第16話 3回連続でダイスの目を当てる確率は216分の1

「それじゃあ、1回目だ。ダイスの目を考えてくれ」


アクラがわたしに言った。


「了解」


とはいうものの最初に何の目を選べば良いかは予想もつかない。

適当に6分の1を当てるしかないか?

そのとき、ディーラーのお姉さんがわたしとアクラにダイスを渡してきた。


「せーので、自分の選んだ目を上にしてダイスを置いてくれ」

「目印ってことね。分かったわ」


わたしは考えていた。

ダイスの目は何でも良い。

問題はアクラのプレイングである。

ただの運試しに見えるゲーム。

しかし、アクラは本当にそんなものを挑んできているのだろうか?

わたしという恋敵を退けるため。

もしくはターヤにかっこ良いところを見せるため。

他にも思惑はあるかもしれないが、こんなただの運ゲーを持ちかけてくるのは怪しい。

どこかにアクラが確実に勝つ手段が用意されているに違いない。


「決まったかな?」

「ええ」

「それじゃあ、ダイスを置いてくれ。せーの」


わたしはアクラの合図でダイスを置いた。

アクラも同時にダイスを置く。

わたしの目は1。

アクラの目は6。


「なるほど」


正反対の目だった。

だからどうということはないんだけど、なんとなく、なるほどと言ってしまった。


「じゃあ、振ってくれ」


アクラはお姉さんに指示した。

お姉さんはテーブルの上からダイスを拾ってカップに入れる。

からからからと回転させてから、テーブルの上にカップを伏せて置いた。

そのままカップを数周動かしてから、お姉さんはカップから一旦手を放した。


「そのダイスが出た目で良いのね?」

「ああ、開けてくれ」


アクラの指示を受けてお姉さんはカップを開ける。

そこには6の目を上に向けたダイスがあった。


「ふぅん」

「俺の勝ちだな」

「そうみたいね」


1回戦目

スコア1 – 0

残り9回


「もっと驚くかと思ったんだが?」


アクラは勝ったのに不服そうだった。


「別に大したことじゃないでしょ」


わたしは平然とした顔で言い返した。

しかし内心はかなり焦っていた。

当てる確率は6分の1。

偶然当たることもままある事象。

でもこれは偶然とは思えない。

恐らくアクラは確実に当てる方法を使ってきている。


「さて、次に行こうか」

「そうね」


本当はもっと考える時間が欲しい。

でも論理をスタートさせる材料が足りない。

ダイスを選ぶアクラの動きに怪しい部分はないか。

ダイスを転がすお姉さんの動きに怪しい部分はないか。

しっかり観ないといけない。


「ダイスの目は決まったかな?」

「ええ。いいわよ」

「じゃあ、ダイスを置いてくれ。せーの」



わたしはアクラの合図でダイスを置いた。

アクラも同時にダイスを置く。

わたしの目は1。

アクラの目は1。


「あら、同じね」


久し振りにターヤが口を開いた。

緊迫した空気が辛かったのかもしれない。

可愛い声がわたしの耳に届く。


「2連続で1を選ぶのか」

「そういうこともあるでしょ」

「まぁな。じゃあ、振ってくれ」


お姉さんはアクラの合図にこくんと頷いた。

お姉さんはテーブルの上からダイスを拾ってカップに入れる。

からからからと回転させてから、テーブルの上にカップを伏せて置いた。

そのままカップを数周動かしてから、お姉さんはカップを開けた。

そこには1の目のサイコロがあった。


「なるほど」

「何か分かったのかい?」

「いや、なんでもないわ」


2回戦目

スコア2 – 1

残り8回


「どうだい? 2連続で当てたよ」


アクラはターヤに話しかけた。


「ええ、すごいわね」


ターヤは感情のこもっていない言葉を並べた。

おそらくターヤも感動より疑問が頭にいっぱいなのだろう。

普段からわたしの手品を見慣れているターヤだ。

直感に反することが起こったら、不自然な行動をしているに違いないと勘ぐっている。

アクラはそんなターヤを見て、不思議そうな顔をしていた。

もっと良いリアクションを期待していたのだろう。


「まぁ、次に行こうか」

「そうね。すぐ行きましょう」

「決まったっているのか?」

「ええ、大丈夫よ」

「それじゃあ、ダイスを置いてくれ。せーの」


わたしはアクラの合図でダイスを置いた。

アクラも同時にダイスを置く。

わたしの目は2。

アクラの目は4。


「変えてきたか」

「そうね」

「じゃあ、振ってくれ」


お姉さんはアクラの合図にこくんと頷いた。

お姉さんはテーブルの上からダイスを拾ってカップに入れようとした。


「ちょっと待って!」


わたしはお姉さんにストップをかけた。


「どうした?」


アクラがわたしに訊く。


「ダイスを変えてくれる?」

「おや、イカサマを疑っているのかい?」

「当たり前じゃないの。これはそういう勝負でしょ?」


アクラは、ふふっと鼻で笑った。


「いいだろう、変えてくれ」


お姉さんはこくんっと頷いた。

テーブルの引き出しから新しいダイスを取り出す。

そして、テーブルの上にダイスを置いた。

4の目が上になっている。


「触って確認して良いかしら?」

「どうぞ」


アクラに許可を取ってダイスを手に取る。

さっきと見かけは変わっていない。

普通のダイス。

1から6の目がちゃんと揃っている。

変に歪んでいたり欠けていることもない。


「問題無いわね」


わたしはその場でダイスを転がした。

2の目が出る。


「問題無いならゲームを続けて良いか?」

「ええ」


お姉さんはテーブルのダイスを拾う。

そして今までと同じようにカップに入れる。

からからからと回転させてから、テーブルの上にカップを伏せて置いた。

そのままカップを数周動かしてから、お姉さんはカップを開けた。

そこには4の目のサイコロがあった。


「また当たったね」

「そうね」


アクラのコメントにわたしは適当な相槌を返した。


3回戦目

スコア3 – 1

残り7回

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