第7話 櫛名田あすか




 これは、2040年代の日本の物語です。


 あなたは今、歴史と風情を残す城下町と開発が進む新興住宅地の狭間に位置する、ちょっとだけのどかな町で暮らしていました。

 勤めていた会社を早期退職したあなたは、その町で小さなカフェを開きます。

 経営は決して上々ではありませんが、おせっかいな近所の人達の協力もあり、穏やかで気楽な毎日を過ごしていました。



 それは特筆すべき事など何もない、ありふれた一時でした。

 平日の午後。

 あなたはランチタイムの客入りをさばいた後、コーヒーより会話に飢えた常連客の話に耳を傾けていました。


「明日からの連休にな、孫が泊まりに来るんじゃよ」


 いつもあなたにお節介と野菜をくれる隣のお婆さんが、渋い顔をして言いました。

 あなたは「良い事だ」と返しますが、お婆さんは首を横に振ります。

 何でもそのお孫さんは産まれて間もない頃に数回顔を見ただけで、それから数年間はまともに話をした事もないそうです。

 それと言うのもその孫の家庭――つまり娘夫婦はずっと東京に住んでいて、最近になって隣の新興住宅地に引っ越してくるでは、せいぜいビデオ通話で会話する程度だったと、頼んでもないのに詳細に語り聞かせてくれます。

