第2話
パーカーが喫茶店を出るのを見送った後、電子マネーで会計を済ませ、店を出た。
太陽が昇り、空は澄み切った青に輝いていた。だが、この超高層摩天楼が林立し、その隙間を埋めるかのように
だが、それでも空を飛び回っている連中はましな方だ。自分がいる地上はあの摩天楼とはかけ離れて薄汚れていた。
ここには空をくっきりと映し出すような磨き上げられた硝子張りの壁はない。アスファルトの道路に、煤けたトタン屋根の家々、ほとんどスラムと言っていい。
少し歩けば、ヒッピーみたいな連中やヒップホップカルチャーに毒された連中、過激な
ふう、と息を吐き、メンソールの煙草を
今の時代、金持ちは何から何までバックアップを取ることが当たり前になっていた。万が一病気になったり、酒の飲み過ぎで肝硬変にでもなったりすれば、医者にかかるのではなく、豚や牛を使って培養しておいた専用の
だが、それは金持ちに限った話だった。自分のようなしがないサラリーマンにはそこまでの金はない。せいぜい生体マイクロチップを埋め込んで電脳化し、型落ちの
短くなっていく煙草を片手にこれからどうしようか考えた。
また二人に会いたい、ふとそんな想いが湧いた。二年前に
ふっと息を吐いて、
*
訪れた場所は、妻と息子が眠る場所だった。とは言っても遥か昔の人間の文化にあった霊園などではない。デジタルコンストラクトが保管されているデータセンターだ。
目の前には三メートル近い高さの真っ黒な物理サーバーが置いてあった。自分の電脳からそこに接続すると、アカウントの認証を求められた。
頭の中でパスコードを思い浮かべると、
――認証されました。
その文字が
古いSF映画にあるような青一色でできた子供騙しのものではない。触れられるのではないか、そう思わされるほどリアルだ。
――お帰りなさい、あなた。
――父さん。また来てくれたの?
目の前に映し出された妻と息子のホログラムがそう語り掛けてきた。それを聞くだけで涙が出そうになる。
「また、来たよ。五日前にも来たばかりなのに」
そう
――いいじゃない、そんなこと。私達は家族なんだから。
妻の口調は生前と何一つ変わらなかった。
もちろん、この反応パターンが加工されたものだとは知っている。利用者の足を遠のかせないように、敢えて厳しい言葉などは掛けないように設定されているのだ。そのおかげでここに来る人間は、もう二度と会えないはずの人間と理想的な時間を過ごすことができる。
サーバーに再現された
だが、あの
もう一度でいいから二人に会いたい、そう何度も願った。そして、自分は弱い奴だ、という考えから、弱い奴でもいい、という諦めのような境地に至った。
そこからの行動は早かった。妻と息子が保存していた
――何かあったの?
「いや、仕事帰りでさ。二人に会いたくなったんだ」
――そう、お疲れ様。上手くいきそう?
「まだ、分からないよ。でも手応えはあったんだ」
――なら、よかったじゃない。毎日精一杯、後悔がないように生きなきゃ、だものね。ねえ、フレッド。パパ、お仕事頑張ってるんだって。
ホログラムの妻が息子の頭を撫でながら語り掛けた。
――お疲れ様、パパ。
「ありがとう。それでさ」
そう言いかけたときだった。
――サーバー接続限界です。
電脳の中で警告音と共にアナウンスが流れた。
「ちょっと待って」
そう言いかけたとき、二人のホログラムは消えていた。
ぐっと奥歯を噛み、喉に湿りをくれた。まるで
ふっと息を吐いて、その場を離れた。
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