鑑定スキル持ちの俺はある日倒れている主人公を見つけた〜主人公の近くにいたらやたらと事件に巻き込まれるので俺のことは放っておいてくれ〜

シャルねる

倒れている主人公を見つけた

「おめでとうございます。これでリヒトさんもDランク冒険者ですよ」

「はい。ありがとうございます」


 受付の人にそう言われた俺はお礼を言いながら冒険者カードを返してもらい、ギルドを後にした。

 特に何事もなくDランクになったな……1年かかったけど。


 15歳で冒険者になった俺はウキウキ気分で、自分を主人公だと信じて疑っていなかった。

 なぜなら鑑定スキルなんていう超レアスキルを持っていたからだ。

 ただ、この1年で自分が主人公なんかじゃないと思い知らされた。……鑑定スキルは間違いなく使える。単純に敵の弱点とかも分かったりするしな。……ただ、弱点がわかったところで身体能力が平均的だったら意味が無い。


 まぁ、もういいけどな。俺は適当に過ごせたらそれでいい。英雄願望なんてとっくの前に無くなってる。……そもそも物語の主人公って面倒くさそうだしな。色々事件に巻き込まれて。


 そんなことを考えながら、今日はせっかくDランクに上がったんだし、贅沢して酒でも飲もうかなぁと思い至ったところで銀髪の少女が倒れているのが見えた。

 俺は慌ててその少女に駆け寄り、声をかける。


「お、おい! 大丈夫か!?」


 返事はなかった。

 一瞬死んでるのかとも思ったが、よく見ると息があった。

 

「良かった……寝てるだけか?」


 だとしてもなんでこんなところで寝てるんだ? ……分からん。もう放っておこうかな。

 一応鑑定してから考えるか。

 

 名:イミーナ・メイエリング

 年齢:16歳

 スキル:魔力無限

 称号:神の加護を受けしもの、主人公

 弱点:耳

 

 …………よし、見なかったことにしようか。

 そう考えた俺はその場を立ち去ろうとするが、ふと不安を覚える。

 このまま立ち去って大丈夫か? 神の加護とか書いてあったぞ? 俺がこの子を見捨てたと判断されて、天罰でもくらったらどうする? ……よし、ポーションを置いていこう。これなら見捨てたことにはならないはずだ。


 俺は少女の傍にポーションを置き、借りている宿に向かって走った。

 今日は帰ったら寝よう。もう酒なんて飲んでる気分じゃねぇし。





「んー、よく寝た……」


 昨日のことがあったので、正直まだ宿の外に出たくないけど、依頼をしに行かないと金がないんだよな。……まぁ、まだあの主人公がこの街にいたところで会うことは無いだろ。割とこの街って広いし、そもそも主人公なんだから何かの事件に巻き込まれてるかもしれない。大丈夫だ。


 そう考えてギルドにやってきた俺は、初めてのDランクの依頼ということもあって慎重に選ぶ。

 ……これにするか。


「あ、あのっ!」


 依頼を選んだので、受付の人に持っていこうとしたところで後ろから声をかけられた。

 振り向くと、主人公が居た。


「げっ」

「え?」

「あ、いや……何か用ですか?」


 思わず出てしまった声を誤魔化しながら、逃げ出したい気持ちを抑えて要件を聞いた。


「はい! 昨日私を助けてくれたみたいだったので、お礼をしたいと思いまして」


 お礼ならもう関わらないでくれ。そう言いたい気持ちを抑えて、答える。


「なんの話だ……ですか?」

 

 そうだ。あの時は確実に意識がなかったはずだし、多分確信があるわけじゃないはずだ。


「誤魔化さなくても大丈夫ですよ! 私には分かりますから」


 ……なんでかは知らないが、マジでバレてる感じか? いや、だとしても俺は別に助けた訳じゃない。なんなら逃げたし。


「……確かに、昨日倒れてるところを見ましたが、俺は何も出来てませんよ」

「いえ、ポーションを置いていってくれたでしょう? それのお陰で助かったんですよ!」


 そう可愛らしい笑顔で言ってくる。

 もしこの子が事件を呼び込む主人公なんかじゃなかったら俺も素直に嬉しかったかもしれない。でも、主人公なんだよなぁ。

 俺はどうにかこの場を切り抜けようと、知識を振り絞るのだった。

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