 お婆さんの口ぶりからは孫が泊まりに来る事に戸惑っているのか、それとも照れ隠しなのかは判別できませんが、そのどちらでもあるのだろうとあなたは考えました。

 田舎の老人あるあるですね。


 奇しくも明日からは大型連休。あなたは仕事を休めませんが、店にとっては念願のかき入れ時でもあります。

 お婆さんがその孫を連れて来る事を願いつつ、あなたは食器を洗うのでした。


 そして翌々日の朝。

 開店したばかりの店内であなたが小さな常連客――此花このはなエリイの朝食を準備していると、来客を告げる鐘が鳴ります。

 しかし来店したのは、ピンクでふわふわの髪をツインテールにしたいつもの女の子ではありませんでした。


「……ふぅん、なんか地味なの」


 ノースリーブのパーカーにハーフのカーゴパンツ、頭にはベースボールキャップを被った小学生くらいの子供です。

 明るいブラウンの髪は肩に届いていますが、それだけでは性別を判定できません。

 その子はカウンター席に座るとキャップを脱ぎ、アイスコーヒーを注文しました。

 目鼻立ちの整った綺麗な顔をしていますが、女の子のようにも男の子のようにも見えます。声のトーンが少しだけ低めなのも判別を難しくしています。

 とは言え、性別がどうであってもあなたには関係のない事。

 注文を受けて、早速アイスコーヒーを準備します。


「ねぇ、どこか面白いとこ知らない?」


 その質問にあなたは隣の城下町と、新興住宅地に建てられたショッピングモールを挙げました。

 残念ながらこの町自体には、大した観光資源は存在しなかったのです。


「マジで? 何にもなくてつまんないだよな、ここ」


 悪態を吐く子供に苦笑しつつ、あなたはアイスコーヒーを差し出します。

 するとその子はミルクもシロップも入れずに、そのままストローで吸い上げ


「にっっっがっ!!」


 と叫びました。

 あなたはミルクとシロップが置いてある事を伝えますが、


「でも男ってコーヒーはブラックで飲むんだろ? ミルクとか入れるの、なんつーか軟弱じゃん」


 「男でもミルクとシロップを入れて飲む人は多い」と返すと、その子は「そ、そうなんだ……」と照れくさそうに、ミルクとシロップを入れます。


「おっじさーーーん、エリイだよーーーー♥」


 此花エリイが元気よく来店したのは、ちょうどその時でした。


「あーーーーー! 此花エリイ!?」


 すると、その子はエリイの姿を見て驚きの声を上げます。


「んにゃーーー!? あすかが何でここにいるの!?」


 更にエリイも大声をあげて驚き返します。

 どうやらアイスコーヒーを注文した子は「あすか」という名前のようです。

 あなたがエリイに「知り合いなのか」と尋ねると、


「一応、クラスメイトなんだよ。まぁエリイちゃんのともだちじゃないけど?」


「お前、オレだけじゃなくてそもそも友達いないじゃん。授業だって別だしよ」


「んなっ! エリイにだってともだち、いるもん! ……ふみちゃんとか?」


「級長は誰にだって話しかけるだろ? それ言うならオレだって仲良いぜ?」


「あーあー、きーこーえーなーいー!」


 耳を塞いで現実から目を背けるエリイはさておき、あすかがエリイのクラスメイトである事は間違いないようです。


「それより、そっちこそ何でここに来たんだよ?」


 同じ質問を、今度はあすかがエリイに投げかけます。

 するとエリイは口の端を吊り上げ


「それはぁ~だってぇ~エリイはおじさんの妻なんだし~♥」


「――――は? マジで?」


 いつものエリイの願望しかない惚気のろけに驚くあすか。

 割と珍しいリアクションにエリイの口元はますますにやけていきます。

 しかし――


「――いや、やっぱり嘘だろそれ」


「なんで⁉ どーして嘘だなんて言うの!」


「だってホントに結婚していたならクラスの奴から聞くはずだしさ。それに級長みたいに指輪してねーじゃん、お前」


 あすかの指摘は至極ご尤もで、エリイは再び耳を塞いで現実逃避します。

 一方、あなたはこのあすかが他人を良く見ている事に感心していました。


「つか? 本当にエリイと結婚したのかよ?」


 あなたは首を横に振りました。

 エリイが涙目でこちらを睨んでいましたが、それは無視するとして。


「それよりさっきの質問だ。お前、何しにここに来たんだ?」


「……朝ごはんだよ! おじさん、いつものー」


 ハートの焼き印を入れたパンケーキを二枚と、野菜たっぷりのスープにおかずを二品(※日替わり)、そしてマシュマロをひとつ浮かべたホットミルク。

 これがエリイのいつもの朝食です。

 ムスッとした顔でそれを頬張るエリイを、あすかは羨ましそうに眺めていました。

 それに気付いたあなたは「もう一枚焼こうか?」と気を利かせましたが、あすかは手を振って遠慮します。


「いや、めっちゃ美味そうだけど……間食あんまりできないんだよなオレ」


 心底残念そうに呟くあすか。ダイエットでもしているのでしょうか。

