第15話 ダイスの確率はそれぞれ6分の1。

「なんだか、怪しい建物ね。子供がこんなところに来て良いのかしら?」

「普通は良くないんだろうなぁ」


ターヤとわたしはカジノに来ていた。

昨日、アクラに言われてカジノに来ることになった。

アクラが普段から利用しているカジノらしい。


「あなたが呼ばれるのは分かるんだけど、なんで私までカジノに呼ばれたのかしら?」

「大方、ターヤの前でかっこいいところを見せたいんじゃない? わたしをギャンブルに誘ってこてんぱんにするつもりなんでしょ」

「……アクラって、そんなに性格悪いかしら?」


そんなことを話ながら、カジノに入る。

わたしはターヤの車椅子を押す。

ターヤは脚が動かないから車椅子で病院から出てきた。

ターヤの病状では、普通なら外出許可など下りないと思う。

しかし、そこは王子様特権。

アクラから誘われたことを話すとすんなり外出して良いことになった。


「病院に圧力をかけてターヤを外出させるくらいには性格悪いわよ?」

「そういえば、あなた院長の令嬢だったわね。その辺の事情も詳しいはずだわ」

「ターヤってわたしのプロフィールに興味ないの?」


まぁ、わたしの顔と名前と良い女っぷりを知っているなら充分なんだけどさ。

そんな会話はともかく、わたしたちは産まれて初めてカジノという場所に入った。

豪華な装飾の部屋。

照明や床や壁から高級感が漂う。

そして広いホールに所狭しとギャンブルの用意がなされている。

カード、ルーレット、ダイス、スロットマシン、ダーツ、チェス、などなど。


「けっこう人がいるのね」

「そうね。このフロアに50人くらいかしら」


カジノには、わたしたち以外にも当然、客はいた。

その誰もが、気品があるというか、金持ちのオーラが出ていた。

さすが王子様御用達のカジノである。


「いらっしゃいませ」


わたしたちはカジノの店員に話しかけられた。

店員はバニーガールの服装をした女性だった。

ウサギの耳の形のヘアバンド。

ウサギの尻尾飾り。

肩出しレオタード。


「バニーガールって本当にいるんだ……」


ターヤが驚いていた。

わたしもびっくりしたけど、驚いたと同時に「これもアクラの趣味なのかな?」なんて考えてしまったから、やるせなかった。


「アクラ様がお待ちです。こちらにどうぞ」


わたしたちはバニーガールに案内されるまま席につく。

そこはダイスの席だった。

緑色のマットのテーブル。

そしてディーラーの人もバニーガールのお姉さん。

その横にはアクラも座っていた。

ワイングラスで酒を飲んでいた。


「やぁ、来てくれてありがとう」


アクラはわたし達二人に挨拶をした。


「どうも」

「こんにちは」


わたしもターヤも適当な挨拶を返した。


「こんな良い場所に来たのは初めてだろう? どうか楽しんでいってくれ」


アクラに言われたが、そうはいかない。

こちらは庶民なのである。


「そんな金はないわよ」


さっきからテーブルの横に置いてある料金表が気にはなっていた。

最小ベット額でもとんでもない金額なのだ。

庶民の学生がおいそれと出せる額ではない。


「あなた、院長の令嬢だからお金持っていそうなのに?」


ターヤがわたしに訊く。


「そのレベルで出せる金額じゃないわよ」


父親に頼めば一回分くらいは出してくれそうだが、小遣い程度では無理。


「そうだね。今日私達が賭けるものは金じゃないからね」


アクラが私に睨みを利かせる。

そう、わたしはアクラからターヤを守るべく、このカジノに来たのである。

わたしが勝ったらアクラはターヤのお見舞いに行くのを禁止。

アクラが勝ったらわたしがターヤのお見舞いに行くのを禁止。

昨日、取り決めた。



「で、どんなゲームをするの?」

「昨日、ダイスで遊んだからね。引き続きダイスで遊ぼう。ダイスの出目を当ててくれ」


~~~~~~~~~~


ダイス当て


ディーラーは1つのダイスを計10回振る。

各プレイヤーはダイスが振られる前に1~6までの数を選択する。

ダイスの出目を多く当てられた方の勝ち。


~~~~~~~~~~


「なるほどね」


わたしは納得した。

分かりやすいゲームだった。

しかし、わたしがゲームを提案されるのは初めてだ。

いままでわたしが提案してばっかりだった。


「早速やろうか」


アクラは先を急かす。


「ゲームを始める前に、練習させてくれない?」

「練習?」

「ええ。このディーラーのお姉さんがどんな風にダイスを振るかを見たいわ」

「ああ、そのくらいなら良いだろう」


アクラはディーラーのお姉さんに目で合図をした。

ディーラーのお姉さんは、ダイスを1つ手に取った。

わたしの目の前でくるくる回して見せる。

イカサマダイスでないことの確認。

1~6まで揃った立方体のダイス。


「ダイスはこちらでよろしいでしょうか?」


お姉さんがわたしに確認する。


「OKです。それでお願いします」


お姉さんは頷くと、ダイスをカップの中に入れた。

中が見えない黒いカップ。

そのカップの中でからからからとダイスを転がす。

そして、たんっと音を立ててカップを伏せる。

テーブルの上でかき混ぜるようにカップを揺らす。


「こちらになります」


お姉さんは宣言すると同時にカップを開けた。

サイコロの出目は1だった。


「なるほどね」


お姉さんの動きに不自然な点はなかった。

しかし、それだと困る。

わたしはイカサマを駆使して勝ちたいのだ。

相手につけ入る隙が無い運の勝負は苦しいのである。

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