第8話

あの後、僕は藍原さんと付き合うことを了承した。

流石に僕の女装姿を晒されるのは、今後の人間関係を考えると精神的にきついものがある。常に人に奇異な目で視られて、腫れ物のような扱いをうけるかもしれないことは、何よりも耐え難い。

だから、僕は抵抗や拒否というものをしなかった。

そして、僕は今日から藍原さんの恋人となったのだった――


「お帰りなさい。お兄様」

家に帰るとさゆりが僕の帰宅を待っていた。

「ただいま、」

「今日も、随分と遅かったですね」

“今日も”と強調されて、少しドキッとした。

胸の高鳴りが鳴りやまない。

いつ、さゆりの逆鱗に触れるのか気が気ではなかったのだ……

誤魔化すために僕は失笑して返した。

「少し、友達とぶらぶらしてたんだ」

「へえーそうなんですね」

さゆりは微笑んだ反応を見せたが、目は虚ろなままだった。

「もうすぐ夕飯できますので、少々お待ちください。準備している間にお風呂に入られてはどうでしょう?お兄様、匂いますから――」

匂う?

僕はそんなにも匂っているのだろうか。

「わ、わかった」

うふふとさゆりはまた微笑んだ。


翌日。

いつも通りの朝を過ごし、学校に登校する。

昇降口でまたしても藍原さんと遭遇する。

昨日の公園での様子とは打って変わって、いつもの藍原さんだった。

チャーミーな花柄の髪飾りをつけていた。

黄色に白い花びらで囲まれたマーガレットの花だった。

「おはよう。詩音くん」

「あぁ……おはよう、藍原さん」

「そういえば、今日の放課後は暇かな?」

今日は何も用事が入っていないのに言い訳を考えようとする自分がいた。

「日誌をしないといけないかな……?」

別に嘘はついていない。

いつもなら、「日誌が終わったら暇だよ」というところが、今回はこういった遠回しの言い方になった。

「じゃあ、私も手伝うよ!同じ学級委員だからね!」

「う、うん。ありがとう藍原さん」

藍原さんが至近距離まで近づき、耳元でささやく。

「どういたしまして。詩音ちゃん」


放課後。

日誌を書き終えた僕たちは、いつもの通り道を歩いていた。

「今日はショッピングモールに行ってみようかなー」

さゆりは僕と手をつないで歩いていた。


ショッピングモールに到着すると、持参していた紙袋を僕に渡してきた。

何か既視感を感じて、身構える。

「じゃあ、これ着てね。多分、サイズは大丈夫だと思うから」

「………え?」

紙袋のなかを確認したら、うちの高校の女子の制服が入っていた。

「これを着ろってことなの?」

「そうそう」

「いや、流石にそれは……」

「だめだよ。私は詩音くんの女装姿が好きなんだから」

そう言うと携帯を取り出し、例の写真を見せてくる。

「じゃあ、よろしくねー」



化粧室から出てきた僕を見て、藍原さんは歓喜の声をあげる。

「きゃあ!可愛い!詩音ちゃん可愛いよー!!」

「…………ぁぁ」

あまりの羞恥心に喋ることすらままならない。

顔全体に熱さが伝搬していくのを感じる。

頬は薔薇のように真っ赤に染まって、耳なんかは充血しているような熱さだった。

スカートは何度履いても慣れない。

普段はズボンを履いていて、風を防止しているのに、スカートになると通気性が良く、適度に風が入ってくるのでスウスウしてくすぐったい。

それがとても違和感を感じて落ち着かなかった。


「詩音ちゃんと初デート!わたし、緊張しちゃうな―。もう胸がドキドキだよ!」

僕もドキドキしていた。胃が痛くてつらい。

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実の姉と義理の妹、僕への束縛が激しすぎる件について 未知 @IIMICHI

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