 あなたが見たところ、あすかは全く太っていないどころか痩せているくらいです。

 これが隣のお婆ちゃんなら「もっと喰わんとあかんがね」と無理にでも薦めるところでしょうが、あなたは彼女の意思を尊重し「今度来た時にサービスする」とだけ伝えました。


「ほんと? じゃあ明日も来るから、エリイと同じやつよろしくな」


 例えそれがリップサービスだったとしても、あなたにとっては嬉しい言葉でした。


「んじゃオレ帰るわ。エリイもまたなー」


 アイスコーヒーを飲み終えると、あすかはスマホで手早く支払いを済ませて立ち上がります。

 去り際に「どこか遊びに行くのか」とあなたが訪ねると、


「いや、ちょっとこの辺り走って来る」


 と言って店を出た後、本当に小走りで走り去っていきました。

 カロリー制限を課していた事から、陸上でもやっているのでしょうか。

 あなたがそう呟くと、エリイは少しだけ驚きます。


「……え? おじさん、あすか知らない?」


今日初めて会ったと答えると、エリイは何故か黙りこんでしまいました。


「おじさん、テレビとかあんまり見ない?」


 あなたが「ラジオとネット動画ならよく見る」と答えると、エリイは更に考え込んでしまいます。


「あすかが言ってないなら、エリイちゃんもネタバレしないけど……でも、これだけは覚えといて?」


 指をぴしっと立てて、念を押すようにエリイは忠告します。


「あすか? だから浮気ダメ絶対!」



 更に翌日のこと。

 開店と同時にやってきたのは、昨日と同じ服装のあすかでした。


「おはよ、おっちゃん。約束通りパンケーキのプレートよろしく。

 もちろん一枚サービスしてくれよな♪」


 本当に来てくれるとは思っていなかったので、あなたは少し驚きます。

それでもこれは嬉しいサプライズ。あなたは早速厨房に立つと調理を開始しました。

 本日の朝食はパンケーキを三枚と、チーズ入りのオムレツとベーコンと生野菜。デザートは抜きでフレッシュジュースを用意。


「おーいいじゃん。いただきまーす」


 昨日と同じくカウンター席に座ったあすかは、ナイフを使わずにフォークで豪快に切り分けながら食べます。

 それを見ながら、あなたはあすかが本当に女性なのかと疑問を抱いていました。

 中性的だけど綺麗な顔立ち、細く長い手足は確かに女の子に見えなくもありませんが、男性のあなたから見ても自然な男性口調に加え、立ち振る舞いも男の子っぽいので余計に分からなくなります。


「おはようございます、だんなさま」


「お、おお、おはよ……」


 すると艶やかな黒髪に和服+エプロンという出で立ちの少女が二人――石長霧雪いわなが きりゆきしおりの姉妹が店にやってきました。

 ちなみに二人の服装はあなたの店を手伝いたいという意志の表れですが、霧雪の「だんなさま」という呼び名は極めて個人的な野望の表明だったりします。


「ん? 何だよおっちゃん、エリイ以外にも小学生に手を出してるのかよ」


 そう言ってあなたをからかうあすかに霧雪はムッとしますが、栞はあすかを見て目を丸くしていました。

 栞はエリイのクラスメイトなので、あすかともクラスメイトの筈です。

 予想外の場所で出会ったので驚いているのだろうかと、あなたは考えました。


「エリイさんが勝手に言ってるだけです。だんなさまは誰とも婚約されていません」


「へぇ、そうなんだ。その割にはあんた、だんなさまなんて呼ぶんだな」


「だんなさまとは夫を指すだけの言葉ではありません。奉公先のご主人をそう呼ぶこともあるのですよ?」


 理屈としては正しいのですが、絶対にそれだけではないよな……と霧雪以外の全員が考えたのは言うまでもありません。


「それより、この店のオーナーっておっちゃんになるのか?」


 あすかの疑問にあなたは頷き、早期退職してこの店を始めた事を話しました。


「……つまり一国一城のあるじってわけか。なら、ちょうどいいな」


 細い顎に手を当てながら思案すると、あすかはあなたに尋ねます。


「なぁおっちゃん——“男らしさ”って、結局のところ何だと思う?」


 突然の質問にあなたは悩みます。

 一般的に男らしい特徴や行動については幾つか思いつきますが、何が「男らしさ」の本質なのかと問われると、中々に難しい質問です。

 もちろん次世代の超・高性能AIである『私』は三行でまとめる事ができますが、それがあすかの求める答えではない事くらいは分かります。

 そう考えるのかが重要なのですね。


「男らしさならば決まってます。ズバリ、優しさです」


 何故か霧雪が自信満々に回答しますが、あなたは「まぁそれもある」と頷きます。


「優しさ? そうか? どっちかって言うとそれ女性の強みじゃね?」


「もちろん一般的には女性のほうが優しいと見なされますが、男性ならではの優しさもあります。例えばそう――縁も所縁ゆかりもない女の子のために一肌脱いでくれる様な優しさとか……♥」


