第18話 延長戦はディーラーを代えて。
「このゲームの仕掛けはこういうことね」
1.お姉さんがテーブルの上の磁石のある地点にダイスを置く。
2.ダイスの中の磁石が動いて、ダイスの目が固定になる。
3.お姉さんのダイスを見て、アクラが出る目を選ぶ。
4.お姉さんがダイスを振る。
5.ダイスは磁石に引き寄せられて固定された目を出す。
6.お姉さんがダイスを置き直す。
7.ダイスの中の磁石が動いて、固定されるダイスの目が変わる。
8.アクラが新しい目を選ぶ。
これでアクラはダイスの目を当て続けたのである。
「なるほど!」
ターヤは目を輝かせていた。
なかなか派手な仕掛けだ。
ただわたしは人生二周目。
前世で可変式ダイスを使ったことがあったのだ。
今まで忘れていたが、ターヤのヘアピンを見て思い出したのだ。
「ありがとう、ターヤ」
わたしはターヤの前で手を合わせた。
「で、それがどうかしたのかい?」
アクラはわたしの説明を聞いて尚、強がろうとしていた。
「どうもこうも、あんたがイカサマをしていたことは分かったのよ。この時点であんたの負けよ」
わたしはアクラの顔面に指を突き付けた。
気持ち良い。
「そうかな? 私がイカサマをしたという証拠はあるのか?」
「何を言っているの? こんな丁寧に道具を揃えておいて、イカサマじゃないとでも言うの?」
「確かにテーブルに磁石は仕掛けてあった。ダイスも特殊なものだった。しかし私がイカサマをしたかどうかは分からない。この女が勝手にしたことかもしれないだろ?」
「は?」
アクラはお姉さんに責任転嫁していた。
お姉さんも驚いた顔をしている。
「わたしがこの女のダイスを見て選んだ証拠はない。なら、そのイカサマは成立しない。この女が私のダイスに合わせてイカサマをしただけだ。私に非はない」
「……そんな理屈が通用すると思っているの?」
無茶苦茶だな。
絶対に自分からイカサマをしていたくせに。
そもそもお姉さんはそちら側の人間だ。
もしお姉さんがアクラの指示ではなく、自分からやっていたとしても、お姉さんの失態はアクラが被るべきだろう。
「私がこいつのダイスに合わせていた証拠を出せるのかい?」
アクラはにやにやしながら訊いてきた。
これで即負けを回避できると思っているのだろう。
腹立つなぁ。
「確かに証拠はないわね」
「じゃあ、この場はお開きにしようか。ケチがついたし、後日改めようか」
アクラはテーブルから離れようとする。
「待って。続行よ」
わたしはストップをかけた。
こいつはここで仕留める。
「続行だって?」
「ええ。今は5回戦目よね。ここでわたしがストップをかけた。ここまでノーゲームにして残り5回戦しましょう」
「今までをノーゲームにして、残り5回戦を?」
「そうよ。それが妥当でしょ?」
アクラは少し考える仕草をしていた。
「私は構わないが、この女が勝手にイカサマをするかもしれないぞ?」
「ええ、だから残り5回のディーラーはターヤにしましょう」
「はっ?」
アクラは疑問の声を上げた。
ターヤは頭を抱えた。
「……あなた、本気で言っているの?」
「もちろんよ。ターヤがダイスを振ってね」
ターヤの確認にわたしは自信満々に答えた。
「…………仕方ないわね」
ターヤはテーブルに近寄った。
車椅子の高さを調節する。
「おいおい、本気でやる気かい?」
アクラがターヤにまさかと思い確認する。
「まぁね。ダイスを転がすだけなんだから、それくらいなんとでもなるわよ」
ターヤはちゃんとやる気になってくれていた。
アクラがここで引くことはできないだろう。
ターヤにここまでさせておいて引き下がるのはみっともない。
「仕方ないな」
アクラはテーブルに座り直した。
ターヤはお姉さんからダイスとカップを受け取る。
「練習して良い?」
ターヤがわたしに訊く。
「良いわよ」
わたしはOKを出す。
ターヤは頷くと、ダイスをカップの中に入れた。
そのカップの中でからからからとダイスを転がす。
そして、たんっと音を立ててカップを伏せる。
「はい」
掛け声とともに、カップを開ける。
そこには1の目のダイスがあった。
「大丈夫そう?」
「……ええ、」
わたしの心配に気丈に応えるターヤ。
手が震えていて、大丈夫に見えない。
まぁ、でも本人が大丈夫だと言うから信じよう。
「よし、やりましょう」
わたしはアクラに宣言した。
「本当にやるのか……」
アクラは乗り気のしない表情を浮かべていた。
しかし、わたしはゲームを開始する。
「さぁ、ダイスを選んで」
わたしはアクラを急かす。
アクラは渋々ダイスを手に取る。
わたしとアクラは合図で同時にダイスを置いた。
わたしの目は2。
アクラの目は1。
「行くわね」
ターヤは声を震わせながらも、テーブルの上からダイスを拾ってカップに入れる。
からからからと回転させてから、テーブルの上にカップを伏せて置いた。
「開けてちょうだい」
「うん」
ターヤはカップを開ける。
そこには2の目のダイスがあった。
「……何をした?」
ダイスの目を当てたわたしをアクラは疑ってかかる。
完全にわたしがイカサマをしたと思っているに違いない。
「さぁてね」
わたしはとぼけて見せた。
6回戦目
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