いや、俺はただあなたから逃げようとしただけですが
宿に帰って荷物を持った俺はすぐに街を出た。
一応一年くらいいた街だったけど、まぁいいか。特に友達とかもいなかったしな。……別に俺は一人でいいし?
「よし、気分を切りかえて新しい街に行くか!」
と言っても何処に街があるのかとか知らないんだよな。……この街から出るつもりなんてなかったし。
まぁ、王都の場所くらいは分かるから、王都の反対に行くか。あの主人公は名前的に貴族ぽかったし、王都に行ったら貴族の情報網でバレる可能性があるからな。
……一応俺って方向音痴なんだけど、明確な目的地もないし、大丈夫だろ。
俺は今めちゃくちゃに後悔している。
「なんで俺は朝に街を出なかったんだよ! クソが!」
走りながらそんなことを叫ぶ。
後ろにゴブリンやオークを引き連れながら。
走りながら叫んだことで、少し冷静になり、思考する。
……え、俺これマジで死ぬんじゃね?
戦う……なんて選択肢は無い。俺でこんな数のゴブリンやオークに勝てるわけが無い。
俺はチラッと走りながら後ろを振り向く。
そこには少なくとも500体は俺を追ってきていると思う。
「ちょ、いくらなんでもこの数はおかしいだろ!?」
いくら夜だからとはいえ、この数は明らかにおかしい。
そう思ったところで俺は思い出す。主人公が事件を呼び込む存在だということを。
…………いや、流石に違うよな?
「リヒトさん! 大丈夫ですか!」
俺はその声を聞いた瞬間「あ、これ確定だ」と思った。
そして俺を追ってきていたゴブリンやオーク達は一瞬で凍り、粉々になった。
「っはぁ、はぁ……」
「リヒトさん! 怪我は無いですか?」
「……大丈夫です」
……まぁ、これはこれでちょうどいいか。これでこの主人公からしたら恩は返せたはずだ。
「ありがとうござます! 本当に助かりました! これで恩は返してもらいました! ですのでお礼の話は――」
俺がそこまで話したところで主人公は涙を流し始めた。
なんで?
「リヒトさん……大丈夫です。私は全部気がついていますから。そんな演技をしなくても大丈夫です」
「…………?」
「リヒトさんは誰よりも早く街を魔物が包囲していることに気がついて、街から遠ざけてくれたんですよね?」
何を言ってるんだ? この主人公。……よく分からないが、ちょうどいい。この主人公が言っていることを利用して、俺に失望してもらおう。
「いえ、俺は街を魔物が包囲していることに気がついて、自分だけでも助かろうと逃げようとしただけですよ」
「リヒトさん……」
そうだ。失望しろ。そしてもう俺に関わるな。
「そんな演技をしても無駄ですよ。だってもし逃げるつもりなら、わざわざ街を一周して逃げる必要なんて無いですから」
……? 何を言って……
そう考えたところで、兵士と何人かの騎士達が俺たちの元にやってきた。
「イミーナ様! ご無事ですか!」
「はい、私は大丈夫です。それよりもリヒトさんをお願いします。私はリヒトさんの功績を皆に伝えてきますから」
え? 俺の功績? いや、待って? それ全部勘違いだから。知らないから。俺はただあなたから逃げようとしただけなんです! だからやめて!?
俺は余計なことをしようとしている主人公を止めようとしたところで、騎士が支えてくれた。
「大丈夫ですか? ……私どもが街まで連れていくので、もう休んでいてください。あなたは英雄なんですから」
違う……そう言おうとした。ただ、さっき死にかけていた所を無事にたすかり安心したからか、俺の意識は暗闇に引っ張られていった。
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