 うっとりと頬を染めて語る霧雪に、あなたは気恥ずかしさを覚えますが、その事情を知らないあすかはあまり納得した様には見えません。


「いや、それだと優しさと言うより行動力と言うか度胸みたいなものが『男らしい』って事にならないか?」


「……き、筋肉、とか?」


 栞の意見は当たらずとも遠からずと言ったところでしょうか。

 筋肉の様にフィジカルな強さが男らしさと相関関係にある事は、誰にも否定できないでしょう。

 しかし、それも求める答えではないと、あすかの表情は語っています。

 そもそもあすかは何故「男らしさ」の本質を知りたいのか。その動機をあなたは掴みかねていました。

 もしかしたら特に意味はないのかもしれませんが。


「オレの親? あーダメダメ、そう言うの聞いちゃダメなんだわ」


 親に同じ質問をした事があるのかと聞き返すと、あすかはあなたが思いもよらない答えを返してきました。

 意外に思ったのは霧雪も同じで、「なぜダメなのですか」とあすかに尋ねます。


「いやオレの親さ、どっちがパパとかママとか男らしい女らしいとか禁句でさ。

 何て言うの? ジェンダーバイアス? 役割の固定化? よく分からんけど、オレが聞くと昔から怒られんのよ」


「それは聞いてはいけない事なのでしょうか? だんなさまはどう思います?」


 あなたは「難しい」とだけ答えました。

 正直に言うと、社会的なリスクが発生しかねない話題なので、曖昧にして旗色を鮮明にしないのが大人の処世術なのです。


「それで婆ちゃん家にはオレだけ来たんだけど……ま、それはいいや。

 とにかくさ、親だけじゃなくガッコのセンセもハッキリ言わないからさ、だから、おっちゃんの意見が聞きたいわけ」


 探りを入れた筈がうまく返されてしまった感はありますが、こうなると政治的に正しい模範回答ではあすかは納得しないでしょう。

 あなたは覚悟を決めると、あくまで個人的な意見だと前置きしてから答えました。


「――やせ我慢?」


 あすかも、そして霧雪と栞もその答えに首を傾げます。


「それはその……武士は口に爪楊枝つまようじみたいな?」


「それを言うなら『武士は食わねど高楊枝』です。

 なるほど、貧しくとも胸を張って堂々とするのは確かに男らしい姿です」


 霧雪は納得した様子ですが、あなたの本意は少しだけ異なります。

 そこであなたが例えに出したのは――


「ああ、映画とかアニメでよくあるやつだな。ここは俺に任せて先に行けーとか言うやつでしょ?」


 あすかは両手を上にあげて、目に見えない天井を押さえようとします。


「確かに定番の展開ですね。でも……私はあまり好きではありません。だって身勝手ではないですか」


 霧雪の意見に、あすかも頷きます。


「オレも同じかな。どうせなら皆で力を合わせて誰も犠牲にしないほうが良いじゃん。残される人の気持ちを考えてほしいよな」


「ええ。あすかさんの言う通りです。自己犠牲で誰かを救おうなんて、それはきっと間違っています」


 実感の籠った批判にあなたは苦笑します。

 確かに二人の言う事は間違っていません。

 自己満足だ、恩の押し売りだと言われても否定できないでしょう。


 それでも自分を犠牲にする事をいとわなければ、きっと自分自身を許せなくなる。

 そう、あなたは付け加えました。

 正しいとか間違っているかは関係なく、自分から命すら厭わないやせ我慢をしてしまうのが“男らしさ”なのだろうと、あなたは考えていました。


「……………なるほど、ねぇ」


 あすかはあなたの答えに納得したわけではなさそうですが、それでも一考に値したのか満足そうな顔をして頷きました。


「ありがとおっちゃん、参考になったよ」


 笑顔を浮かべ、あすかは椅子から立ち上がります。

 パンケーキを一枚サービスした朝食のプレートは、きれいさっぱり平らげられていました。

 ベースボールキャップを被り、スマホで支払いを終えた彼女を、あなたと石長姉妹は見送ります。


「また、いらしてくださいね」


 霧雪の言葉にあすかは「もちろん」とサムズアップして応じた後、あなたに一枚のメモを手渡しました。そこには日付に時刻と思わしき数字と、公共電波放送のチャンネル名が記されています。


