第19話 わたしの恋路は王子様にも邪魔させない。

6回戦目

スコア0 – 1

残り4回


ターヤが使ったダイスとカップをアクラは丹念に確認する。

しかし、何か仕掛けがあるわけではない。

そもそも、このカジノあった道具だ。

わたしが何かを仕掛けることは不可能だ。


「次、行くわよ」

「……くっ」


わたしとアクラは合図で同時にダイスを置いた。

わたしの目は3。

アクラの目は5。


「振っていいわよ」

「うん」


わたしはターヤに合図を送る。

ターヤはテーブルの上からダイスを拾ってカップに入れる。

からからからと回転させてから、テーブルの上にカップを伏せて置いた。

そしてターヤはカップを開ける。

そこには3の目のダイスがあった。


「どうなってやがる?」


アクラはいらだちを隠そうともしない。

ただわたしを睨みつける。


7回戦目

スコア0 – 2

残り3回


わたしはアクラの威嚇を意に介さずにゲームを続ける。


「次行きましょ」


わたしの目は4。

アクラの目は1。

ターヤが振って出した目は4。


8回戦目

スコア0 – 3

残り2回


「ふぅっ」


ターヤは汗を拭いながら息を吐いた。

残り2回で3点差。

わたしの勝ちが確定した。


「おいっ! イカサマをしているだろ!」


アクラがわたしに詰めよってくる。

今にもわたしを殴ろうとする勢いだ。

怖いなぁ。


「そりゃそうよ。あなただってイカサマをしていたんだから、わたしだってしているわよ」


わたしは冷静に言い返した。


「イカサマしていると認めたな? だったらこんなゲームは無効だ。やる意味がない!」


アクラはまくしたてる。


「いいえ。そもそもあなたは勝負を勘違いしているわ」

「勘違いだと?」

「ええ。最初にあなたがイカサマをしていた時点で、これはダイスゲームではなくなっているの」

「ダイスゲームではない?」

「そうよ。ダイスゲームじゃなくて、イカサマを見破る勝負よ。わたしは4回戦目であなたのイカサマを見破った。そして5回戦目までノーゲームにした」

「…………」

「そしてディーラーをターヤに代えてから3回ダイスを振ったわね。もう1回振ってもらいましょう。このターンであなたがわたしのイカサマに気付いたら引き分けで良いわ」

「……え?」


もう終わったかと思って安堵していたターヤから驚きの声がする。

そう。

これは正当なギャンブルではない。

わたしとアクラのイカサマ勝負。

イカサマとしての対等な勝負でなくてはならない。

わたしは4回戦目でアクラが仕掛けたイカサマに気付いた。

アクラも4回でわたしが仕掛けたイカサマに気付いたなら、引き分けにすべきだ。

もちろん。

4回で気付けなかったら、わたしの勝ちだ。


「……なるほど」


アクラは納得してくれたようだ。


「というわけで、ターヤ。もう少し続けるわよ」

「もう、やめたいんだけど?」

「あと2回だから、お願い」

「……分かったわよ」


わたしとアクラは合図で同時にダイスを置いた。

わたしの目は4。

アクラの目は1。


アクラはわたしの目線をじっと観察している。

何か手掛かりが無いか必死で探しているのだろう。

しかし。

無駄。

ターヤはテーブルの上からダイスを拾ってカップに入れる。

からからからと回転させてから、テーブルの上にカップを伏せて置いた。

そしてターヤはカップを開ける。

そこには4の目のダイスがあった。


「……一体、どうなっている……?……」


アクラは顔を歪めながら、ダイスを見つめている。

わたしが仕掛けたイカサマに気付けないようだった。

9回戦目

スコア0 – 4

残り1回


「とどめを差してあげるわ」


わたしは手元のダイスを6にした。


「……振るの?」


ターヤがわたしに確認する。


「よろしく」

「……はいはい」


ターヤは呆れながらも、テーブルの上からダイスを拾ってカップに入れる。

からからからと回転させてから、テーブルの上にカップを伏せて置いた。

そしてターヤはカップを開ける。

そこには6の目のダイスがあった。

10回戦目

スコア0 – 5

残り0回


「わたしの勝ちね」


アクラに宣言した。

わたしは4回でアクラのイカサマに気付いた。

アクラは5回見ても、わたしのイカサマに気付けなかった。

もはや言い逃れもできない。


「く、くそう!」


アクラはテーブルを叩いて悔しがった。


「それじゃ、もうターヤには近付かないでね」


わたしはターヤの車椅子を押して、カジノを後にした。






ターヤを病院まで送る帰り道。


「あなた、本当に王子に勝っちゃったのね」


ターヤがわたしに押されながら話しかけてくる。


「ターヤのおかげよ。ありがと」


ターヤがヘアピンをしていたから、ダイスの磁石に気付けた。

そして、わたしがダイスの目を当てたのは、ターヤの努力の賜物だ。


「まぁ、それはそうだろうね」

「ちゃんと5連続で当ててくれるとは思わなかったわよ。1回くらい外してもよかったのに」

「わたしもびっくりしたわよ。あれで、ちゃんと目が揃うものなのね」

「ターヤが一生懸命練習してくれたおかげよ」

「本当に、大変だったんだから」

「うん。そうだね。えらい、えらい」


わたしはターヤの頭を撫でる。

今回勝てたのは、本当にターヤのおかげなのだ。


ターヤに何をしてもらったかというと……

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