第4話 マジシャンはそう簡単にトリックを教えない
「私がカードを必ずジョーカーを引く仕掛け?」
ターヤが鋭い眼光でわたしを見つめる。
そんなにわたしのことを意識しちゃって。
恋かしら?
「ええ。気付いていないかしら?」
「もう一戦やらせて」
「良いわよ」
わたしはトランプを集めて整える。
黒の山札と赤の山札の二つの山札をつくる。
黒の山札は1 ~ 7 + ジョーカーで8枚。
赤の山札は1 ~ 7の7枚。
「どっちの山札にする?」
わたしはターヤに訊く。
わたしがカードを配る係。
山札の選択権はターヤにある。
ターヤはこれまでの勝負で赤を選んだり黒を選んだりまちまちだ。
本人の気分なんだろう。
「赤で」
ターヤは赤の手札を選んだ。
わたしはターヤに7枚の山札を渡す。
ということでわたしは自動的に黒の山札になる。
わたしは手札を扇形に広げて、ターヤの前に差し出す。
「はい、選んで」
わたしの手札には8枚のカード。
1 ~ 7 + ジョーカーで8枚。
「むむむ……」
ターヤはわたしの手札をじっとにらんでジョーカーを見破ろうとする。
可愛い顔。
裏面に細工がしてあることはバレてしまった。
でもどんな細工かまでは看破されていない。
ターヤは頑張って細工を発見しようとしているが、そう簡単に発見されるわけにはいかない。
「ほらほら。時間かけ過ぎだよ」
さくさく進行したい。
あんまり時間をかけてトリックがバレると面白くないからね。
「仕方ないわね」
ターヤはわたしの手札から3のカードを引く。
黒の3。
ターヤの手札の赤の3と合わせて場に捨てる。
ターヤは無表情だった。
Joじゃなかったことに安堵した様子もない。
ただ真剣にわたしのトリックを暴こうとしている。
真剣に悩んでいる。
写真を撮りたいくらい良い表情。
こんなに良い表情を間近で見られるのだから、やっぱりババ抜きは良い。
「はい。じゃあわたしはこれね」
わたしはノータイムでターヤの手札からカードを引く。
赤の7。
7のカードがそろったので場に捨てる。
残りは1、2、4、5、6、Jo。
ターヤが5枚でわたしが6枚。
「行くわよ」
ターヤがわたしの手札をじっと見る。
近い、近い。
ああ、良い表情がこんなに近くに来てる。
キスして良いかしら?
これはもう誘っているといっても過言ではないわよね。
「あなた、なんで目を閉じているの?」
「え、いや、……そういう雰囲気かなって」
「そんな雰囲気?」
「……なんでもないです…………」
場違いだったらしい。
わたしがそんなことを考えながらターヤの顔を眺めていると、ターヤはカードを選んだ。
黒の2。
ターヤの手札の赤の2と合わせて場に捨てる。
ターヤの残りは1、4、5、6。
ターヤが4枚でわたしが5枚。
「はい。わたしはこれにするわ」
わたしはやっぱりノータイムでターヤの手札からカードを引く。
赤の6。
黒のと合わせて場に捨てる。
残りターヤが3枚でわたしが4枚。
「取るわよ」
ターヤは裏面の細工を見破るのを諦めたようだ。
すぐにわたしの手札からカードを引く。
ジョーカーだった。
「あらあら」
「……やってくれるわね」
これでターヤのカードは1、4、5、Jo。
わたしは1、4、5。
残りターヤが4枚でわたしが3枚。
「これで勝負ありかしら?」
「……そうみたいね」
わたしはターヤの手札からカードを引く。
赤の4。
黒の4と合わせて場に捨てる。
わたしの残りは1、5。
ターヤはわたしの手札から5のカードを引く。
黒の5。
赤の5と合わせて場に捨てる。
ターヤの残りは1、Jo。
わたしは何の苦もなくターヤの手札から赤1を引く。
黒の1と合わせて場に捨てる。
わたしの残りはなし。
ターヤの手札はジョーカーのみ。
「わたしの勝ちだね」
「いや、負けて悔しいなんて感情は一切ないわよ。一体どうやったのよ?」
「ひ、み、つ ♡」
わたしは精一杯可愛い声を作って言った。
マジシャンはそう簡単にトリックを教えない。
マジシャンとしてのプライドがあるのだ。
「教えて!!」
「え?」
「教えなさい!!」
ターヤはわたしに顔を寄せた。
思った以上に積極的。
キスしそうなくらい近い距離。
やだ、可愛い。
「解説します……」
わたしはマジシャンとしてのプライドをあっさり捨てた。
そして左手の袖から隠し持っていたカードをこぼす。
「これは?」
「ジョーカーのカードよ。7枚あるわ」
「ジョーカーが7枚も?」
「ターヤがわたしの手札からカードを引くとき、ジョーカーだらけの手札から引いていたの」
「……気付かなかったわ…………」
相手に気付かせないようにすり替えるのがマジシャンの腕である。
ターヤにジョーカーを引かせたいタイミングでジョーカーだらけの手札と入れ替える。
原理は簡単だけど相手にバレないようにするテクニックは必要だ。
「楽しんでもらえたかしら?」
「ええ。あなたはやっぱり、ただの色ボケじゃないのね」
「色ボケって言わないで……」
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