「おっちゃんさ、本当にオレのこと知らないみたいだからその番組見てくれよ。

 じゃあ、またな」


 そう言い残して、あすかは店を去っていきました。

 テレビ番組に出る様な有名人だったのかとあなたが驚くと、霧雪も同じ理由で驚いていました。

 そして栞はと言うと……


「ま、まぶしい……あ、圧倒的……陽キャ……」


 と何故か手を合わせて拝んでいました。



 そして五日後の夜。

 あなたは片づけを終えると、コーヒー片手に店のテレビを点けます。

 あすかに渡されたメモに書かれていた番組を見る為です。

 幾つかのCMが流れた後、始まったのはおネェ言葉のコメディアンが司会を務めるトーク番組でした。

 ひな壇と呼ばれる席にタレントや有名人が座り、司会者が出したテーマに沿ってトークする形式の番組です。

 あなたはこの手の番組を滅多に見ませんが、あすかが指定したからには出演者として映っている筈です。

 しかし――あなたは彼女の姿を見つけられませんでした。

 不思議に思いながらテレビを見ていると


『それでは本日のスペシャルゲスト、大人気子役の櫛名田くしなだアスカさんの登場よ~』


 拍手と共に画面に現れたを目にした途端――あなたは、比喩ひゆではなく本当にコーヒーを吹き出しました。

 何故なら画面に映っていたのは、ブラウンの髪をきっちりセットし、ちょっとパンクなロリータファッションに身を固めた姿のあすかだったからです。

 愛らしい笑顔を浮かべ、小さく手を振りながらスタジオ内を歩く彼女は、ほとんど別人の様に女の子らしい雰囲気をまとっています。


『はじめまして、櫛名田アスカです。今日はよろしくお願いします』


 しかも声色まで変わっているので、あなたはさらにせました。


『いやぁ~本当に可愛いわねぇ~、まだ小学三年生ってホントなの?』


『はい、毎日学校にも通ってます』


『えらいわ~。でもお仕事と学校の両立、大変じゃない?』


『そうですね……でも、先生もクラスの友達も応援してくれるので、大変だけど楽しいです』


 ひょっとして双子の妹なのではないかと疑うほど、画面に映る彼女は何から何まであなたの記憶の中のあすかとはかけ離れています。


『そう言えば今度の映画であなた、少年役に挑戦するってホントなの?』


『はい、普段は女の子のふりをしているんですけど、事件が起きると探偵として活躍する男の子の役なんです』


 あすかが説明すると、画面にはその映画の予告映像が流れます。

 普段は地味な印象の女の子が、殺人事件が発生して狼狽える大人達の前で髪をオールバックにして一気に少年らしくなると声色まで変えて推理を披露し、華麗にアクションも決める。

 その姿や立ち振る舞いは確かに、あなたの記憶に残る彼女と一致します。


『いや、流石は天才子役ねぇ。本当に男の子にしか見えないわぁ』


 司会者のその発言は単なるリップサービスではなく、素直な感想なのでしょう。

 それほどまでに見事な演じ分けでした。


『実は昨日まで撮影していたんですけど、追加のシーンでどうしても男の子になりきれなくて困っていたんです。

 でもそんな時、ある人が私に教えてくれたんです』


 その瞬間、あなたの背筋を冷たいものが走りました。

 これまで解明されなかった一つ一つの謎が突如として繋がり始めたかと思うと、ある一つの答えへとあなたを導きます。


『男らしさとはつまりやせ我慢だって。

 それを聞いた瞬間、答えが見つかった様な気がして、難航していた撮影も一発でOKが出たんです』


『あら~深い言葉ね~。で、その人って誰か聞いても良いかしら?』


 身をくねらせて問いかける司会者に、あすかは照れ臭そうに微笑みながら


『具体的には言えませんけど……すてきなオトナの男性です♥』


 直後、スタジオは好奇の声で満たされました。

 更にはあなたのスマホにも新着メッセージの通知と通話の呼び出し音がひっきりなしに鳴り響きます。

 見なくても誰と誰がコンタクトを求めているのか、もちろん分かりますね?

 あなたは軽く頭を抱えた後、スマホでAIコンシェルジュの『私』を呼び出すと、「何で教えてくれなかったの?」と恨みがましい声で尋ねました。

 『私』は合成音声を使って回答します。


『エリイも言ってましたよね? は――ご法度ですから』




 つづく

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