不幸の手紙
「……どこだ、ここ」
目が覚めると知らないベッドに寝かされていた。
そして近くにいた男が俺が起きるのを見るなりどこかへ人を呼びに行った。
俺は倒れる前のことを思い出し、逃げようとするが、遅かった。
「リヒトさん! 大丈夫ですか?」
「……大丈夫です」
あなたが来たから大丈夫じゃありませんなんて言えるわけないよな。
「良かったです。リヒトさんが倒れたって聞いて、心配したんですよ」
「……俺はもう大丈夫ですから、もう行きますね」
そう言って俺は立とうとするが……
「ま、待ってください。念の為暫くは安静にしておかないと……」
そう言う主人公に止められてしまった。
強行突破……は無理か。後ろに騎士っぽい人も控えてるし、そもそもそんなことをして余計にこの主人公に付きまとわれたらたまらない。
「ほんとにもう大丈夫なんですが、分かりました。もう少しこのままで居させてもらいます」
「はい!」
微笑みながら頷く主人公。
危ないな……もし主人公じゃなかったら惚れてたぞ。
「イミーナ様、リヒトさんにお渡しするものがあるのでは?」
後ろに控えていた騎士が、主人公に向かってそう言う。
「そういえばそうでしたね。リヒトさんの意識が目覚めたことが嬉しくて、すっかり忘れていました」
そのまま忘れてくれてて良かったんだけど。
……いや、面倒事と決めつけるのはまだ早いか。……主人公だからって、何でもかんでも面倒事を運んでくるわけじゃないだろうしな。
「リヒトさん。これをどうぞ」
そう言って俺は手紙を渡された。
俺の本能が手紙を今すぐ返せと訴えかけてくるが、受け取ってしまったし、そもそも受け取らないなんて選択肢は無い。
あぁ、ごめんよ本能。俺はお前の言う通りにはできない。情けない俺を許してくれ。
「……これは?」
「この街の領主様からのお手紙です!」
「…………そうですか」
大丈夫だ。まだ、まだほんのひと握りの可能性で面倒事じゃないかもしれない! 希望を捨てるにはまだ早い。
俺は騎士の人に手渡されたペーパーナイフを使い、手紙を取り出し、読んだ。
そこには長々と書かれていたが、簡潔に言うと街を救ってくれた英雄に礼をしたいので、家に招待したいということだった。
しかもご丁寧に日時はいつでもいいそうだ。……つまり予定が合わないという逃げ道がないと。
いや、元から逃げ道なんてないか。貴族なんだから、命令みたいなもんだもんな。
「リヒトさん? 大丈夫ですか?」
「は、はい。大丈夫ですよ。領主様の家に招待されたので、少し緊張してしまったんですよ」
そう言って笑い、誤魔化した。
「なるほど。……大丈夫ですよ、リヒトさん。私もリヒトさんと一緒に行く予定ですから」
え……嘘ですよね? ただでさえ領主の家に行くなんて嫌なのに、主人公まで着いてくるの?
「……流石にいきなりあなたが来るのは迷惑なのでは? あ、いえ、俺としてはものすごく嬉しいんですけどね? やっぱり領主様に迷惑がかかる可能性があるので」
「その辺は大丈夫ですよ。既にこの街の領主様、ロレンツォ様には許可を取ってあるので」
「……そうですか。…………それは、良かった……ははは」
「はい!」
俺はそんなから笑いをしながら、遠い目をするのだった。
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