第3話 ババ抜きをしましょう。あなたの顔をじっくり見たいから。
わたしは毎日、ターヤのお見舞いに来ていた。
「あなた、そんなに暇なの?」
来て早々、ターヤに辛辣な質問をされる。
しかしわたしはめげない。
「暇ではないわ。学校には行っているし、家に帰ってからも勉強しないといけない。でもターヤとの時間は優先順位が遥かに高いのよ」
「まぁ、私は暇が潰せるからいいけどさ」
ターヤは嬉しそうな、嬉しいことが悔しそうな顔をしていた。可愛い。
「今日はトランプでもしない?」
わたしはターヤと遊べるものは何かと考え、いろいろ見繕って持ってきていた。
「いいわよ。トランプで何をするの?」
「ババ抜きはどう?」
「2人でババ抜き?」
普通は4~5人で遊ぶゲームではある。
「ババ抜きは良いわよ。対戦相手の顔をじっくり見られるから」
「あなた、私の顔を凝視したいからババ抜きに誘っているの?」
図星であった。
「いいじゃない。やりましょうよ」
「まぁ、いいけどさ」
ターヤは渋々だったけれど、わたしはめでたくババ抜きをすることになった。
ターヤはなんだかんだ言っても、入院生活が退屈なのだ。
こうして一緒に遊んでくれる人ができて嬉しいのだ。
「ターヤはトランプ好き?」
「トランプに対して、好きとか嫌いとかないのよ。子供の頃、遊んだなってくらいのものよ」
大概の人はそんなものか。トランプに対して深い思い入れがある人の方が珍しい。
「遊んだことはあるのね?」
「まぁね。子供の遊びの定番ではあるし」
トランプがわたしの前世と同じくらいメジャーな遊びとして定着しているのはありがたかった。
ショップにちゃんと売っていたし、遊ぶときに複雑な説明もいらない。
「わたしは商売道具だったからね。毎日触っていたわよ」
「そういえばマジシャンだったわね」
「手品に使う道具は、ボールとかコインとかいろいろあるわ。その中でもわたしはトランプが好きなの」
「そうなんだ?」
「ええ。一番手になじむのよ。色んな技を覚えて、今でも使えるわ」
「そうなのね。また見せてちょうだい」
「もちろん」
今日はその技を見せるためにババ抜きに誘ったのだから。
三十分後。
「…………」
「はい、またわたしの勝ちだね。やったね!」
わたしが5連勝していた。
「…………」
「もっとやろうよ」
わたしはターヤを次のゲームに誘ったが、ターヤはわたしを怪しんでいた。
「…………」
「どうしたの?」
「あなた、イカサマしているでしょ?」
核心を突かれた。
つぶらな瞳で睨まれる。
あっ、だめ! 可愛い! そんな目で見つめられたらきゅんきゅんしちゃう!!
「てへへ、……バレた?」
「5連勝はさすがにおかしいでしょ? ババ抜きって運ゲーよ?」
二人ババ抜きは勝率5割の運ゲー。
何らかの実力が試されるものではない。
目線とか手の動きとかもあるけどね。
普通はそんなことは考えない。
「でも、どんなイカサマをしているかは分からないでしょ?」
「ええ、まったく分からないわ。あなた、一体何をしたのよ?」
~~~~~~~~~~
ババ抜きのルール
1.用意するカードは黒1 ~ 7 + ジョーカーの山札 と赤1 ~ 7の山札。
2.ターヤが黒の山札(8枚)か赤の山札(7枚)を選ぶ。
3.赤の手札を持ったプレイヤーが相手の手札から、裏面のまま一枚選んで引く。
自分の手札に同じ数のカードがあった場合、場に捨てる。
4.交互に一枚ずつカードを引いて、場に捨てるか手札に加えるかを繰り返す。
5.最初に手札がなくなったプレイヤーが勝利。
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「わたしがどうやって勝っているか分かるかしら?」
ターヤはカードを自分の膝に並べてじっくり観察する。
カードの裏面はトランプによくある柄。上下がひっくり返っても分からないまだら模様。
「これ、もしかして、ジョーカーは裏面からでも分かるようになっているのかしら?」
「おっ! 分かる?」
イカサマがバレた罪悪感なんてない。
ターヤがわたしのために頭を悩ましているのが嬉しい。
「いえ。じっくり見ても分からないわ。他と違う印があるわけでもなさそうだし……」
「そうね。慣れていないと見分けられないような違いよ」
今回わたしが持ってきたのはイカサマ用のトランプである。わたしの前世はマジシャン。こういった小道具の扱いはお手のもの。
「そうなの? 言われても分からないわ。でもあなたには違いが分かるのね」
「ええ。プロですから」
正確には元プロというところ。
こっちの世界に来てからも腕は錆びついていなくて良かった。
トランプの裏面はまだら模様になっている。
このイカサマトランプでは、そのまだらの空白の間隔がジョーカーだけ狭くなっている。
人間の目というものは、有るものが無かったり、無いものが有ったりするのは気付きやすいように
「私には分からないけれど、あなたは私の手札からジョーカーを引くことはないということなのね」
「そうよ。そしてもう一つ、仕掛けがあるのだけれど、分かるかしら?」
「仕掛け?」
「ええ。ターヤがわたしの手札からカードを引くとき、必ずジョーカーを引く仕掛けよ」
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