第2話
ある日の夕方。
妹は部活で家を留守にしていた。
家には僕一人だけだった。
僕はひと時の妹からの解放をかみしめながら、リビングで洋画をみていた。
「あぁ生きてるって素晴らしいな……」
テーブルにはキャラメルポップコーンが置かれ、右手にはコカコーラ。
好きな洋画を見ながら、食べたり飲んだりするのは最高だ。
いつもなら妹に奴隷のように手足を縛りつけられ、行動を制限され、着せ替え人形のようにメイクされたり女性用の洋服を着せられたりしている。妹曰く、それ遊戯を”おままごと”と言うらしい。そんなおままごとあってたまるかって思ったが、妹に逆らうことはできない。
いや、正確には逆らったら、周りに危害が及ぶからできないのだ。
というのも以前、妹に逆らったことがある。
昔は反骨精神というのもあった。
今では妹に従順たるペットだけど――
ちょうど、1年前のことだ。
親が再婚して新しい家族、義理の妹ができてから一か月が経った頃だった。
僕に妹ができたと知り、すごくうれしかった。
以前は姉さんが僕の隣にいてくれた。母親を幼い頃になくした僕には頼れる人が父と姉さんだけだった。父は仕事が多忙な方で休日も出勤していて、なかなか顔を見合わす機会がなかった。当時の僕はすごく寂しく感じていた。そんな僕の様子を気にかけ、接してくれたのは姉さんだった。部活や友達よりも僕を優先してくれて、いつも側にいてくれた。それがとても暖かくて嬉しかった。
だからこそ、頼りにされたいと思ったのかもしれない。
ずっと姉さんに甘えてきたから……
けれど、それがあだとなるとは思わなかった――
その結果、兄を溺愛する束縛激しすぎな妹の完成だ。
あれを溺愛と言っていいのか、狂愛ではないか?
話を戻そう。
そんな妹に抵抗した結果、どうなったのか伝えなければならない。
僕は現在、高校2年生だ。
高校2年に上がりたての頃に同じクラスに好きな人ができた。
今思えば、タイミングが悪かったんだと思う。
好きな人なんてできなければ良かった。
そうしたら、あの子も――
「さゆり、もう縛らないでくれ。僕の自由にさせてくれ」
「なんでなの、お兄様。私はお兄様のことを心配して……」
「心配?束縛の間違いだろ」
「私のお兄様が変わってしまったわ。どうしてなの?どうしてなの?」
さゆりはヒステリックになっていた。
「あの女のせい?きっと、そうだわ。あの女がお兄様をたぶらかしたのだわ。消さなきゃ、消さなきゃ。邪魔者を消さなきゃ」
あの女?誰のことだ?
「大丈夫ですよ。私が守りますからね。お兄様、安心してください。私が……」
その翌日から、僕の好きな人が学校に来なくなった。
その子が学校に来なくなってから1週間たつと、学校から転校した旨が伝えられた。
真相を探るため、この話を妹に問い詰めても……
「お兄様、大丈夫ですよ。私が守りましたから。もう害虫は近寄ってきませんよ」
この言葉を永遠に続けるだけだった。
過去の嫌な思い出を振り返っていたら、急に姉さんのことが恋しくなってきた。
姉さん今頃何にしてるだろう。
友達と遊びに出かけているんだろうか……
それとも彼氏ができていて、デートをしているのだろうか……
久しぶりに姉さんに連絡をとってみることにした。
【姉さん、久しぶり。今度いつ家に帰ってこれるの?】
あれ?
送信した直後に既読がついた。
誰かとラインしてたのかな?
そう思っていると。
ぴこん。
ラインの着信音が鳴った。
姉さんからだ。
【いま家のすぐ近くにいるから、今から向かうね?】
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