第13話 サイコロを振ったら王子様が来た。

その日、わたしはいつものようにターヤのお見舞いに来ていた。

わたしはテーブルの上でからからからとサイコロを転がす。


「はい、わたしは6ね」

「あなた、運が良くない?」


ターヤはわたしのサイコロの出目を疑う。


「まだイカサマはしていないわよ」

「まだ?」

「あっ……」


口がすべっちゃった。

負けそうになったらイカサマをしようと思っていたことが漏れてしまった。

わたしとターヤはすごろくをしていた。

サイコロを振って出目の数だけ進む単純なすごろく。


「それにしても、こう、すべて運任せのゲームは面白くないわね」


ターヤは退屈そうにサイコロを転がす。

出目は4。

悪くない。


「そうね。ゲームにおける運要素って大切よね」

「ジャンケンとか?」

「ジャンケンは運でしかないわね。麻雀とかのことよ」

「私、麻雀は分からないわよ」

「じゃあ、トランプでも良いわ。手持ちのカードで有利か不利かが変わるじゃない?」


ポーカーでも大富豪でも最初に配られた手札によってとれる戦術が変わってくる。


「そうね」

「ゲームにおける運要素って大切だとは思うけど、それが全てだと良くないわ。ターヤは面白いゲームの条件にはどういう要素が必要だと思う?」

「面白いゲームの条件?」

「ええ。わたしは面白いゲームの条件として努力が報われることが必要だと思うの」

「難しいことを言うわね」


ターヤが顔をしかめる。


「そんなに難しくないわよ。頑張ったら頑張った分だけご褒美が欲しいってことなの。長時間プレイしたらレアアイテムが欲しいし、いっぱい練習したらそれだけ強い敵に勝てるようになっている。それが面白いゲームの条件なのよ」

「ふぅん」


ターヤは納得したような、興味無さそうな複雑な顔をしていた。

そんな顔でも可愛いのがターヤという美少女である。


「だからわたしはすごろくも面白いゲームにするために、サイコロの出目を自在に操れるようにいっぱい練習したわ」

「努力の方向を間違えていない?」


そんなことを話していると、唐突に来客があった。


「やぁ、ターヤ。具合はどうだい?」


ノックもなしに入ってきた男。

細身だけえどくっきりとした顔立ち。

映画の俳優のようなイケメン。

どこかで見たことあるような?


「アクラ? 急に来てどうしたの?」


ターヤが男の名前を呼ぶ。


「アクラだって?」


その名前には聞き覚えがあった。

なんならその顔も何回か見たことがある。


「君が入院したと聞いて心配になって来てみたんだよ。顔色は良さそうだね」


アクラはターヤに近付いてきてターヤの手を握る。

おい、わたしのターヤに振れるなと啖呵を切りたかったのだけれど、そういうわけにはいかない。


「ターヤって王子様と知り合いだったの?」


そう。

アクラはこの国の王子様なのである。

まごうことなき王家の血筋。

われわれ庶民とは産まれからして格が違う。

ターヤも人智を超えた可愛さではあるのだけれど、そういうのとは別種の違い。

社会的制約による違いがそこにある。


「知り合いではあるわね。知り合って一ヶ月くらいかしら」


思ったより日の浅い関係だった。

しかし、その点でマウントを取ろうとしても無理だ。

わたしもターヤと出会って2週間しか経っていない。


「そうだね。学校行事で王宮の見学に来ていた君に声をかけたんだ」

「王子様の方から声を?」

「ああ、私と結婚して王妃にならないかと伝えたんだ」


アクラはさも自然なことかのように言った。


「そのとき初対面だよね?」

「ああ。でも一目見て気に入った。この娘は良き伴侶になると、出会って5秒で理解した」

「何言ってんだ、こいつ?」


王子の顔はニュースで見たことがある。

しかし実際に近くでしゃべってみるのは初めてだ。

それがこんなにいかれた人間だとは思わなかった。

想像以上にあつかましい。


「あなたも似たようなものじゃない」


ターヤから痛烈な突っ込みが入る。

そういえばそうだっけ。

わたしが初めてターヤを見たときも第一声で結婚を申し込んだ気がする。

となると、これは求婚する側の問題ではないかもしれない。


「ターヤが可愛いのが悪いんじゃない?」

「なんでそうなるのよ!?」


ターヤの驚いた声が聞こえる。

しかし今度の恋敵は王子様だ。

今までナハトやハツカを追放してきたわたしである。

当然、この王子様アクラもターヤに近付かないようにしたい。

しかし、これは難敵だ。

下手をしたらわたしの社会的立場が危うくなる。


「そういえば、君はターヤの友達かい?」


アクラからわたしに質問された。


「わたしの名前はサリネ。ターヤの将来の旦那です」


わたしは堂々と言い張った。


「私はそんな約束していないわよ!?」


ターヤの突っ込みが入る。


「おや、それならわたし達は恋敵というわけだ」


アクラはわたしに乗っかって話を進める。


「あんたまで前提をはき違えたまま会話を流すな!!」


ターヤがヒートアップしているが、気にしている余裕はない。

なんとかして、王子様を追放しなければいけない。

わたしの恋路を邪魔されるわけにはいかないのだ。

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