主人公はしつこい

「ポーションを置いていっただけですよ。特に外傷も見られませんでしたし、役に立ったとは思わないんですが?」

「いえ! すごく役に立ちましたよ!」


 ……まじか? かなりの安物なんだがな。……いや、俺にとってはもちろん高い代物だったけど。この子にとっては安物のはずだ。


「そう、ですか……」

「はい! ですからお礼をさせてください!」

「お、お礼なんて大丈夫ですよ。それよりも、俺は依頼があるので、それでは」

「あっ、待ってくだ――」


 聞こえないふりをしつつ、俺はギルドから出た。

 依頼を受けられなかった。……でもしょうがないだろこれは。適当な薬草でも集めに行くか。

 

 俺は森に向かった。薬草を集めて売るために。

 俺の鑑定スキルさえあれば、薬草集めなんて余裕だ。





「よし、このくらいでいいかな」


 取りすぎたら怒られるしな。

 と言うか、魔物に一回も遭遇しなかったな……まぁ、ラッキーだったってことでいいか。帰ろ。


 俺はほくほく顔で門番に挨拶しながら街に入った。

 ギルドに売りに行くか。あれから結構時間も経ってるし、もうあの主人公も居ないだろ。

 

「あっ、待ってましたよ!」


 そう思いながらギルドに入ったのがだめだったのか、主人公が居た。……なんならすごい笑顔で俺に話しかけてきてる。

 

「もう! さっきは急にどこかに行っちゃうんですから……」

「あ、あぁ……急にトイレに行きたくなったんですよ」

「? 依頼と言っていませんでしたか?」


 そう可愛く首を傾げながら尋ねてくる。

 そうだった! 依頼って言って出てきたんだった。……くそ、完全に忘れてた。


「いえ、言ってませんよ?」

「そうでしょうか……まぁ、いいです! 今度こそお礼をさせてもらいますからね!」

「あ、すみません。薬草を持ってきたので買い取ってください」


 俺は主人公を無視して受付の人に話しかけた。


「あ、はい。では薬草を見せてください」

「はい」


 俺は薬草を銀貨8枚で買い取ってもらった。

 思ったより高かったな。今日こそ酒を飲むか!


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ」


 ……声をかけられてしまった。

 聞こえないふりをしてもいいが、さすがに二度目はな……


「はい、なんでしょうか」

「お礼をさせて欲しいんです」

「……分かりました。ただ、明後日でいいですか?」

「は、はい! 大丈夫です! あ、それで私イミーナっていいます。よろしくお願いします」


 名乗られてしまった。……俺も名乗らなきゃだめ……だよな。


「俺はリヒトといいます。では、今日のところはこれで」

「はい! 明後日はリヒトさんの所まで迎えに行きますね!」

「はい、ではこれで」


 俺はギルドに背を向けて宿に向かって帰る。

 さて、帰ったら荷物を持って街を出るか。

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