第17話 イカサマダイスの確率は100%

わたしはアクラの合図でダイスを置いた。

アクラも同時にダイスを置く。

わたしの目は3。

アクラの目は5。

お姉さんはテーブルの上からダイスを拾ってカップに入れる。

からからからと回転させてから、テーブルの上にカップを伏せて置いた。

そのままカップを数周動かしてから、お姉さんはカップを開けた。

そこには5の目のサイコロがあった。


4回戦目

スコア4 – 1

残り6回


「おやおや、大丈夫かい? そろそろ当てないと辛いんじゃないのかい?」


アクラが挑発してくる。


「ちょっと、休憩させてくれる? 10分だけで良いわ。飲み物を買ってきたいの」


わたしはアクラにお願いする。


「ああ、いいぜ。10分したら、戻ってきな」

「どうも」


わたしは、ターヤの車椅子を押してテーブルを離れる。


「大丈夫なの?」


ターヤが心配して、わたしに声をかける。


「う~ん。厳しいわね」


正直なところ、打開策が見つからなくて困っている。


「さすがのあなたも、相手に提案されたゲームだと、思うように行かないのね」

「そうなのよね……」


今まで相手の方からゲームのルールを設定されたことはない。

いつもこちらからゲームを設定していた。

こんなに想定通りに進まないゲームは初めてだ。

わたしはターヤを連れてカウンターに行った。

二人でオレンジジュースを頼んで飲む。

心なしかオレンジジュースがほんのり苦い。


「どうするの?」

「どうしよう?」

「わたしに聞かれても……」

「その可愛い頭から何か良いアイデアが出てこないかしら?」

「出てこないわよ……」


わたしはターヤの頭を撫でる。

さらさらの銀髪。

ターヤは嫌がることなくわたしに撫でられる。

すると、妙なことに気付いた。


「ターヤってヘアピンなんてしてたっけ?」


髪をまとめるときはゴムでまとめていたような?


「あなたにいくつかあげたから、新しいのを補充しようと思ったのよ。ゴムでも良かったけど気分を変えてヘアピンにしたの」


そういえば、ターヤとのボールバランスで勝負して髪ゴムをもらっていた。


「なるほど。そういうイメチェンも良いわね」

「あなたはヘアピンすることってある?」

「手品の小道具で使うことはあるわよ。小物を挟んだり、磁石でくっつけたり」

「発想が専門的過ぎるのよ……」

「……ん?」


わたしは自分で言った言葉に引っ掛かった。

……磁石?


「どうしたの?」

「……ねぇ、ターヤ」

「何か思いついたの!?」

「このヘアピンを貸してもらえる?」

「……ここで負けるから、思い出にわたしのものを取っていくつもり?」

「そんな複雑な発想はしてないわよ。このヘアピンがあれば、あいつのイカサマが暴けるかも」

「……ヘアピンで?」


わたしとターヤはダイスのテーブルに戻った。

10分以内。


「良い作戦はできたかな?」


アクラは嫌味たっぷりな言い方で訊いてくる。


「ええ。続けましょう」


4回戦目

スコア4 – 1

残り6回


次は5回戦目。


「では再開しよう。ダイスを置いてくれ」

わたしはアクラの合図でダイスを置いた。

アクラも同時にダイスを置く。

わたしの目は2。

アクラの目は6。


「やっぱりそうか」

「どうかしたのか?」


わたしは気付いた。

わたしが見ていたのはお姉さんが今から振るダイス。

テーブルの上に置いてあるダイス。

そのダイスは6の目を示している。


「良いわ。続けて」

「そうか。やってくれ」


アクラの指示にお姉さんは頷いた。

お姉さんはテーブルの上からダイスを拾ってカップに入れる。

その隙に、わたしはテーブルにヘアピンを滑らせた。


「え?」

「な!?」


ターヤとアクラの驚きの声がする。

ヘアピンはさっきお姉さんが拾ったダイスの位置を通過する。

と思いきや、急ブレーキをかけて止まった。

まるで磁石で吸い寄せられたかのように止まった。


「あんたのイカサマは見抜いたわよ」


わたしはアクラの顔に指を突き付けた。

アクラの顔色が青ざめていく。


「どういうこと?」


ターヤがわたしに説明を求める。


「このテーブルのあの位置に、磁石が仕掛けてあるのよ」


わたしはテーブルのヘアピンを拾った。


「磁石?」

「ええ。そして、このダイスにも磁石が仕掛けてあるわ。ほら、その磁石貸して」


わたしはお姉さんにダイスを渡すように催促する。

お姉さんは困った表情を見せた。

しかし、アクラが渋々頷くと、お姉さんはわたしにダイスを渡してくれた。

わたしはそのダイスを転がす。

ダイスは転がって、さっきの磁石の地点で止まる。

ダイスの目は6だった。


「え? どういうこと?」


ターヤはわたしに訊く。


「このダイスの中にはね、可変式の磁石が埋め込まれているの。このダイスの今の状態なら、必ず6の目を上にして磁石の上で静止するわ」


わたしはダイスを拾ってもう一度転がして見せた。

やっぱり磁石は6の目で止まる。


「このダイスだと磁石の上で転がしたら毎回6の目になるってこと?」

「いいえ。この中にある磁石は可変式なの。磁石で引き寄せられるようになっているわ」


わたしはダイスを拾って、磁石の上に置きなおす。

今度は1の目を上にする。

そうして10秒待ってから、ダイスを振る。

ダイスは1の目を上にして止まった。


「え!? すごい!」


ターヤは目を丸くして驚いていた。


「つまり、アクラたちはこのテーブルに隠された磁石の地点とダイスを利用してイカサマをしていたの。まずお姉さんがダイスをテーブルの上に置く。その間にダイスの中の磁石が動いて、出る目が決定するわ。そしてアクラはそのダイスの目を選択する。あたかも自分が選んだ目であるかのようにしていたけれど、実際はお姉さんのダイスを見ていただけなのよ」

「………………」


アクラは苦虫を噛みつぶしたような顔で、わたしの話を聞いていた。


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