん」

「ターヤが結婚すべき運命の相手を全員、追放しちゃったってこと?」

「うん」

「わたし、もしかして、人の恋路を邪魔する嫌な奴?」

「うん」

「もしかして、ターヤの人生を狂わしてしまった?」

「うん、そうよ」

「うわぁああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」


わたしは床に土下座して泣いた。

病室の床が冷たい。

ターヤと幸せになりたかったのに!

ターヤの運命の相手はわたしじゃなかった!

それどころか!

ターヤの運命の相手を妨害していただなんて!

ああ、ああ!

後悔で心臓が押しつぶされそうだ!

人生をやり直したい!


「そんなに泣かなくても……」


土下座しているわたしの背中を、ターヤがさすってくれる。


「いや、だって、……ターヤの人生を台無しにしちゃったんだよ? 運命の人と引き離してしまったんだよ? これは泣くって」

「まぁ、それはそうなんだけどね。……私にもこの運命に対して思うところがあるのよ」

「運命に対して思うところ?」

「ええ」


そう言って、ターヤは引き出しからトランプを出した。

「ターヤ?」

「ゲームをしましょう。あなたが勝ったら、結婚してあげる」

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