第6話 石拾いゲームには必勝方法があるらしいです。
わたしはナハトの部屋に来て石拾いゲームを挑んだ。
「えっと?」
ナハトは困り果てた顔をしていた。
そりゃそうだ。
さっき一瞬だけ見た女が自分の部屋に入ってきて、石拾いを挑んで来たら戸惑うのも無理はない。
ていうか迷惑だ。
迷惑なのは分かっているが、こちらとしては気にしていられない。
わたしは持ってきた囲碁セットをテーブルの上に置いた。
「ターヤの部屋に囲碁を置き忘れていたから、持ってきたの」
「あっ、どうも」
ナハトはお礼を言った。
わたしが届け物をしに来た人と分かって多少安心したらしい。
「というわけで、わたしと勝負して!」
「なんでそうなる!?」
一瞬安心させたけど、すぐに混乱させる。
「あなたとターヤが遊んでいたのが羨ましいから、わたしもターヤと囲碁を打とうとしたの。でもターヤが意地悪なことを言い出してね。あなたに勝たないとわたしと遊んでくれないのよ」
「……はぁ?」
ナハトは面倒くさそうな顔をしていた。
それはそうだろう。
わたしがナハトの立場だったら、迷惑でしかない。
しかし恋のためには乗り越えなければならない。
「というわけでわたしと勝負して。わたしが勝ってあなたに一筆もらうわよ」
「なるほど……ターヤの友達ってことね」
ナハトは一応納得してくれたらしい。
よし、これで話は進みそうだ。
「というわけで、勝負してくれる?」
「嫌だよ」
即答で断られた。
「なんで!?」
大げさに驚いてみたが、普通嫌だろうな。
「僕にメリットないし」
それはそう。
こんな一方的な話に乗る人はいない。
「なら、メリットを作りましょう。負けた方は今後ターヤに近付かないということで、どうかしら?」
「それ、僕のメリットじゃないよね? 君がターヤに近付かなくてもどうでも良いのだけど?」
「恋敵が減るわよ」
「恋敵?」
「あなた、ターヤのことが好きなんでしょ?」
「…………」
あっ、黙った。
適当に鎌をかけただけだったのに。
いや、鎌でもないか。
ターヤは極上の美人だもの。
あの娘を直接見たら、恋をしないわけがない。
わたしは相手の弱点を見つけて有利に交渉を進める。
「勝負をしないと、わたしがあなたの悪評をターヤに吹き込むわよ」
「もはや脅しだよね……」
恋心を弄ぶことはナイフをちらつかせるくらい危険な脅迫である。
その後もあーだこーだ言い合って結局、勝負をすることを何とか承諾させた。
「というわけで勝負の種目は石拾いゲームよ」
「囲碁じゃないのね……」
「だって囲碁だと勝てそうにないし」
「そこはフェアなんだ……」
賭けをするならフェアかどうかは重要だ。
フェアっぽい勝負にしないと自分も相手も納得しない。
「石拾いゲームのルールを説明するわね」
~~~~~~~~~~
石拾いゲームのルール
1.碁石のうち黒の石を全て使う。
2.プレイヤーは交互に1~4個の石を拾う。
3.石が拾えなくなったら負け。
~~~~~~~~~~
「これだけかい?」
ナハトは拍子抜けしたように言った。
思ったより単純なゲームで驚いたのだろう。
「基本はこれだけよ。あっ、一手は10秒以内にしておきましょう」
無限に考えられても困る。
そしてわたしはこのゲームはこの10秒が一番大事だと思っている。
「10秒以内に手番が終わらなかったら、その時点で負けか?」
「ええ。そのつもりよ。ちょっと厳しいかしら?」
「いや、問題ない。それはOKだ。先手と後手はどうやって決めるんだい?」
「わたしがルールを決めたから、手番はあなたが好きな方を決めて良いわよ」
「……良いのか?」
「ええ、そのくらいしないとフェアじゃないでしょ」
交渉するならそれくらい譲歩する気構えは大切だ。
気構えは。
「君、囲碁のルールは知っているのかい?」
「いや、知らないわ。このゲームは囲碁は関係ないわよ?」
わたしは嘘をついた。
わたしが何も知らずにこの勝負を挑んでいると思わせたい。
「囲碁のルールは関係ないけど、石は関係あるだろ? この中に黒石が何個入っているか知っている?」
「ああ、そうね。それは大事ね。ゲーム前に石の数を確認する?」
本当は知っている。
知っているけれどとぼけて見せた。
「いや、大丈夫だ。確認はいらない。さっきまで僕が使っていたものに違いない」
「OK。やりましょうか」
わたしは黒石の用意をした。
ナハトとの間に碁石のケースを置く。
碁笥(ごけ)と呼ばれる専用の石ケース。
片手で持てるくらいの大きさの筒。
大きいみかんみたいな形状で中身は開けないと見えない木製。
「始めようか」
ナハトはケースの蓋を開ける。
中には黒石がぎっしり詰まっている。
「先手後手はどっちにする?」
「先手で」
ナハトは先手を選んだ。
そうなると思っていたよ。
「了解。じゃあ、わたしが後手ね」
「ああ。そして僕の勝ちは決まっている」
唐突に宣言された。
「そうなの?」
「ああ。君は黒石の総数を知らないようだしね」
「いくつなの?」
「181個だ。そしてこの条件なら僕が負けることはない」
ナハトは既に勝ち誇った顔をしていた。
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